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パーティーという名のご公務

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王族が受け入れるパーティーの招待は慎重に選ばれるが、ジェレミアの為にもシエラは比較的多くのパーティーに顔を出すようにした。

勿論、自らの計画の為でもあり取り急ぎ会っておきたい人物を見極めるという別の目的もあった。



慎重に選んだ招待状に返事を自らの手で書くのは前世からの癖であり、余計な横槍や改ざんが行われないように防犯の意と、

返事を書く相手への敬意のつもりでもあった。


どういう意図で送って来たのかおおよそ予想がつくが、侮られていることは間違いがないようだとクレマン子爵家からの招待を読んで鼻で笑った。


それと同時に、表には出さないように努めて居るが珍しく少し落ち着かない様子のリンゼイが戻って来てシエラに耳打ちした。


「グレンが大怪我を、ウェヌス邸で治療後安定はしておりますが……」


「……そう、いいわ。わかった」


クレマン家からの招待状への返事に筆を取ったシエラはふと笑った。


「参加しないといけないわね」


「大丈夫でしょうか……?」


「心配しないで、手は打ってあるの」



不敵に笑ったシエラの期待通りにジェレミアは訪れた。




「姉様、クレマン夫人と会ったんだってね。進行は?」

「ええ、滞りなく」

「僕がすぐにでも手に入れてやるのに」

「基盤作りは大切よジェレミー。これからする事は全て、貴方が皇帝となる為にもきっと役に立つはず」


皇帝の目や耳が何処にあるか分からないので、ジェレミアの腕を引いて彼の耳に唇を寄せてそう伝えると、彼の瞳の奥には熱い劣情が宿る。



「姉様っ……分かったよ。クレマン家の招待のエスコートは僕がする」


「勿論よ、ジェレミー。終演としましょう」


シエラの手を愛おしげにとって熱のこもった瞳で彼女を見つめながら、手の甲に口付けるとそっとその手はシエラの頬に移り、人目をなど気にするものかとシエラに口付けた。



「ジェレミーっん!」



後頭部を固定するジェレミアの手はピクリとも動かず、やさしく口内を犯す舌は熱く絡まり貪る。


暫くそうしていると、シエラが酸素を求めてジェレミアの胸を叩いて助けを求めると下唇を優しく食すように何度か遊んで惜しそうに離れた。



顔を真っ赤にして絶句するリンゼイをよそに、ジェレミアは打って変わって子犬のような視線をシエラに送った。




「弟からの愛情表現だよ、勿論怒ったりしないよね?」


「…っ殿下!それはっ」


シエラがそっち方面に無知なのは薄々気付いているリンゼイがジェレミアを咎めようと声を上げた瞬間に、彼はシエラの頭を自らの胸に押しつけて、

「姉様、愛してる」と可愛らしく言うと同時にシエラに見えぬようにリンゼイを視線だけで殺すかのような視線で睨んだ。



それは、という警告のようでもあった。


「…っ!」


「ジェレミー、離して頂戴。リンゼイ……大丈夫よ。姉弟だもの」



仕方ないと言うような表情でそう言ったシエラに「それは違うのだ」と伝える事は出来ずに震えた声で「わかりました」と言うのが精一杯だった。








クレマン子爵家のパーティー当日、会場では後継者を紹介すると言う噂がチラホラと話されていた。


「おや、子爵夫人!」


「まぁ、チートラス伯爵様!お越し下さって感じ致しますわ」


「いやぁ……噂の渦中の鉱山の持ち主である子爵家の後継者ともなれば皆興味がありますよ、ははっ」


「光栄ですわ…!実は長男は……」




「長男がどうされましたか?母上」



「グ、グレンっ!?何故あなたが此処に!?」



瀕死の状態に追いやった筈のグレンが、夫人達よりも遥かに高価で品のある装いで現れた事に驚くクレマン夫人。



「ほお…!噂はただの噂ですなぁ!立派なご子息だ!」



「いえっ…伯爵様、グレンは……」



クレマン夫人があたふたと言葉を紡ごうとすると、辺りがざわめきとある一点に視線が集中する。

その場にいる皆が意外な参加者に驚く。



「あら……、私もそう思うけど?ねぇジェレミー」


「そうだね、ご子息はとてもご立派だと聞いているよ」



「このような小さなパーティーにお越しいただき光栄に思います、ジェレミア皇太子殿下、シエラ皇女殿下」



「そう堅くならないでグレン。私達は友人ではないですか」


「……ありがとうございます」

(シエラ皇女に近づくなという圧を感じるな……)


