あなたの嫉妬なんて知らない

abang

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第二十六話 愛情

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あれから暫く経った。

二人の関係も、皇宮も国もまるで全部忘れてしまったかのように穏やかだ。



アスターは自分の執務室に彼女の机を置いた。

ダリアはそんなアスターの不器用な愛情表現や小さな償いをくすぐったく思いながらも彼の意図が分かるからこそ心が温かくなった。


アスターもまた、あんな事があったにもかかわらず、献身的にアスターを支え、失敗を教訓にして皇宮に尽くすダリアの真っ直ぐな愛を感じていた。



そんな二人を責める事なく、着いてきてくれる部下たちや国民の皆に更なる感謝を思いながらもお互いに対してもさらに深く感謝を感じていた。



それでも、一度隙を見せてしまえばアスターに言い寄る女性は時たま出てくるものだ。時には嘘や策を練る者も居る。


「ダリア様は貴方を愛していません!」

「そうか、なら後でダリアに聞いておこう」

「そんなの……!」

「俺は暇じゃない。万が一、虚言であれば不敬だがいいのか?」

「そ、それは……勘違いかもしれません」

「そうかなら、さっさと消えろ」


アスターの態度はさっぱりとしたものだった。

アスターの嫉妬の方法もすっかりと変わり、衣装を誰が見ても分かるほどあからさまに揃えたり、パーティーでは用事がない限りピタリとダリアの側を離れない。


ダリアにも時たま、命知らずな者が言い寄るが相変わらず冷静に回避しては、嫉妬深いアスターの小言を軽くいなしている様子だった。


アスターは、父や兄を真似る事をやめた。



彼らしく治めようと奮闘しているうちに執務にも更に力が入り、

「休んだ方がいいのでは?」とダリアを心配させる始末だった。



「じゃあ……膝を貸してくれないか」


視線を合わせずに、恐る恐る試しに言ってみるように言ったアスターが可愛く思えて少し頬を染めながらも「どうぞ」と膝を差し出した。


ほんの少し、それでも久々にゆったりと二人の時間を過ごす。


甘えるように身を捩ったあと、アスターが口を開く。


「いつか、ダリアが俺を信じてくれたら……結婚してほしい。ただずっと一緒に居るという証がほしいだけだ、深い意味はない。愛してるだけ」


目を閉じながら、独り言のように言ったアスターに心が軋んだ。



アスターの所為ではない、あの者カルミアの所為ではない。

ただ、自分自身が許せなかっただけだ。



「もう、ずっと前から信じてるわ。許せないのは疑ってしまった自分だったの」

「それなら、全て俺が悪い」

「いいえ、私が貴方と向き合わなかった」


イタチごっこになりそうな、会話だったがそれでも認めてしまえばどちらかを責めてしまうようで決着がつかない。

すると、アスターが縋るような目線でダリアを見上げて頬に手を伸ばした。



「……両成敗とはいかないだろうか?」


「……ふっ、それじゃまるで子供の喧嘩のようじゃない」


「もう笑っただろ。皆には充分償えてる筈だ。これからは二人で国に尽くしていけばいい。お願いだダリア……貴女が欲しい」


「アスター……私は……。私も、貴女と居たいずっと」


「もう悲しませないと約束する。皇帝としても貴方の夫としてもがっかりさせない」


「それは私の台詞、貴方を……皆をがっかりさせない皇后になるわ」


「ああ、そうしよう」


そう言って嬉しそうに笑ったアスターは幼い頃に、夢を語ったあの表情のままでやっぱりこの人が好きだと感じた。


愛故の嫉妬や、嫉み、僻み。


嫉妬なんてものは色んな形で時に人を傷つけるナイフとなるけれど、それでも元々は「愛してる」だったり「もっと良くなりたい」「負けたくない」ってプラスの感情から生まれるマイナスなんだって思った。


嫉妬したっていい、されたっていい、


(ただ自分に負けないことが大切なのかもしれないわね……)


今のアスターから受ける嫉妬は前とは違った。

自分勝手な感情だと思っていた前の嫉妬とは違って、

愛してるから独占したいってちゃんと相手の尊重を忘れない程度の可愛いものに変わっていたし、それが伝わる。



ダリア自身も今現在投げ付けられる、嫉みや僻みの視線にも嫌味だったり、時には傷つけようとする嘘にも振り回されなくなった。

ちゃんと大切な人達や、自分の心と向き合えるようになったからだった。




近頃一度、「そう思うのは、自分と向き合うのをやめて人を恨む事に逃げたんじゃない?」って言ったらその人は怒ったけれど「……痛いわね」って笑った。


要は、嫉妬で恋が盛り上がる時もあるし、闘争心が燃えて糧になる時だってあるはずで、

だからこそ、自分や相手と向き合うことだったり、大切な人を尊重することだったり本来のプラスの気持ちを忘れなければいいんだって思えるようになった。



執務が終わって、送ると言ってくれたアスターを待っていると、パーティーでよく見る令嬢が目の前に立ちはだかった。



「ダリア様って全員を見下してるでしょ?容姿だけで楽して皇后になれるって良いですよね。目下の努力なんて知らないでしょうね!」



目の前で顔を歪めてそう言った令嬢に、あの時の彼女が重なった。



「あなたの嫉妬なんて知らないわ。それって自分自身の問題じゃない?私になんて答えて欲しいのかしら、あなた」




前を向いて、見上げて歩こうって気持ちを込めて言った。

彼女もそう思ってくれたらいいなと思って言った。



「ダリア、何してる。帰るぞ」

「そうねアスター」


彼女はもう引き止めなかったけれど、握りしめた小さな手が目に入った。



(私も、あの時は不甲斐なくて悔しかったな……)



「強くなったな……」

「そうかな、でも私達が下を向く訳にはいかないでしょう?」

「ああ……そうだな」



そう言って握られたアスターのが少しだけ痛かった。

「傷ついていないか?」

そう言ったアスターが不安気だった。


「ええ、もう大丈夫よ。愛してるわアスター」

「!!」



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