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変わり始めた未来と皇太子の決意
しおりを挟む腕の中で気を失ったシエラにこんなにも罪悪感から胸が苦しくなった事は無かった。
シエラは皇帝が前皇后、レイラを憎んでいると思っているだろう。
だが、皇帝は未だにレイラの存在を求め不眠に悩まされている程に彼女を偏愛しているのだ。
(自らが殺したも同然なのに、気色が悪いよ。)
先程の父の狂った姿を見てゾッとした。
シエラに対する自らの独占欲がまるで父のようだったからだ。
こんなにも愛おしく思うとは考えてもいなかった。
レイラの存在が、実母を苦しめその環境が自らを孤独にしたのだからシエラは産まれながらの罪人なのだと、自らに対して罪を償うべきなのだと思っていた。
だがシエラはいつだって、僕の我儘じみた八つ当たりを受け止めたし、震えている癖に僕しか家族が居ないのだと時折慈しむような笑顔を見せた。
聡明で、機転が効くので利用してやるつもりだったはずが段々と彼女を独占したくなった、愛おしくなった、それに今度は傷つけたくないとすら思ってしまうのだ。
(僕はどうかしてるよ。これじゃまるで…)
恋のようだと考えかけて、やめた。
「馬鹿げているな。…姉様、ごめん。」
「ジェレミー……っ…?」
「!!……目が覚めた?」
「……っ!」
びくりと肩を震わせたシエラを見て、ズキリと胸が痛む。
あんな事があったのだ、無理もないだろう。それでも今はまだあの気色悪い父のご機嫌を損ねてはシエラの身が危うくなるのだ。
「姉様…ごめんなさい。」
「…ええ、分かっているわジェレミー、だけと少し一人にして欲しいの….」
「…。」
「お願い、ジェレミー。」
「分かった。」
とは言ったものの何故か部屋を出たものの扉の前から動けずにまるで護衛兵のように張り付いたままだ。
姉様の啜り泣く声が聞こえて来て、益々自己嫌悪した。
そして、父親に対しての嫌悪感も膨らんでいった。
どうすれば姉様を僕だけのものにできる?
あの執着心の強い糞爺から守ってやれるのか、
ぐるぐると考えている内にふと、思いつく。
シエラさえいれば、皇帝になれると確信していたからこそ利用するはずだったのだ。
(姉様が居れば、僕は皇帝になれる一緒なら…)
今までだってそうだったのだ、シエラの機転と頭脳で数々の危機を回避出来たし返り討ちにしてきた。
シエラは参謀としての才能は勿論、その美貌から外交も得意とするのでジェレミアにとっては最高のパートナーであった。
そして、父に嫌悪したもののシエラを自分だけのものにしたいと思う気持ちは変わっておらずシエラに触れれば触れるほどに彼女を欲してしまう自分が居ることはもう否定出来なかった。
でも、近頃のシエラはどこか離れてしまいそうな感じがする。
繋ぎ止めておくにはここが彼女にとって一番安全なのだと思わせる必要があるのだ。
(父上が邪魔になるな。)
彼は予定よりかなり早く、皇帝になる事を決意した。
彼が皇帝になる事、それは過去のシエラにとって死を意味する。
大きく変わり始めた未来は果たして彼女にとって吉と出るのか、凶と出るのか…
「…!!」
「ジェレミー…、居たのね。」
「姉様、今日は休もう。」
「まだ仕事があるわ。」
「僕が伝えておくよ。」
「でもっ…」
「お願いだから、今日は休んで?」
「ジェレミー…ありがとう。」
過去のジェレミーにとってシエラは自らの欲求と野望を叶えてくれる者であった、仕事をしない事は役に立たない事に繋がるので休んだ事は一度も無かった彼女は不安に思いながらも、切実な表情で気遣うようなジェレミアを見てゆっくり頷いた。
何故だか今日のジェレミアはいつもに増して過去のジェレミアとは違った雰囲気に感じた。
(優しくなった?罪悪感かしら…それとも過去とは違うの…?)
「姉様、これからずっと僕が守ってあげる。」
「…十分してくれているわ。」
「だから、僕の姉様で居てよこれからも、」
今にも泣き出しそうな表情で言うジェレミア、
この広い皇宮でずっと二人だった。
一種の依存ともいえるだろう、けれども今は弟を放っておく事など出来なかった。
シエラ自身、この広い皇宮で一人だったから、
彼だけがシエラの家族だったからだ。
(貴方が私の命を奪うまでは。)
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