グレンはジェレミアの笑顔に何処か黒々しい雰囲気を感じながらも、平然を装い笑顔でシエラに答えた。


「わ、私からも感謝申し上げますわ!夫は近頃体調が優れず……今日は遅れて顔を出しますがご容赦下さいませ」


「そう…….子爵の御用体は大丈夫かしら?よければ良い医者を紹介するわ」


「ああ、姉様の頼みなら僕が皇宮医から手配しよう」



「それは!母上!なんて光栄でしょうか!……殿下方には感謝してもし切れない程ですね……ありがとうございます!」


グレンが大袈裟に感謝の意を示すが、クレマン夫人にとって間男を招き入れる為には子爵が早く死に、自らの息子エリオットが爵位を継ぐ必要がある。引き攣った笑いで曖昧に感謝の意を述べると急いで話題を変えた。




「所で…っ!皆様にお渡ししたいものが御座いますの。これは次男のエリオットと二人で悩んで考えたささやかな贈り物です」




そう遮るように言ったクレマン夫人の合図と共に、使用人達が何かを運んで来て、丁寧に一人一人に手渡す。




彼女が用意したのはダイヤモンド鉱山で採れたダイヤモンドを加工した美しいペガサスの贈り物の筈だった。



けれども、贈り物を空けると皆の表情は一斉に青ざめたのだ。


「お、お気に召さなかったでしょうか……?」


「なんだ、これは…!」

「どういうこと!?」


箱の中身を見るなり顔を青ざめさせ、そう騒ぐ貴族達に習って夫人が箱の中身を除くとちょうどエリオットが急いで来て「母上!これはどういう事でしょうか!?」と詰め寄った。



箱の中には、複製されたエリオットとヨリアス卿の血縁を示す鑑定書であった。


「まぁ!ジェレミー、これは大変ね」

「僕としても友人であるグレンのご家族の話だ。こう騒ぎになっては放っておけないね」


すると、タイミングを見計ったかのようにクレマン子爵が入場し騒ぎに勘づき近くの使用人から箱を一つ奪う。



「あなた!待って下さいこれは何かの悪戯です……!」


「それは、見てから考えよう……!お前、やはり……!!」


「父上!僕は何も知らなかったんだ!!」


「エリオット……」


「父上、とりあえずお客様を……」

「おおそうだな、グレン」



グレンは見事に場を収め、クレマン子爵はそんなグレンを嬉しそうに見つめていた。


悲壮感漂う顔で立つクレマン夫人とエリオットに子爵が「先に戻っていなさい」と言うとグレンがシエラに目配せする。



「ジェレミー」


「ああ、姉様。任せて」



ジェレミアが子爵に声をかけると、何やら話し込む。

少し話し込むと、握手して頷き合った。


(どうやら纏まったようね)



暫くして、クレマン夫人と子爵が離縁したと報告が届いた。


正式な後継者にグレンが立てられた事と、ダイヤモンド鉱山を事業としてシエラが支援する事。


ジェレミアとシエラは見事、後に脅威となるクレマン夫人を排除した。


実はクレマン子爵の容態は少し前から良くなっていたのだ。


シエラがグレンを通して、夫人とエリオットに悟られぬよう医者に見せていたからだった。

おおよその原因はウィスキーに毎日微量ずつ盛られた毒であったが、証拠を裏付けるものは見つから無かった。


けれどもそれを伝えたクレマン子爵は「薄々勘づいていた」と悲しそうに笑ってグレンが家を空けてばかりで荒れた生活をしていると思い、せめてエリオットを後継者にと考えていたのだった。


「妻の浮気は今も続いている」そう言った子爵はエリオットについては自らの子だと信じて疑ってもいない様子であったがシエラとジェレミアからのによってそれが間違いであると国中の貴族達が知ることになった。




勿論、エリオットに罪こそないが母とヨリアス卿の密会を隠蔽していた上に実子だと知っているヨリアス卿はエリオットを酷く可愛がっていた為、離縁の際に彼は本当の父親の元に返す事となった。





(これで、脅威となりうる皇后の資金源をひとつ潰したわ)



「僕、頑張っただろ?」と馬車の中で自慢げに擦り寄るジェレミアの自分と同じ色の髪を撫でながらシエラは次にするべき事を考えた。




そして同時刻、とある場所ではパーティーの招待状を作っている者が一人。



「皇女には必ず送ってくれ」


「何もパーティーまで開かずとも普通に誘えば……」


「それで彼女が捕まるのなら、こんな事を態々しまい」


「……御意」






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