悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang

文字の大きさ
上 下
40 / 69

皇女の友人と、皇子の協力者

しおりを挟む


「う~ん、ではブノエルン伯爵家の領地から商いをする為には必ずセリアド侯爵領の通過が必要不可欠なのね」



「はい。ブノエルンだけでなく多くの貴族がセリアド侯爵領の通過が必要な場所ですのでそれをいい事に貴族達からかなり儲けている様子です」





今日も、シエラはウェヌス内事務所で事業の拡大といずれかはする事になるだろう拠点の移動について頭を悩ませている。



まずは、このまま勢いを増し貴族達から金と気力を吸い取り皇帝亡き後いずれ皇后の後ろ盾となり脅威となるセリアド侯爵を排除する方法を探していた。




書類に埋もれるシエラを心配そうに見るグレン、



「セリアド侯爵家は不正の多い家門です、問題はそれを皇帝が見て見ぬフリをしているという事ですね」



「ええ……見て見ぬふりができない状況を作るしかないわね」



「ですが、立ち位置を引き継ぐものによっては……」



「マッケンゼンよ……リヒトにはきちんと社交会での仕事をこなしてもらって、いずれジェレミーの後ろ盾となってもらうわ」



「受け入れるでしょうか?」



「ええ、それが私の為になると理解するはずよ」


(あんな事があったのだもの…‥.婚約者の私には申し訳なくてひとつくらいの願いを聞くはずよ…….)



シエラは、リヒトの表情を思い出して複雑な気分になった。


二度目の人生で確かにリヒトもシエラも変わった。



シエラを心配する瞳、慈しむような声、愛していると紡ぐ唇はどれも過去のシエラが死ぬまで欲したものだったが



(きっと交わる事のない想いなのよ、リヒト)


きっとリヒトはご両親への想いが相まってメリーを放ってはおけないだろう。シエラへの気持ちも嘘ではないとしても一時的なものかもしれない。



「この国にも守るべき民がいるわ、やるべき事をしないと」



ジェレミアは過去にも、皇帝としてはとても良き王だった。

異常なシエラへの執着と皇座への執着を除けば、今の皇帝よりもはるかに上手く国を運営していたと言えるだろう。



「ジェレミーなら、心配ないわ特に今はね」



「そうですか……」



「グレン、ブノエルン伯爵とマッケンゼン公爵へとこの手紙を……それと、ミンリィはこれをお願いしたいの」



「シエラ様……、これは?」


シエラが取り出したのは安物の指輪だった。


「これは、ただの目印よ。これを信用できるルートでリュカエル・カシージャスへお願い」




「かっ、カシージャスですか!?」


「ええ、必ず彼に。手紙とそれを渡すだけで伝わるわ」






頭の中で思い出される彼との会話、




『そんなものが欲しいのか?』

『そうね、これは目印よ。私とリュカしか知らない。今日の出会いもどこにも記帳されない小さな買い物も』


『合言葉の代わりか?なら、俺に会いたい時はそれを送りつけて』


『ええ、必ずそうするわ』





ついこの間交わしたばかりのリュカエルとの会話に思わず微笑む、秘密の合言葉をまるで少年のようにキラキラした瞳で喜ぶリュカエルはとても噂と同じ人物とは思えなかった。


(きっと大丈夫。力になってくれるわ)




数日後、彼が送ってきたまだあどけない少年はマイルと名乗り、マイルは彼の信頼のおける部下だと言うことが記された手紙には「俺の馬と荷物はあったか?」とくだらないジョークが添えてあった。



「マイル、貴方を王宮へと連れて行く訳にはいかないけれどこのウェヌス邸で客人としてもてなすわ」


「いいえ、リュカエル様より仕えろと申付けられております。大切な人だとも」



(リュカがそんなことを……)


大切な人というのは友としてだろう。けれどもシエラは心が温かくなりドキドキと心音が早まった。


たった一度、行動を共にしただけのシエラをこれ程までに信頼してくれる彼をきっと裏切らないと心に決めた瞬間でもあった。



「そう……じゃあ、宜しくねマイル。私の事はシエラと」



「はい!……シエラ様、これは文面では難しいのでリュカエル様から私の声でお伝えするようにと言われているのですが……」




黙って控えるグレンをチラリと見ると口を閉ざす。


(なるほど……きちんと教育されているのね)

 
「彼は私の信頼している人、部下であり友人なの大丈夫よ」



「それでは…」とほっとしたように表情を崩して話し始めたのはにわかには信じ難い話だった。


「この国の皇帝は。セリアド侯爵という者を使って悪趣味なコレクションをしています」



「コレクション?」



「はい。金髪碧眼に近い女性や少女ばかりを拉致し何処かに囲っているようなのです……それも何故か、姿



シエラは背筋がゾワりとした。


ジェレミアに私への監督責任を問うた時のあの皇帝の気味の悪い視線を思い出しで身が震えた。


一生忘れる事のない辱めを受けたあの日を思い出し、身体から嫌な汗が止まらない。


(まさか、女性達にもあんな事を……?)


「人身売買や奴隷制度は今やどこの国でもタブーとされています、ですが王族同士で趣味嗜好を黙認する事は珍しくありません」


「まさか……」


「理由は分かりませんが、充分にお気をつけ下さい。影としてシエラ様のお側におりますが何が起きるか分かりません故に……」



「分かったわ。マイル、この邸の中の者達を紹介するわ。しっかりと顔を覚えて頂戴今日会った人達は私の信頼する仲間よ。そして今日からは貴方も」




「そんなすぐに、私を迎え入れていいのですか?」





「私はリュカを信じるわ。彼がそうしてくれたように」






きっとジェレミアは今頃、皇帝を殺す計画を立てている頃だろう。


そして皇后はシエラを貶める隙をずっと狙っている筈だ。



セリアドに、メリー、過去には大勢の人がシエラに立ちはだかったが今は違う。




「きっと勝ってみせるわ」



(そして国を出て穏やかに暮らすのよ)




しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...