上 下
47 / 69

手に入らないなんて絶対に……

しおりを挟む


「リヒト様!お待ちしておりました!」


「リヒト……」


貧血だろうか、青白い顔で弱々しくリヒトを呼んだメリーの手首にはぐるぐるに包帯が巻かれている。



傷が浅かったのか、意識が戻っている様子のメリーを見下ろすとビクリと怯えたように慌てて謝る。


「ごめんなさいっ!」


「何故、こんな事をした」


「あぁリヒト……メリーを責めてあげないで頂戴っ」

「そうだ。君の為に心を痛めてした事なんだぞ!」



「俺の為に……?」



「お母様、お父様……やめて!私が悪いのよ……」



「メリー、もし俺の所為だというのならもう二度とするな」


「なんて勝手な人なの!?私の気持ちをずっと知らんぷりしておいて、ご両親のお気持ちまで無視して私を捨てる貴方が私を心配するの!?」



「それは……っ」



「リヒト……」

「娘の気持ちも考えてやってくれ」




「……俺は、メリーと結婚する事はできません」



「「……」」


「そうよね……もう全部終わりにするわ。もう帰って」


「幼馴染として、家族のように大切に思っている」


「……そんなの要らない」


「とにかく無事で良かった。今日は失礼する……また来る」


「!!」


「じゃあ」


「リヒトっ……好きなの。愛してる、だから捨てないで」



いつも元気で明るいメリーの初めてみる弱々しくボロボロになった姿に胸が痛んだ。

今までメリーの気持ちに気付いていた訳ではなかったが、近頃のメリーから間接的に伝えられていたのでそれで気付いていた矢先だった。


だからといってシエラを愛しているリヒトがメリーを愛せる訳がなく、ただ突き放すことしか出来ないでいた。


(それがメリーを傷つけていたのか……)


メリーの手首を思い出して後味が悪くなった。
謂れのないものだとしても、自分の所為で傷モノになったメリーの未来を考えるとひどい罪悪感に苛まれた。


どこで間違えたのか?

両親の真意こそ今となっては分からないが、リヒトがメリーに女性として接したことは一度たりともなかった筈だ。



なのにどうして皆は二人を許嫁だというのか。
妙な違和感すら感じたが、大切なあまり誤解させるような振る舞いが自分にもあったのだろうか……と答えの出ない自問自答を途中でやめた。



「リヒト様、馬車が準備出来ました」


「ああ、急いで戻ろう」


馬車に乗ってからハッとする。

シエラを待たせたまま飛び出てきたのだと思い出して、全身が冷えた。

幼馴染の命が懸っていたとはいえ、何も弁明せずに飛び出したのだ。




(俺から誘ったというのに、無礼極まりない……)



「まだ居るだろうか……」

「分かりかねますが……急いで戻らせます」

「頼む」



そういえば、一度ではない。


婚約者といいながら、メリーによって二人の時間がぶち壊されることは多々あるのだ。


その度にシエラはリヒトに期待していないような振る舞いで、メリーを咎める事はしなかったがこれでは、リヒトに当たり前じゃないかと、自分のメリーへの甘さを反省した。



メリーとシエラ、双方への罪悪感がリヒトを苦しめた。

幼い頃から仲良くしてきたメリーは家族同然で、実際にリヒトの両親もまた彼女をとても可愛がっていた。

それ故に、妹のようなメリーはリヒトにとってずっと庇護するべき存在だった。何も考えずとも、ただ癖のようなものでメリーのことをずっと守ってきた。


メリー自身、そうする事が当たり前かのように振る舞ったしわがままな妹を持ったような気分だった。


シエラを愛してしまうまでは……


(なぜ、こうも拗れる……)


全てがメリーの意図的なものであるということは、リヒト自身気がついていなかった。

シエラを愛してから、ではなくずっとメリーがシエラが性悪に見えるように弱者の立場を利用して、シエラの評判を貶めてきたことにも……



「着きました」

「ああ」



「おかえりなさいませリヒト様」



「シエラ皇女は?」



「……お帰りになられました」



「そうか……分かった」


脱力したように、髪を崩して深くため息をついたリヒトの表情からは焦燥感が滲み出ていたがそれを表にする事も気にならなかった。



レターセットとペンを持ってこさせると、何やら集中した様子で丁寧に手紙を書くとそれを侍従の持つトレイに乗せた。



「これを朝一でシエラ皇女の元へ」


「御意」





その頃、メリーの実家である伯爵家では……


「お父様も、お母様も出てって!お願い!一人にして……」



「「……」」


訴えかけるように叫んだ娘を案じて悲しそうな表情をした二人は顔を見合わせて頷き合って部屋を出た。




「ヒラリア!ヒラリアは居るの?」


「はい、メリー様」



「傷が浅い事、お父様とお母様にも悟られてはダメよ。誰にも会いたくないと医者は全て断って頂戴」



「分かりました。ですがこんなことを……」


「大丈夫よ。リヒトは今もの珍しい皇女様の様子に惑わされているのよ。多少強引にでも私がいる事を思い出させて上げなきゃ」




「メリー様……わかりました」


「じゃなきゃ、私の今までの時間や、想いは何だったの!?」


(それに相手の身分を問わずに散々大きい顔をしてきたり、皇女に虐められたと捏造したりしても皆が味方したのは。もしリヒトに選ばれなかったら私は今までしてきた事を問われかねない……)




「それじゃ困るのよ、手に入らないなんて全部」


(出会った幼い頃からずっとリヒトは私のもの)


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜

湊未来
恋愛
 王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。  二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。  そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。  王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。 『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』  1年後……  王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。 『王妃の間には恋のキューピッドがいる』  王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。 「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」 「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」 ……あら?   この筆跡、陛下のものではなくって?  まさかね……  一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……  お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。  愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

私を拒絶した王太子をギャフンと言わせるために頑張って来たのですが…何やら雲行きが怪しいです

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、子供の頃からずっと好きだった王太子、ライムの婚約者選びの為のお茶会に意気揚々と参加した。そんな中ライムが、母親でもある王妃に 「セイラだけは嫌だ。彼女以外ならどんな女性でも構わない。だから、セイラ以外の女性を選ばせてほしい」 と必死に訴えている姿を目撃し、ショックを受ける。さらに王宮使用人たちの話を聞き、自分がいかに皆から嫌われているかを思い知らされる。 確かに私は少し我が儘で気も強い。でも、だからってそこまで嫌がらなくても…悔しくて涙を流すセイラ。 でも、セイラはそこで諦める様な軟な女性ではなかった。 「そこまで私が嫌いなら、完璧な女性になってライムをギャフンと言わせていやる!」 この日から、セイラの王太子をギャフンと言わせる大作戦が始まる。 他サイトでも投稿しています。 ※少し長くなりそうなので、長編に変えました。 よろしくお願いいたしますm(__)m

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...