あなたの嫉妬なんて知らない

abang

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第二十四話 処刑

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調査の結果、ルーフェス伯爵の余罪は決して多くはなかったが横領に国家転覆罪と言い逃れようのない罪状と証拠を突きつけられてすっかり意気消沈した伯爵はもう、ただ静かに判決を待つだけだった。



「ルーフェス伯爵を国家転覆罪、不敬罪、横領の罪で処刑とする」



崩れ落ちた伯爵は振り絞るように「信じられません、嵌められたんです」と拒絶したが突き付けられた証拠が、証人がそれを許してはくれない。



関与した貴族達もまた、逃れる間もなくその罪が公になり其々の罪を償う事となった。



それから数日の間の娘と同日に処刑日が決められ、二人の斬首台に並んだ表情は其々全然違った。



諦めたように白い顔で声も出さない伯爵に対して、


カルミアは「お父様に命令されてした事です!」「私は陛下に確かに必要とされていました!」と声を荒げているが、



カルミアが計画の為とはいえ、皇宮内で幾人もを股にかけていたことやその内の数人と同時進行で肉体関係を持っていたこと。



そして、カルミアは噂好きな貴族を逆手に取って上手く勘違いさせていただけで全貌が明らかになった今、誰がどう見てもアスターがカルミアへ気持ちを傾ける事はありえないと思えた。


「勘違い女!」「陛下に無礼だぞ!」

「ダリア様の足元にも及ばんな……」

「父親までも貶めようとするとは……」




男達の野次に、ダリアは「勝手なものね」と呟いた。



彼らはカルミアに、思わせぶりに振り回されていた男達で彼女の色香に惑わされた挙句、皇帝に近い存在だと思い込まされて彼女をとても崇高な女性と扱っていた。


あれほどまでにカルミアを持ち上げていた男は、関係を持ったり、愛を囁かれたのが自分だけではないと知ると、今のように突然豹変するのだ。




アスターは「どうした?」と視線をこちらに向けたが、ダリアが緩く首を左右に振って何もない事を伝えると「そうか」と彼女の頬をさらりと撫でて視線を戻した。



愛おしげにダリアを見つめる瞳や仕草は、人目や処刑される二人など全く気にしてもいない上に、だと思っていたアスターはまるでカルミアの処刑など早く済ませてダリアの事を休ませてやりたいとでも言うように彼女を心配そうに気遣っている。



(最後まで腹が立つ女だわ)




結局、子を孕んでいるという話も皇宮内の秘書官を手駒にする為の嘘で何ひとつカルミアが正当性を証明できるものは無かった。



「なんでアナタなの!?生まれた時から高貴な身分で、容姿にだって恵まれ何一つ苦労することなく陛下の隣にいられる……っ」



ダリアの事を指しているのだと、皆すぐに気づいた。



一体、何を言っているのだ?と言う空気が漂う。


皇后になろう人物が、苦労を知らぬ筈がないだろうと。

勿論その言葉に少なからず共感する者は居るが、それは内側を知らぬだけの話。


ダリアとて、幼い頃からの王子妃としての教育を経て、更に皇后としての教育を受け直した。

彼女はアスターの目標に間に合うように、彼に合わせて短期間で全てをこなして堂々と皇帝となった彼の婚約者として隣に立ったのだ。



勿論、家門の力はあるが命を狙われたり嫌味を言われたり、時にはカルミアのように妙策でダリアの日常をかき乱す者も居たが彼女はその話が皇帝に辿り着くまでに全て的確に処理してきた。


だからこそ、それを知る一部の者はダリア以外に皇后は有り得ないと思っているし、後から報告を受けたアスターは凄く怒ったがダリアがアスターを大切にしている気持ちが伝わるので、ちょうどその頃にエイジを付けたのだった。



「カルミア」


ダリアの透き通る声が響くとシンと彼女の言葉を皆が待った。

アスターもまた少し目を見開いたもののこくんと頷き話の続きを止めなかった。





「此処はそんなに居心地のいい場所ではないわ」



「はぁ!?ふざけているの!?」




「陛下を……愛してるから持ち堪えられるのよ。愛されているから、まだ見えない明日に立ち向かえるの」





「なによ……っ見せつけているつもりですか……」




「そうね、苦労したくないなら大人しくしているべきだったと伝えたかっただけです。此処はあなたの思うような場所ではありません」




カルミアはハッとした。

いつからだったか?もっといい男を、もっといい身分をと欲が出た。

女性秘書官に目を付けた意図は父親からおおよその想定を聞いていた。


初めから全部、ダリアの為だったのに、



「私は、ただその一部だったのに……」




「??」



「お願いします!!ダリア様!!お助け下さい!!!貴女なら陛下にそうお願いできます!!!命だけは……っ!!」

「ーっ!?」


縋るカルミアに苦しそうに息を詰まらせたダリアを庇うように立ち上がったアスターは静かな怒りを含んだ声で言い放った。




「さっさと処刑しろ、



「アスター」


「大丈夫か、ダリア?見なくてもいい」


カルミアも伯爵もまた思い出さずにはいられなかった。


皇位とダリア以外にはなんの執着も示さぬこの男はダリア無しでは心がすっぽり無いのと同じなのだと。


覚悟していても、カルミアの縋る生々しい処刑の姿に表情では分からないが衝撃を受けているであろうダリアをおろおろと気遣うアスターを呆然とただ見つめた。




(そうだ、陛下はこういう人だったわね……)


それでも、愛されたかった。

ダリアのように、全てを手に入れた女性になりたかった。


鈍いような鋭いような痛みがカルミアの頚椎を叩きつける。

先に落ち切ったのだろう父親の首が横目に見えて、何故か最期にはどうでも良かった母親の姿が見えた。


(あぁ、泣いてもいないわね。次の男の所に行くのかな)



「あ……いされたかった、の」


母親の無機質な表情と、アスターの冷ややかな瞳、そしてダリアの瞳に涙を溜め表情を引き締めた堪えるような顔が最期に写った。



(なんで、お母様も泣かないのにあんたダリアがそんな顔をするのよ)













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