あなたの嫉妬なんて知らない

abang

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第五話 友人

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「待って、ダリア!」


「シオン……貴女と踊りたい令嬢が沢山居たのを忘れたの?」


眉尻を下げて振り返ったダリアの表情はいつも通りに見えたが、幼馴染であるシオンには分かる。


「傷ついてるくせに、笑うな」


「なに、そうやって女性を口説いているのね」


「……泣いていいよ、僕達は幼馴染で親友だろう」


「……っごめんなさいシオン。少し胸を借りるわ」




ダリアの涙が止まるまでシオンは何も言わずに彼女に胸を貸した。


少し腫れたダリアの目が痛々しくてシオンは胸がチクリと痛んだ。


「ありがとう、シオン」


「いいんだ。僕の胸はいつでも空いてる」


「ふふっ……お休みなさい」


「ああ、またな」


シオンの馬車が邸を出て行くのを見届けながら、ダリアはアスターとカルミアの姿をふと思い出す。



アスターを諌める際に、彼女は彼の指先を絡めとるように包んだ。


秘書官と皇帝とは思えない距離感に、何よりアスターは彼女を信頼していた。



それにも関わらずまるで嫉妬でもしているかのように構う彼の態度に混乱するダリアは、気持ちを落ち着かせるように「ふぅ」と息を吐いてから考えるのをやめようと自分に言い聞かせた。



「尻軽に、退屈な女……馬鹿ね私ったら、何を期待してるの?彼は夜を彼女と過ごしているのよ。私ももう彼を忘れるべきだわ」




白く光る月が照らす景色が妙に静かだった。

ダリアは、彼が居ないとこんなにも世界が色褪せて感じるのかと考えていた。



「愛していたわ、アスター」



(新しい恋をするわ、私を尻軽と言った貴方の望み通り私は貴方など忘れてしまうほど魅力的な恋をするのよ)



パーティーでの破局騒動の所為だろうか、ダリアへと届く手紙は今までの数倍の量だった。


お茶会に、食事の誘い、夜会に、仮面舞踏会、演劇や庭園に誘う者も居た。


令嬢達のお茶会にはいつも通り可能な限りで参加の返事を出した。



「ヨハン・ウィルキルス侯爵……」


「お嬢様、侯爵は少し歳上ですが令嬢達からの人気も高く素晴らしい人だと専らの噂です」



侍女のアイラが目を輝かせて言うと、ダリアは気乗りしなさそうに溜息をついたが、それを宥めるようにアイラはダリアに言う。



「お嬢様、お二人などもうどうでもいいのだと、幸せになったお姿を見せつけてやるのです!」



「……」


「でも、幸せになって欲しいのは私の本音です……このような仕打ちは例え陛下でも許せませんっ!」



「そうね……会ってみようかしら。返事を書くわアイラ」



ヨハンとの約束は順調に取り付けられ、遂にその日が来るとダリアは舞い上がることのない自らの気持ちにやはりアスターと比較してしまう。


彼と約束した日はいつも落ち着かなくて、会うのが怖いようなけれども早くアスターに会いたくて彼を思い浮かべてはドキドキしていた。


(けれども私、今はすごく落ち着いているわ)


アスター以外の男性と二人きりでお茶をする事など親友と言えるシオン以外には初めてだった。


けれども、ダリアの気持ちはやはり落ち着いていた。


「ルチルオーブ令嬢、初めまして。ヨハン・ウィルキルスです」


「初めまして、ウィルキルス侯爵様。ダリア・ルチルオーブです」



「来て下さって、安心しました」


そう言って人の良さそうな笑顔で心底安心したように言ったヨハンは噂通りの好青年だった。


若くして爵位を譲り受けた彼は勿論、それ相応の有能な人物で物腰も柔らかい。

ダリアは少しホッとした。


「いいえ、私こそウィルキルス侯爵が優しそうな方で安心しました」


そういってふわりと微笑んだダリアの金色の瞳がヨハンを映すとその美しさにヨハンは思わず息をするのを忘れた。


女性は特に苦手な訳でも無かったし、侯爵としてそれなりのエスコートは心得ているはずだったがどうしても緊張でぎこちなくなった。

そんなヨハンに対してダリアは安心したが、それだけだった。


(アスターなら、きっと……いけないわ、何を考えているの)




彼の話は決して退屈では無かったし、エスコートもスマートだった。


ヨハンが女性に人気があると言うこともすぐに納得した。




その頃、皇宮ではいつもより深く眉間に皺を寄せたアスターに怯える部下達が仕事にならず、仕方なく執事長は「少し休憩しましょう」とアスターに助言した頃だった。

「陛下、しっかり休んで下さいね。私は少し外に出ますので。そう言えば……ダリア様はウィルキルス侯爵とデートのようですね。もう新しい男性が出来ただなんて……っ」


カルミアが部屋を出る前に立ち止まり、眉を顰めて軽蔑したような声色でそう言う。



「なに?」


ダリアと上手く行っていない事で、深く刻まれていた眉間の皺はもうそれ以上刻まれることはなかったが、その代わりに殺気すら感じる低い声に皆が震え上がった。



「へ、陛下……念の為エイジにダリア様を護衛させております」


執事長のマルコスがすかさず言うが、カルミアは扉を開けながら去り際にアスターに聞こえる程度の声で呟く。


「ダリア様は奔放な方ですから、気になさるだけ無駄ですよ」


「カルミア!ダリアを侮辱しているのか?」


「陛下を心配しているのですよ。私なら愛する人以外の男性と二人で食事になんていきません」


バタンと不作法に扉を閉めたカルミアは何処か怒っているようにも感じてアスターは首を傾げた。


「何だ」


「陛下は他に興味が無さすぎます」


「マルコス、場所は何処だ?」


「……いけません、陛下」




「もう一度だけ言う、場所は何処だ?」



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