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パーティーの棘
しおりを挟む隣にリヒトが居るからなのか、思っていたよりも穏やかに楽しめるパーティーを有意義に感じているシアラの目の前に愛らしく丸い目を潤ませたメリーが立った。
「あら…メリー嬢。ごきげんよう」
「私……、シエラ皇女殿下と誤解を解いて仲良くなりたいのです」
目上の者に対する物言いとしてはかなり不躾なものだったが、同性の令嬢達の支持を得れる事に越した事はないとシエラはゆるりと微笑んで見せた。
するとパァっと表情を明るくさせて、何やら嬉しそうにシエラの隣に居るリヒトの手を取ってぎゅっと胸元で抱きしめると、
「まぁ!シエラ皇女殿下がお許し下さったわ!良かったわ!ね、リヒト!!!」
と、何やら意味深にも聞こえる物言いで大袈裟に喜んだ。
無表情で「メリー、やめろ」と言うリヒトとは相反して頬を染めて、
「きゃー嬉しいっ」と騒ぎ立てるメリーははたから見れば、
噂どおり愛し合う幼馴染との仲を、シエラに許しを乞うて公認でもされたかのような絵面だった。
「こうして和解できて、とても嬉しいですシエラ皇女殿下」
「……そう。なら良かったわ」
リヒトの腕を解放する事なく話すメリーを諌めるような目で見て、「離してくれ」と言うリヒトを完全に無視したメリーを見かねてシエラが諌める。
「婚約者のいる異性の腕を、ましてや目の前でそのように抱くのは失礼なことよ、メリー嬢」
努めて優しく、苦笑いしたように言ったはずのシエラに対して過剰すぎるそどの抗議の声でメリーは反発した。
その潤んだ表情はいかにもシエラに虐められているようにも見える上に、未だに強く抱きしめたリヒトの腕は解かれぬままで、愛し合う二人に嫉妬しているシエラがメリーを泣かせたようにも見えた。
「なんて事をいうんですか!?私はリヒトとはなにもありません!!」
その言葉と先程からの無礼な言動が耳に入っていたジェレミアは咄嗟にシエラとリヒトの間に立ち「何の騒ぎかな?」とどこか怖い笑顔でリヒトに問うた。
「申し訳ございません、何か勘違いが……「見た通りですっ!!」
ジェレミアに対して少し苛立ったように大声を上げたメリーのその行動と、言葉に会場がざわついた。
「まさか……本当にリヒト様はメリー嬢が…….」
「シエラ殿下やはり、キツいお方なのね……」
ジェレミアは見下したようにメリーを見てから、唖然とするリヒトを鼻で笑ってわざとらしくよく通る声で、姉弟とは思えぬほど密着した距離でシエラの頬に手を添えて言った。
彼女達がこんなにも親密に寄り添っていても、変に思わないのはあまりにも二人の容姿が瓜二つだからだろう。
まるで対の人形のような二人が本当は血が繋がって居ないのだと誰が信じるだろうか。
「姉様……お可哀想に!姉様が嫉妬なんてする訳ないのに……なぜなら姉様はリヒトと……「ジェレミア殿下!!」
皆がもう取り繕う事も忘れ、興味津々と言ったように見る中
リヒトと婚約者解消するのだからその言葉を発しようとしたジェレミアを慌てて遮ったリヒトは、バッっとメリーの腕を振り払って、ジェレミアの登場によって引き離された彼女との距離を詰めるように一歩前に出た。
「俺と皇女の仲はとても良いのでな。そしてメリー……」
「皇女が嫉妬する理由はない」とメリーを睨みつけまるで皆に公言するかのように堂々とした声で言い放つ。
「ずっと追いかけているのは俺の方です、俺は皇女殿下を愛しています。いつか……シエラ皇女の心が欲しいと思っています」
「!!」
令嬢達からの落胆の声や黄色い声、貴族達の驚きに満ちた騒めきが会場に散らばる。
隠すようにシエラを背に、リヒトに立ちはだかるジェレミアと困惑したようにジェレミアのマントをきゅっと握るシエラ。
そんなシエラの仕草に、思わず嫉妬したリヒトはシエラの腕をとって少し強引に引くと自分の胸の中に彼女をすっぽりと閉じ込めた。
「リヒト……、調子がいいね」
「ハナから俺は皇女しか見ていませんが」
「リヒト!どうして私を振り払ったの!」
「ただの幼馴染の腕を振り払っただけだろう。もう大人だ、このような行動は控えろメリー」
皆のクスクスと笑う声にメリーは顔を真っ赤に染めるが、極め付けはジェレミアの「メリー嬢は、まだ少し幼いようですね」とフォローにならないフォローの言葉に皆が笑い出すと、恥ずかしさで会場にいられなくなり勢いよく飛び出た。
「リヒト、姉様が苦しがってるだろう」
「これは失礼」
そう言って少し体を離したリヒトが見せつけるようにシエラの首元に口付けるとジェレミアは笑顔のままリヒトを睨みつけたが、
会場内は仲睦まじい婚約者の二人に盛り上がりを見せた。
「さあ、パーティーも終盤ですので楽しみましょう」
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