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大掛かりなデート計画
しおりを挟む「マッケンゼン公爵邸?」
「はい、体裁的にも断る事はできません」
マッケンゼン公爵邸から届いた招待状を睨みつけるシエラにそう告げたリンゼイの言葉を念押しするかのように執事が持ってきた箱にはマッケンゼンの紋章が入っていた。
「マッケンゼン公爵閣下から贈り物が届いております」
「リンゼイ……返事とお礼を書くわ、箱を開けてみて」
「……こ、皇女様っ!なんて素敵なドレスでしょう!!」
まるでシエラに似合うようにひとつひとつ丁寧に作ったようなドレスだった。
それでいてリヒトを思い浮かばせるような濃紺の上質なシルクとレースを使ったドレスは大人っぽくシンプルなドレスで、合わせて贈られてきた小さな箱にはルビーを惜しみなく使ったアクセサリーは流行に見合ったデザインで作られている。
まるでシエラの事を本当に心から愛しているかのように、細部にまで拘りと気遣いを感じた。
「日取りが急である事への謝罪をと、……あ!」
「どうしたの?リンゼイ」
「靴が……間に合わなかったので直接渡しにくると」
リンゼイがそう言ったのとほぼ同時だった。
新人執事のキースが慌てて走って来て「マッケンゼン公爵が来られて…っ」と整わない息のまま途切れ途切れに報告した内容にシエラは結局出迎えに足を運ぶ事となった。
「馬車を先に見つけられたらしく、ジェレミア殿下が出迎えに向かわれましたっ」
「ジェレミーが?……すぐに行くわ」
額に手を当てて眉間に皺を寄せてシエラは深く息をつくと、リンゼイに手伝って貰って簡単に用意を済ませてから急ぎ足で応接室へと向かった。
その頃応接室に通されたリヒトがジェレミアと向かい合っていた。
「招待状は受け取ったよ。その様子だと……姉様のエスコートはリヒトが名乗り出たようだね」
「はい。婚約者としての役目を果たすつもりです」
「そうだね、婚約者として最後のエスコートになるかもしれないんだし今回くらいは譲るよ」
含みのある笑顔でそう言うジェレミアは外見は爽やかで可愛らしいものの、言葉の節々と身体の中から刺々しい雰囲気が滲み出る。
「……俺は離縁するつもりはありません」
「姉様はどうかな?」
「……」
「リヒト」
「何でしょう?」
「お前の目に姉様はどんな女性に映っている?」
「……どういう意味でしょうか」
「世間の言うような、愚鈍で性悪な能無しの姫に見えるか?」
「馬鹿な、シエラ皇女がそのような方に見える訳がない。彼女は聡明で美しい、光のような女性です」
「ふん、お前の目が節穴じゃなくて安心したよ」
(やはり、あれはただの夢だ。このリヒトが姉様から目を逸らして陥れられていくのを黙って見過ごすわけがない)
「……何かあったのですか?」
「……何も。パートナーとしてちゃんと姉様守れよ」
「ふっ、俺を誰かご存知では?」
「腕っ節の話じゃない。いずれ分かる。その時まだ姉様がお前を手放していなかったら、ちゃんと姉様から目を逸らさず守る事だけを考えろ」
リヒトは何故だか、少し前にみた長い夢を思い出した。
今、目の前でそう言うジェレミアはまるで彼自身さえも畏怖しているような感じがする上に、何処か不安気で訴えてかけているようにも見えた。
けれどもリヒトの見た夢では、シエラはもうジェレミアの手中に堕ちた後だった。
(何故?自分を恐れているのか?同じ夢を?)
「例えば、それが貴方からだとしてもでしょうか?」
「!あぁ、そうだ……」
「珍しく、弱気ですね」
「五月蝿い。でも僕は姉様を大切にするつもりだ」
「ジェレミア殿下、もしかして……」
「夢を見たのでは?」リヒトがそう尋ねようとした瞬間だった、聞き逃すほど静かな、聞き慣れた足音が聞こえそれがシエラだと二人は気付く。
「なんだ、リヒト」
「いえ、気のせいでしょう」
「そう」
((同じ夢を見るわけがない、まさかな))
「お待たせ致しました。リヒト、ジェレミーが失礼をしていないかしら?」
「ふふ」と少し笑ってジェレミアの頭を優しく撫でるシエラは相変わらずキラキラと輝く宝石のような碧い瞳をリヒトに向けた。
「姉様、失礼だな」
「御免なさいジェレミー、ありがとう」
「シエラ皇女、突然の訪問をお受け下さって感謝致します。ジェレミア殿下とは有意義な時間が過ごせました」
「そう、なら良かったわ。リヒトにお礼を書こうと思って居た所なの」
「参加して下さいますか?」
「ええ、そのつもりよ。あんなに素敵なドレスを贈って頂いたのにまさか断れるはずかないわ」
「でしたら返事の手紙は不要です、当日はお迎えに上がります」
「そう、だったらお言葉に甘えて」
そう言ったシエラをにそっとジェレミアが視線をやると、何処となくいつもよりも柔らかい笑みを浮かべるシエラにぎくりとした。
(まさか、絆された訳じゃ……)
「どうしたの?」
思わずシエラの手をテーブルの下でぎゅっと握ったジェレミアに不思議そうに首を傾げたシエラの声で我に帰ったジェレミアはパッとその手を離して、
「なんでもないよ」と取り繕った。
(大丈夫だ、姉様は僕の姉様だ)
どことなくいつもより和やかな部屋の空気に、居心地の良さを感じながらも不安の募るジェレミアはやっぱりシエラの手を握り直した。
「ふふ、甘えん坊なジェレミー」
「姉様の所為だよ」
そんな二人の姉弟にしてはやけに甘ったるい雰囲気にまた、ぐっと堪えるように奥歯を噛み締めたリヒトは切なくシエラを見つめていた。
(本当は貴女に逢いたくて、パーティーを開いたんだと言ったら、呆れられてしまうだろうか)
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