悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang

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皇女の厄日、公爵はちぐはく

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「んー、どこかな。」

そう言ってとぼけた様子でシエラの肌を撫でる手はとても探しているようには感じない。シエラはこの辱めに耐えながらも彼はだったと思い出す。




寂しがりやの子どものような、それでいて完璧な支配を求める独裁者のような、シエラに対してはまるで狂気なまでもの執着を見せ、更にはその手段を選ぶような人間ではないのだった。




ほんのり赤く染まった頬に、耐えるように唇を噛み締めて俯き気味な瞳は羞恥に潤んでいる。




ジェレミアはシエラの肝心な部分を指で弾くように触れると、シエラは声にならない声をあげて身体をびくりと跳ねさせた。




所詮姉弟の戯だろう。



シエラの事など知るものかと考えながらも、リヒトは身体を跳ねさせてジェレミアの手を止めるように自らの身を抱き締めた彼女を見た瞬間、怒りとも何とも言えない感情にかき立てられ、ジェレミアの腕を掴んだ。




「ジェレミア殿下、姉君とはいえこれ以上辱められては困ります。必要であれば私が取りましょう。」



表情こそ、強気に見えたが小刻みに震えるシエラを見ると頭に血が上り目の前がチカチカするようだった。


「…っ!」


シエラは驚いたように目を見開き、すぐに視線を逸らしたがジェレミアは相変わらず表情を変える事はしないで「そんなつもりはないよ。」と笑っただけだった。



「あ。あった。…姉様、よく頑張ったね。」



そう言って引き抜かれた手には指輪があり、後ろから抱きしめるようにしていた体制のままシエラの首元に軽く触れるだけのキスをした。



「なにを…!?」



(弟というには少し度が……!そうか二人に血縁はなかったな…。)




「マッケンゼン公爵、私は大丈夫です…暫くお待ち頂ければすぐに準備するわ。リンゼイを呼びます。」




表情は見えなかったが、そう言ってはだけだバスローブの胸元を押さえて足速に部屋を出たシエラを放っておけず、結局大人しく待つしか選択肢は無かった。



ジェレミアはリヒトと二人きりになると、いつもの通り柔らかく優しい笑みでテーブルとソファを指差して「そこで待ってて。」と言うだけだった。




「わかりました。」


にわかに広がる後悔。

(なぜ、また婚約者などと…。皇女の事など放っておけば良いものを…!)




「ねぇ、リヒト。」



ジェレミアが突然リヒトに声をかけ、軽く驚きながらも俯いていた視線をジェレミアに移す。



「今日はの件で来たの?それなら……」



「いいえ、婚約は取り消さないつもりだと伝えに来ました。」



「は?」


一瞬でジェレミアの笑顔は無になり、黒々と渦巻く何かが背景に見えるような気がした。


彼の中世的で驚く程の美貌は冷たく、射抜くようにリヒトを睨んでおりリヒトもまた、真っ直ぐにジェレミアを見据えていた。




「このような一方的な解消は受けられません。」



「リヒト、お前は姉様に興味などないだろう。それどころか鬱陶しく思っていた筈だ。父上への建前はいいから素直に手を引くといいよ。」



「それは、の話ですので。この後じっくりと皇女殿下と話し合います。」



「二人の?勘違いしているようだね…姉様は…」






「お待たせ致しました。皇女殿下が…っひぃ!」





急いでシエラの身支度とお茶の準備をして来たリンゼイは部屋を開けると二人が睨み合う物々しい雰囲気に思わず悲鳴を上げた。




「…。」

「…。」



「…はぁ。リンゼイ、姉様はもう支度が出来たの?」




「は、はい!」


(なるほどね、着飾る必要は無いと言う事か。)




「ま、いいよ。好きにしてみたら。僕は戻るよ。」




近頃の姉様を考えれば、きっと僕は後で怒られるのだろうと頭の中で考えながらリヒトに手を振ると、難しい表情のまま頭を下げるリヒトを流し見て部屋を出た。





「あら、ジェレミー戻るの?」


あからさまにほっとした様子のシエラに少しむかついたジェレミアは、すれ違い様に片腕でシエラのウエストを捕まえて抱え込むようにもう片方の手で頭を抱き寄せた。




「ジェレミー、いい加減にしなさい。お客様が来ているのよ。」



「…ごめんね、姉様。もうしないよ。」


近頃の姉様は扱い辛いかと思ったが、をした僕には甘い。



「…分かったわ。もう行って。」


自分よりはるかに背が高いジェレミアの頭を撫でて、眉を寄せて無理やり微笑んだ姉様に内心「チョロいな」とニヤリとして、一応しおらしく背中を曲げて立ち去った。




(寂しさで独占欲が強いだけで、まだ大人になれていないだけなのかもしれない。)




そう考えながら、部屋のドアを開けると憂う表情でソファに座るリヒトに思わずどきりと胸が鳴った。



(正義感が強いから助けてくれただけよ。それに…)





前世で断罪された時のリヒトを思い出す。

冷たくシエラを見下ろし、その隣には愛らしい女性が居た。


そう、




(そう、気まぐれよ。)






「先程は、失礼致しました。」



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