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第十九話 葛藤
しおりを挟むあれから、ダリアの日常で変わった事と言えば尋ねてくるアスターと時間が合えば少し話すようになった事の他には、
カルミアと、その父の処刑の決定が公表された事、
カルミアの後にシーク卿という元騎士の秘書官がアスターの執務室付けに任命されたことだった。
二人の関係は決して、修復されたわけでは無かったがこうして度々お茶をして近況や心境を話す程度には落ち着いていた。
父君と兄君の影を追う事を止め、アスターとして彼にできる方法で皆を率いるとキラキラした目を向けた彼に「あぁ前に進んでいるのだ」と実感した。
皇帝として一歩ずつ成長しようとしているアスター。
そんなアスターを見て一歩進もうとダリア自身も決心する。
アスターとのこと、
そしてまず、頭に浮かんだのは大丈夫だと言っても心配して甲斐甲斐しく通うシオンの姿だった。
特に押しつけがましい求愛行動があるわけでもなく、元々幼馴染という事もあって突然断る方が自意識過剰なんじゃ……?と悩んでいたが、彼の優しさに気が紛れる事も勿論あったのでちゃんと感謝していた。
(でも、ちゃんと話さなきゃ)
「ダリア?」
いつも通りダリアを訪ねたシオンに「ごめんなさい、シオン」と声をかける。
「な、何が?勝手に通ってるだけだし謝罪なんて何も……」
「違うの、シオン」
「それって僕にとっては良い話じゃないね」
「シオン、ごめんなさい」
「ダリア……彼の元に行くの?」
「分からない、けれど貴方やあの人が一歩ずつ進もうとしているように、私も少しずつ心を整理して進みたいの」
ダリアは立ち止まっていると感じていた。
きっとアスターにも、自分の気持ちにも囚われているのだと。
それを甘受し肯定してくれるシオンは確かに優しいがだからといってこうやってドロドロに甘やかせてくれる彼にすっぱりと乗り換えてしまうような、心の切り替えはダリアには早々無理だと感じていた。
「ダリアはちゃんと進んでるよ、それに陛下の元へ戻る訳じゃなければ僕を利用してゆっくりと心の整理をつければいい」
「御免なさい、シオン。やっぱり貴方を利用し続けるなんてできないし、貴方を大切な幼馴染以上に思える事はないの」
「……ごめん、ダリア。つけ込むような事を」
「違うわ、私の味方が居ると分かって心強かったの。私を知って、思ってくれているということは自信にも安心にもなってた。大切なシオンをもうこれ以上利用することなんて出来ない」
「それは、利用とは言わないよ……ダリア。君は本当に優しいな」
「アスターを、愛している事は観念するわ。けれど彼を信じられない、だからまずは自分自身が成長しなきゃね!」
「そっか……」
「心に抗おうとすれば、精神力が必要だし。心に従おうとしても忍耐力が必要になるでしょ?」って笑ったダリアをシオンは「強いな」って微笑んで悲しそうに、でも彼女の背中を押すように頭にぽんと手を乗せた。
「イエスマンが必要な時には僕の元に来て、もしダリアが本当に悪女になったとしても僕はダリアの味方をするよ」
「ふふっ、ありがとう」
ダリアとシオンは固く握手してニッと笑い合った。
「じゃあ、今日はムサい男達とヤケ酒でもするよ」
「じゃあ、私はやるべき事をするわ」
そう言って、お互いの目的の場所へと別れた二人。
ダリアはとある場所に来ていた。
皇宮の敷地の裏側に位置する場所に在るイスタリア監獄、そこにカルミアは居ると情報を掴んでいた。
そして彼女の父もまた、そこに囚われていた。
「カルミア」
「あ……貴女、ダリア……様」
「何が狙いなの」
「誤解です、私はただ陛下にお仕えしたくて……」
「横柄で、無礼な秘書官だと思っていたわ」
「……は?貴女は、尻軽な公女なのに?」
「でも、もう良いのよ。悪女でも尻軽でも、アスターの口から出る罵倒の言葉なんてよく考えれば今まで意味を持つ言葉など一つも無かったの……ただ私より貴女を信用した事に心を傷めただけ」
「で、私を殺せば解決ってことですか?それで?取り戻せそうなのですか陛下は」
まるでダリアを嘲笑うかのように言ったカルミアにダリアはどうでも良さそうに返事をする。
「貴女の処刑は私の意志ではないわ、貴女の行いよ。それに取り戻そうなんて考えていないの奪われたともね。信頼なんてものは考えたって仕方ないものね」
そう言って少し笑ったダリアに腹が立って顔が赤くなるカルミア、
「何が言いたいのよ!」
「私が調べに来たのは、貴女が何を望んでいるのかよ。危険だと思えば公爵家として手を打ちます」
「ダリア、こんな所にいたのか」
「……アスター」
「陛下っ!私……っ、ダリア様も誤解をなさっているようです!」
アスターはカルミアと目を合わせる事無く、公務帰りなのか皇帝のマントをダリアの肩にかける。
「こんな冷える所で何をしてるんだ。ここに居ると聞いて驚いた」
「陛下!私も寒くて、悔しいです……誠心誠意お仕えしたのに!」
「お前とダリアは違うだろう?」
さも、当然と言った様子で小首を傾げた目の前の皇帝の言葉の意味が分からずにカルミアはただ言葉を失ったまま立ち尽くした。
「……アスター」
「陛下……どういう意味でしょうか?それは私が罪人だからですか?」
「いや、元よりお前とダリアでは全く違うだろう」
あまりにも純粋に言ったその言葉の真意が分からずただアスターの香りがするマントだけが温かいことだけは分かった。
カルミアもまた呆然とアスターの言葉の意味を探しているようだった。
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