悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang

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カシージャス王の宝

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「まぁ!!リュカ!こんなの立派すぎるわ!!!素敵!」



瞳を輝かせ、両手を組んで頬を高揚させたシエラは珍しく感情をむき出しにしてカシージャスへと移転させた新しい「ウェヌス」の建物を見上げた。



「ここでは、王室御用達となる上に隠す必要がないからな。堂々とシエラの管理下で営業してくれてかまわん」



ウェヌスの移転はカシージャスだった。

時間がないシエラに「こちらで全て面倒見よう」と買って出てくれたリュカエルに甘える形となったこの移転策は見事シエラの予想を上回る形で完成した。



「そんな、小さな店を借りれればと思っていたのに……こんな、リュカ……っありがとう!」


思わずリュカに抱擁したシエラを「おっと」と受け止めてから「なんだ、危ないな」と憎まれ口を叩くリュカエルの耳は赤い。



「これは俺からの贈り物だ……シエラ、ようこそカシージャスへ」



併設される邸宅は警備から何まで全て完璧でシエラは感激した。


「国を捨てたのに、こんな素敵な所に住めるなんて……」


「いや……あの、これはウェヌスで働く仲間達の為に準備した住まいなんだ」


「??」


少し言いにくそうに、少し頬を染めて声を落としたリュカエルの言葉を待つ為に見つめていると不意に抱き寄せられ彼の片手で目元を覆われた。


「そんなに、見ないでくれ。穴が開く……」


そして、低く少し震えた甘い声でシエラの耳元でそっと言った。


「婚約者が王宮に住まないといけない規定はないが……」


「リュカ、くすぐったいわ……なに?」


「俺の城に来ないか?シエラの部屋を用意した」


バッと顔を上げたシエラは照れた様子のリュカエルと目が合うと何故だか自分も気恥ずかしくなって目を逸らした。



「けれど……突然他国からきた私を皆怪しむはずよ……」


「それはない、来れば分かる。ただ……」


「ただ……?」


「うちは帝国の城のように多くの使用人は居ない、不便があるかもしれん」


「ふふっ、そんなの気にしないわ。ここは武力とゴールドの国だもの、騎士や影の数の方が多いのは知ってるわ、それに……」


「なっ」

リュカエルの腕の中に居るまま、彼の頬に手を添えてシエラは微笑む。


「あなたが、静かな場所を好む事も……待っていてくれてもよかったのに、一緒に船に乗ってくれてありがとう」



リュカエルは、自分の船で帰る選択肢を跳ね除けシエラと共に大勢の人と荷物の乗る商船テハードを選んだ。


リュカエルなりに、もしもの事があっても自分さえいればシエラを守ってやれると思っての行動だったのだ。


確かな彼一人で一国の軍隊くらいなら壊滅させてしまうだろうその力は例え帝国いちのリヒトであっても敵わなかっただろう。




(好きな女を自分で守りたいだけだ、当たり前だろ)


「当たり前だろ」

「……っふ、私達大親友だものね!」


「え"、いやその……くそっ」


「きゃっ!」


「じゃあ、大親友とこんなコトするのか?」


シエラの腰を引き寄せて抱き締めると頸に触れるか触れないかほど唇を寄せてそう言ったリュカエル、シエラは背中を電気が走る。



「ーっ、みんな見てるのにふざけないでリュカっ」


「他の者とは駄目だが、俺は婚約者だからなぁ……」


そう言ってシエラに口付けると、名残惜しそうに下唇を甘く噛んで唇を離した。


「覚悟しておいてくれ、シエラ」


そう言ったリュカエルがあまりにも色っぽくてシエラは思わずきゅんと鳴った胸を押さえた。



「か、揶揄わないでっリュカ!」



そう言ってウェヌスの奥に入って行ったシエラを微笑ましく見ていたリンゼイとミンリィはふと、リュカエルの赤い耳を見て言う。



「ふふ……シエラ様は真っ直ぐな好意を向けられた事がないので、かなり手強いと思います、陛下」



「そうか、リンゼイ。なら俺も頑張らないとな」


そして、二人を見据えてふと疑問をぶつける。



「お前達、中々の手練れだろう。何故侍女などしている?傭兵や何処かの影として働けば倍は稼げただろう」



「「シエラ様が好きだからです。陛下」」



「……そうか、他の者も皆そうか?」


「はい、シエラ様がどこまで把握されているかは分かりませんが」


「私達の多くが皆同じです。影ながらシエラ様をお守りしています」




「ははっ!有能な者達だな、なら今まで通り片方はシエラと城に……影の者達はウチの奴らと合流しろ。ここは帝国より過酷だぞ」



「「御意」」



(シエラ……お前は国の嫌われ者だと言っていたが、こんなにも仲間に愛されているじゃないか)



「愛され方を知らないのか……?」



「まぁ……ゆっくり伝えればいいか」



そう呟いて気怠そうに、店の奥へとシエラを追って歩いて行ったリュカエルの後ろ姿を見送るリンゼイとミンリィは嬉しそうだった。



(どうか、シエラ様が奪われるばかりではなく自ら望んだ愛を手に入れて、幸せに生きられますように)
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