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セリアド侯爵の役目

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とある夜会、皇帝も参加する盛大なものだが大々的に公表されたパーティーではなく、あくまで高位貴族達のプライベートな夜である。


招待された貴族達のおおよそは、参加するであろう理由は主催者が大抵の貴族達よりも身分の高い貴族であるからだった。


ウィルサム侯爵家は家格でいうとセリアド侯爵家と同等の家門で、祭ごとが好きな夫人がこうして悪戯に開く夜会は、貴族達にとっても縁を繋げる場として活用されている上に、令嬢達のの場としてもかなりの実績ある場なのだ。




「姉様、僕の傍を離れないで」



「ええ、心配しなくても大丈夫よジェレミー」



「それでも今日はからね」


「……わかったわ」



見目麗しい姉弟の入場は会場中が思わず見惚れてしまう程だった。


シエラの出生を知らぬ者達は決して二人に血の繋がりがないことに気がつかないであろうほどに、二人はよく似ている。



「……ジェレミー」


「僕に合わせて」



皇帝の隣、皇后の席からジェレミアを見つめた彼の母は視線でジェレミアとセリアドにプレッシャーをかける。




セリアド侯爵は皇帝と目を合わせると、咳払いをしてブノエルン伯爵に何やら耳打ちした。


(脅迫かしら……?させないわよセリアド)



怒りの表情を堪えているよつなブノエルン伯爵は、ふとシエラと目が合うとほんの一瞬だけ「ほっ」としたようにも感じる表情で怒りを鎮める。


対してセリアド侯爵はジェレミアとシエラの登場ににやりと余裕の笑みを浮かべた。



(皇太子などまだ餓鬼だ、ブノエルンを跪かせたらあとは上手く殿下を操って実権を握るだけだ……皇帝陛下もそう長くないだろう、皇后陛下は私の力添えなしでは不安だろうし)




皇后の命で、ブノエルンの排除には皇太子が関わっている事を聞かされているセリアド侯爵はことの成り行きを見守る。



皇帝のお気に入りの金髪碧眼に近い色味をもったメイドは、夜伽の為にも部屋に呼ばれている世話をする皇帝のお気に入りだが、


彼女はセリアドの元でしっかりと教育された刺客であった。



少しずつ、医者にも見つけられないほどの微量ずつお茶に盛った毒は次第に皇帝の身体を蝕んで、不摂生による病だと診られているが確実に長い間かけて毒が回っている証拠だった。




(ああ、強い駒がいるといいなァ….皇女はいつか皇帝の目を欺いて手篭めにしてやろう)



だが、ジェレミアの足はブノエルン伯爵ではなくセリアド侯爵の方へと向かい、愛らしくも懐っこい笑顔で挨拶を交わすと唐突に皆に聞こえる程度のこえで言う。


「これはこれは……殿下方もお越しになられたのですね!」



「ご機嫌よう、セリアド侯爵」

「今日は、姉様と来たんだ。侯爵にとっては眼福かな?」



「はは……どういう意味でしょうか、殿下?」



愛想笑いで、全く意味が分からないというように首を傾げるセリアド侯爵に、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた愛らしくも美しいジェレミアは、わざと周囲に聞こえる声量でセリアド侯爵に言う。



「侯爵は、僕達の髪と瞳の色がお好きでしょう?」


「~っ!!!」



「ねぇ姉様、とても光栄だと思わない?」



「あら、そうだったの?侯爵…….とても光栄だわ。よければ詳しくお聞かせ願えますか?」


淑やかに、どこか愛らしく首を傾げて言うシエラがの言葉が純粋な気持ちからくるものなのか皮肉であるのか計りかねるセリアド侯爵は引き攣った笑いを貼り付けたまま曖昧に返事を濁すしかなかった。



