悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang

文字の大きさ
上 下
39 / 69

誤解と誓い

しおりを挟む

メリーは生前のマッケンゼン夫妻の話や、メリーが二人と交わした約束、両親の想いについてメリーが話せる全てを彼に話し、リヒトは深酒の所為でまだすぐれない顔色のまま耳を傾けた。


入浴した際にしっかりと乾かさなかった髪はまだ湿っており、気怠げな雰囲気が妙に色っぽくてメリーは息を呑む。


(リヒトの全てが今すぐに私のものになればいいのに)


彼女はその為に、自分を気に入ってくれていたマッケンゼン夫妻の軽口をわざと大袈裟にとして話し、真面目なリヒトに責任感を負わせようとしているのだ。



「リヒト、勿論ただご両親に誓ったからだけじゃないわ……」


「……」


「私はずっと、あなたを愛しているから受け入れたの」



「その想いには答えられない」


「解ってるわ……けれども本当にシエラ皇女はあなたが思っているような人なの?皇太子殿下ともかなり怪しい仲のようだし……」



(あれは態と俺に殿下が


まさか口に出す事が出来ないリヒトは口を閉ざし言い淀んだが、

メリーにとってはそれは肯定とも取れて満足気に笑った。



「マッケンゼン公爵家は由緒正しい家門よ。一途な妻がいいわ……私のように」



そう言って、リヒトの膝に甘えるように乗りかかるメリーを怪訝な表情で避けるリヒト。


そんな二人の攻防を気まずそうな使用人の声が遮る。


「ご、ご主人様っ……皇女殿下がお越しになられました」



「……っ!!!!すぐ行く!」


「ちょっと!リヒト、話はまだ……」



「いえ、あの……!!まずはお着替えを!!!」

使用人の言葉も聞かずに飛び出したリヒトは、応接室で待つシエラの姿が見えると思い切り抱きしめた。



「シエラ皇女……どちらに行かれていたのですか!俺が貴女を見失ったばかりに……申し訳ありません」



「……っ離れて、今日はその日の謝罪に来ただけよ」

(陛下がマッケンゼン欲しさにうるさいから来ただけなのに……)


ふわりと香る彼の石鹸の香り、引き離した彼は湯上がりなのか髪が濡れている上に楽な服装で、その色香に一瞬たじろぐシエラ。



そんな二人を追ってきたメリーは、ハッと思いついたように髪を少し乱れさせて楽なドレスを態と着崩してシエラとリヒトの目の前に出た。



「り、リヒト!ひどいわ!」


「メリー!誤解を招く言い回しは……」


ぼろぼろと大粒の涙を流してリヒトにそう言うメリーに思わず驚くリヒト。


二人の楽な服装と、まだ朝だと言うのにも関わらずもう長く一緒にいたかのような雰囲気、そして


(リヒトはどこか気怠げね……そういう事?)



「ごめんなさい、邪魔したようね。あの日突然帰ってしまった謝罪と例の件について時期を早めたいという話をしに来ただけだったの」




「安心してメリー嬢、何も奪いやしないわ」と付け加えて冷ややかにそう言ったシエラにいくら鈍いリヒトでも「まずい事になった」と感じているようで視線を彷徨わせた。



「わ、私とリヒトはマッケンゼン公爵夫妻の生前に誓いを立てた許婚なんです!だから……リヒトを奪わないでっ」



(嗚呼、そうだったのね……だから前世での貴女達は私が邪魔だったのね)



やはり、リヒトとの恋は過去に置いてくるべきなのだと再確認したシエラは少しだけチクリとした胸にそっと手を添えた。

そんなシエラの気持ちなど知る由もないメリーはまるで小動物が威嚇するように大粒の涙を拭う事なく、リヒトと手が添えられたシエラの腰元を睨みつけていた。

「シエラ皇女、俺はそのような約束は…….」


「リヒト!嘘言わないで!知らないとは言わせないわ!」




目の前でため息をつくシエラが憎らしく、メリーは思わずリヒトに声を張り上げた。


真面目なリヒトなら、先程この話を聞いた手前「知らない」とは言い切れずに、ましてや両親を思うとメリーを無下にもしない筈だと考えたメリーはかなり強引にシエラとリヒトを引き裂こうとした。


ところが、まるでどうでも良さそうな声色でシエラが「落ち着いて」と言うと「ブノエルン伯爵の件です」と続けた。


「……!メリー席を外してくれ」

「いやよ!!私が先約だったでしょう!」

「メリー!!」


「マッケンゼン公爵、いいわ。突然訪ねたのは私です、手紙を送りますのでその件の詳細はまた後日に。先日は本当にごめんなさい。では失礼するわ」



そういって綺麗に微笑んだシエラと追えないようにリヒトにしがみつくメリーにもうどうしたらいいのか分からずに片手で顔を覆ったリヒトは弱々しく


「俺が愛しているのは貴女だけです、シエラ」


と、伝えるのが精一杯だった。




「……手紙を送ります。内容はさっき伝えた件のみです」


「シエラ皇女、どうか少し待っていてはくれないか?」



「私が暇に見えますか?リヒト」


「……せめて、送ります」


「その格好のお二人が邸とはいえウロウロするのは良くないわ、私なら大丈夫だから



にこりと笑ったシエラに、リヒトはもう青ざめたままピタリと動きをとめてしまう。



「では、さようなら」



シエラの美しい笑顔に嫉妬しながらも、強い意志のこもった彼女の「さようなら」と言う言葉にニヤリと口元を歪めたメリーの表情を見たものは誰も居なかった。

しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

完結 女性に興味が無い侯爵様 私は自由に生きます。

ヴァンドール
恋愛
私は絵を描いて暮らせるならそれだけで幸せ! そんな私に好都合な相手が。 女性に興味が無く仕事一筋で冷徹と噂の侯爵様との縁談が。 ただ面倒くさい従妹という令嬢がもれなく 付いてきました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

「幼すぎる」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました

ゆる
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ!」 そう言い放たれ、婚約者ライオネルに捨てられた公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 幼く見える容姿のせいで周囲からも軽んじられ、彼女は静かに涙を飲み込んだ。 そして迎えた婚約破棄の夜――嫉妬に狂った伯爵令嬢アメリアに階段から突き落とされ、意識不明の重体に……。 しかし一年後、目を覚ましたシルフィーネの姿はまるで別人だった。 長い眠りの間に成長し、大人びた美貌を手に入れた彼女に、かつての婚約者ライオネルは態度を豹変させて「やり直したい」とすり寄ってくるが―― 「アメリア様とお幸せに」 冷たく言い放ち、シルフィーネはすべてを拒絶。 そんな彼女に興味を持ったのは、隣国ノルディアの王太子・エドワルドだった。 「君こそ、私が求めていた理想の妃だ」 そう告げる王太子に溺愛され、彼女は次第に新たな人生を歩み始める。 一方、シルフィーネの婚約破棄を画策した者たちは次々と転落の道を辿る―― 婚約破棄を後悔して地位を失うライオネル、罪を犯して終身刑に処されるアメリア、裏で糸を引いていた貴族派閥の崩壊……。 「ざまぁみなさい。私はもう昔の私ではありません」 これは、婚約破棄の屈辱を乗り越え、“政略結婚”から始まるはずだった王太子との関係が、いつしか真実の愛へと変わっていく物語――

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

処理中です...