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パーティーは必然

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「皇女様、とてもお綺麗です!!」



「ありがとうリンゼイ……なんだか気恥ずかしいわね」


誰が見ても、ドレスの贈り主はリヒト・マッケンゼンだと分かる色味と彼を連想させるデザインのドレスはそれでいてシエラの為だけに作られたものだと一目で分かるほど彼女の雰囲気に合ったドレスだ。

細部ひとつひとつにまで気遣われたドレスは丁寧に仕上げられたのだと、素人が見ても分かるほどに美しい。

不機嫌そうに足を組んで座るジェレミアは、白を基調としたデザインに金の細工が拘られたデザインの装いをしており宝石はシエラと自分の持つ碧色に合わせたサファイアがよく似合っている。


「僕は姉様をイメージしたのに、姉様はまるでリヒトのモノだ」


「ふふ、けれどジェレミーと私しか持たないお揃いがあるでしょう?」


人差し指で自らの瞳を指差し、もう片方の手で自分の髪を一房掴んで微笑んだ。


確かに、何故か血縁が無いにも関わらず王家の瞳のその色味、髪色の微妙な色彩までもがぴったりとお揃いな二人。



どこか嬉しそうにそっぽを向いたジェレミアにシエラはもう大丈夫だと判断し、満足したようで「また後で」と声をかけて迎えの馬車に急いだ。


「シエラ皇女……っ」

馬車に乗って直接迎えに来たリヒトに軽く目を見開いたシエラの美しい姿を見て、リヒトもまた惚けた顔のまま言葉を詰まらせた。


「……っ」

「マッケンゼン公爵、準備がある筈なのに遣いではなく直接来られたのですね、お心遣い感謝するわ」


「いえ、婚約者として当然です。ドレス、とても似合っています」


「……ありがとう」


「貴女に似合うように、俺なりに考えました。やはりとても美しい」


(リヒトが?まさか全部自分で……?)


「まさか、貴女が直接?」


「勿論、作り手の腕がいいのですが。生地から全て自分の目で見て貴女に相応しいものを選んで作らせました。これからもそうするつもりです」



まるで少年のようにはにかんだリヒトに思わずシエラの心臓は音を立てる。

まるで条件反射のようにリヒトに反応するこの心は前回の生で愛してやまなかった自分を決して愛さないこの男への気持ちを忘れていないのだろう。


「ーっ、気を遣わないで。まるで貴方が……」

(私を愛してるみたいに見えるわ)


「なんですか?」


「なんでもないわ、もうすぐ着くんじゃない?」


「そうですね、念の為なるべく目の届く所に居てください」


「?」

「どの騎士よりも、俺が一番強いので。護衛兼、婚約者といった所ですね」


「……ふっ、なによそれ。心強いわ」


あまりに真剣なリヒトの顔を見て思わず笑ってしまったシエラの不意の笑顔に夢中になるリヒトは気恥ずかしくなって手で口元を覆った。



(耳が赤いわ…….まるで別人のようね)



会場に入ると、様々な有力な貴族達が集まっている様子だった。

リヒトと仲睦まじそうに入ってきたシエラに驚いた様子でヒソヒソと話す令嬢達は「まさか」「そんなわけ」と声を時折荒げた。


リヒトがとある紳士をみて足を止めると、シエラに耳打ちする。

「ブノエルン伯爵です、筆頭伯爵家で伯爵位を含めそれ以下の貴族達の支持を得て束ねています」


(ブノエルン伯爵……リンゼイ達の恩人でもあるのよね。今度は絶対に良好な関係を築いて見せるわ)


「ん?……あれは誰かしら?」


「セリアド侯爵ですね。滅多に表に顔を出しませんが……お父上の影を担われる方です。これはウチの独自ルートで手に入れた情報なので内密にお願いします」


「!陛下の……?分かったわ、何故私にそれを……?」


リヒトの頭の中にはあの不思議な夢がよぎった。

(あんな目に遭わせない為に、社交会での地位を築き、守らねば)


「シエラ皇女の抱える問題は……些細な事ですが、身を守る為にも味方は多い方がいいでしょう。信頼できる者を紹介します」


「……心配してくれているの?」


「今の貴女はとても真っ直ぐで美しいが、どこか危なっかしい……」


眉尻を下げて、シエラの頬をそっと撫でるリヒトに会場の者達はさらにざわつく。


「ちょっと、皆が見てるわ……」


「俺達が、仲睦まじいと見せつけているんです」


「な、何故そんな事を」


「こんなに美しい人が他の者に触れられないように」


「ーっ、あんまり揶揄わないでリヒト」


(リヒト……)


久々に呼ばれただけ、ただ名前を呼ばれただけだったがリヒトの頬は桃色に染まり、シエラを熱っぽい視線で見つめる。

意図が分からずに、困惑するシエラの手を握り直して「名前、嬉しいです」とはにかみながらエスコートする。


そんな様子を微笑ましそうに見つめるブノエルン伯爵の側に行き立ち止まり、形式的な挨拶が済むと伯爵は「久しぶりですね、リヒト様」と嬉しそうに言った。



「先程、セリアド侯爵が見えましたが……」


「ああ、だ。また後で話しましょう」



暫く談笑する内にシエラも、伯爵もお互いにいい印象を持った。



「リンゼイとミンリィを覚えておられますか?」



「!!勿論、良くして下さっているようですね。本当に感謝致します。あの子達はとても心配していたのですが…皇女様のお側なら安心ですなぁ」


優しく微笑む姿に、シエラは心が温かくなった。

(父親がいれば、こんな感じなのかしら……)


セリアド侯爵となにやら話し込むジェレミアを視界の端に捉えて、過去に起きた事を思い出す。


「……ブノエルン伯爵、まさかセリアド侯爵と何か揉め事でも?」

「!!」

「シエラ皇女、何故そう思うのですか?」


「リヒト、簡単よ。まだ力無い私やジェレミアに何かを持ち掛ける者ほど怪しい者はいないわジェレミーに何かを吹き込んでいるようね……」


(未来を知っているとは言えないし、苦しい言い訳だったかしら)


過去の通りであれば、王妃とセリアド侯爵に懇願されたジェレミアは皇帝と意見の合わない上にセリアド侯爵にも屈しないブノエルン伯爵を嵌めるようにシエラに命じる筈だ。



(もし、彼が生きて反皇帝を掲げていれば……さらには上手くジェレミアを担いでくれれば……大多数の貴族が力となるわ)


ジェレミアがシエラに手を借りる事を見越して、シエラに捨て駒として仕事をさせたのだ。


ブノエルンの力を早めに摘んでおきたかったのだろう。


そして、王妃は何か別の理由でシエラが



(でも、今回は逆よ。倒れるのはセリアド。




見つけた、皇帝陛下の後ろ盾を。


そして、王妃の後ろ盾はいつも陛下よ。


次に、ジェレミー


けれどジェレミーはもう操り人形じゃないわ



どうするかしら?お義母さま?



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