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謁見とジェレミアの別件
しおりを挟む「シエラ…。珍しいな。」
「はい、陛下。ご無沙汰しております。」
「貴女、よく王族として平気で顔を出せるものね。」
「ミシェル、やめなさい。シエラに罪は無い、それに……」
「姉様は役に立っていますよね?父上、母上。」
「ジェレミー!貴方ったらどうしたの、突然!」
「姉様が謁見していると聞いたので。」
「まぁ良い。してシエラ、用件はなんだ?」
「お父様にお願いがあります。聞いて頂けるのであれば、この間のお母様からのご提案をお受けしたいと思っております。」
「!!!」
皇后ミシェルが明らかに嬉々とした表情をしたのが分かった。
ジェレミアは訝しげにシエラを見ていた。
「うむ、まずはその提案とは何だ。」
「王位継承権の放棄です。陛下としても私の継承権の保持は喜ばしいものではない筈です。ジェレミアの信頼を得るという意味でもまずはこちらを放棄させて頂きたく存じます。」
「…!!…お願いというのは?」
「リヒト・マッケンゼンとの婚約解消です。強引な婚約では反感を買うのみです。私には彼の心を手に入れる自身がありませんので、早めに手を引くべきかと判断致しました。」
「姉様…っ!」
ジェレミアは心配そうに駆け寄ったが、その瞳の奥には歓喜が渦巻いていた。
「だが、お前は公爵を好いていたのではなかったのか?」
(父上、余計な事を…!)
思わず目線が鋭くなるジェレミアの手をそっと一瞬だけ握ってなだめる。
(ここで邪魔されてはだめよ。余計なものは全部捨ててから上手くこの国から消えるのよ。)
「ええ….ですが、公爵は違います。もう疲れたのです。お約束通り、ジェレミアが皇帝になるべくお仕えする所存です。今一度、私の我儘を聞いて下されば幸いです。」
「…。」
マッケンゼン公爵と縁を持つことはジェレミアの地盤を固めるのには一番手っ取り早い。
だが、逆に反感を買うとそれほど脅威だという意味でもあった。
貴族の中には嫡男ジェレミアの力を落として 馬鹿で操り易そうな皇女シエラを後継に立てようと画策する者も居た。
そこで、シエラの王位継承権の放棄はとても魅力的な提案であった。
皇帝自信、仕事もこなす上に出しゃばらないシエラ自体を憎んでこそいないもののジェレミアの地位を脅かす限りなく王位に近い他人である事には違いないのだ。
「陛下…、良いではありませんか。本人の意思で決めた事ですもの。」
「…父上、ですが継承権の放棄となれば姉上の立場が今以上に危ぶまれます!」
内心、両手放しで喜んでるいるはずのジェレミアはさも心配そうにシエラの肩を抱いて小刻みに震えてみせる。
「ジェレミア、貴方は本当に優しい子ね。」
「…わかった。シエラの願いを叶えよう。但し、公爵からも意見を仰がなければならん。きちんと話し合いもう一度来なさい。」
「はい。ありがとうございます陛下。」
(この条件、公爵は喜ん承諾するはずよ。貰ったわ!)
シエラは部屋に帰るとすぐに筆を取りリヒトに手紙を送った。
婚約解消を承諾する為に一文書いてくれれば、顔を合わす必要は無いと添えたにも関わらず思わぬ速さできた返事には「会って話したい」ということが書かれていた。
「皇女殿下、マッケンゼン公爵にお返事は…」
手紙を燃やしてしまったシエラに古くからシエラの侍女であるリンゼイが心配そうに尋ねるが、シエラは笑って「大丈夫よ、望んだ返事がきっとすぐに来るわ。」と言っただけであった。
その日から皇后のあからさまな嫌がらせはピタリと止まり、逆にジェレミアがよく尋ねてくるようになった。
皇女宮の半分はシエラの人柄を慕う者、もう半分はいい使用人ではあるがジェレミアの手の者達であった。
その中で密かにシエラは"資金作り"を始めないといけなかった。
(まずは…ジェレミーの監視を和らげないと…)
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