それほどまでに、前世でジェレミアの為にをしてきたシエラの表情管理は徹底されていた。



ジェレミアは多少驚きはしたものの表情には出さずに、皇后である母がシエラに厳しく指導したのだろうと自己完結させた。



明らかに動揺するセリアド侯爵に「しめた」と内心ほくそ笑んで席に座る皇帝をチラリと盗み見たジェレミアは思いのほかに自分睨みつける皇帝の牽制とも取れる視線に間違いなく、皇帝の趣味にセリアドが手を貸しているのだと確信し、さらに続けた。




「セリアド侯爵は父上ともだとか……」



「そ、れは……陛下には臣下として良くしていただいております」





「おや?それは、まさかセリアド侯爵家の地下室にある金髪碧眼の女性ばかりを集めたのことでしょうか?」



「ブノエルン……!」



態とらしく肩をすくめて歩み寄ってきたブノエルン伯爵をセリアドが睨みつけた所で、皇帝が「ジェレミア」と呼ぶ声が響いたがもう、既に会場は一緒の静けさのあと、どよめき、貴族達の戸惑いと好奇心に満ちた話し声で溢れていた。





「父上、実は…………」


「……!それは誠か?」


「僕が嘘をつくと?後でメイドを調べてみてはいかがでしょう?」



セリアドの信用を地に堕として、皇帝と仲違いさせるのはジェレミアの提案だった。


諸刃の剣ではあるが、どうしても金髪碧眼に寄せた夜伽用のメイドの存在が露になってしまうので皇后の癇癪からは逃れられないだろう。


(騒いでくれれば良いカムフラージュになるよ、母上)





「セリアド侯爵……こうなった以上について調査しなければならん、覚悟しておくんだ」



「そ、そんな!陛下これは……っ!」



すると、ほんの微かな声で誰にも、セリアド侯爵以外には聞こえない程度の声でシエラは


「こんな事が事実ならこの場でバラされてしまえば、例え皇帝の立場であっても無傷ではないというに……セリアド侯爵のことが不憫だわ……」

と、口にした。



ハッとしたようにセリアド侯爵は顔を上げる



(そうだ、皇帝自身の発言の信憑性を欠けばいい)


「陛下!お言葉ですが、金髪碧眼の女性達については陛下の命で集めた者達です!!私の一存ではありません!!」



会場が凍りついたようだった。


怒りに震える皇帝と皇后。


「な!出鱈目ばかり言うなセリアド。お前はそこのシエラに惚れ込んだ挙句、似たような女性ばかりを集めているらしいじゃないか……!!」



「陛下……今初めて聞いた筈では?」



皇后は冷ややかにシエラを睨みつけたまま、言った。




「や、やはり陛下は前皇后様の事をまだ……」

「まさか、殿下方に重ねておられるんじゃ……」



「お、おれは聞いた事があるぞ……シエラ殿下への劣情を」




こうなった貴族達の口はもう皇帝といえど塞げなかった。











セリアド侯爵と皇帝、どちら側に付くか決めかねている様子だった。



「父上、セリアド侯爵の件については僕にお任せ下さい」


「ジェレミー……」


不安げなシエラに皆が同情の視線を送った。


「お可哀想に……自分達に似た女性を集めている人がいるなんて怖い筈よね……」


「ジェレミア殿下はなんて勇敢なんだ!」



思い通り、耳感触のいい世論と睨み合うセリアドと皇帝。


今にも倒れそうな皇后の白い顔色にジェレミアはチラリと満足そうにシエラを覗き込んで、シエラもまたジェレミアと視線を合わせた。




「では……第三者がいた方がいいかと思うのですが……」



「ああ!そうだね姉様!……そこの、ブノエルン伯爵、あなたなら公平な判断ができるでしょう。セリアド侯爵とも縁があるようだし……頼めるかな?」




(一体お二人は何を考えているんだ……)


「え、ええ。微力ながら手伝わせて頂きます」


「ジェレミア、愛する息子よでは






「ええ、任せてください陛下」





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