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甘えてもいいんだよ
しおりを挟む愛慈の手伝いで汗だくな玲の背中に入った刺青はその甘い顔立ちとは正反対の怖い顔をして睨みつけている。
理人の跡を継ぐと決まっていたらしい愛慈には入れさせなかった祖父は、玲にはダメだと言わなかった。
その理由を知ったのも最近だった。
愛慈が父の跡を、玲が祖父を継ぐ私の補佐をする為に二人は自らそう決めてその為に学んできたんだと。
私と比較的、距離感の近い愛慈は年齢のせいかやっぱり大人で彼無しではもう生きていけないほどに甘やかせてくれるが、同時に親しさ故か甘え上手でもあった。
対して爽やかだが軟派な雰囲気もする玲は見かけとは正反対に特に私の補佐に拘っているように見える一面があった。
二人とも何だってこなすし、何をしても優秀。
けれど決定的な違いは愛慈は大人の人や私へ甘える事を知っていて、玲は兎に角一人で抱え込むところだ。
だから、私の補佐を担う彼を私も幼馴染として支えたい。
そうやって三人が互いに寄りかかってやっていければ、将来は無敵なんじゃないかってそう思う。
だから私は近頃、愛慈が私の全部を肯定してくれたみたいに……は、行かないけど私も玲を甘やかせてあげようという作戦を立てた。
「玲、その怪我どうしたの?」
「あぁちょっと……問題ないよ」
「手当しなきゃ!」
「何?俺のキュートな顔が傷モノになって悲しいの?」
「馬鹿、早く手当しよう?私がしてあげるわ」
「……ん」
こうやって家に帰ってくる度にかまい倒して、見本は愛慈なんだけど人に寄りかかってもいいんだよって植え付けたいと思ってる。
(私なんて、愛慈がいないとどうなるんだろう)
自立、なんて掲げたものの全く上手く行かないことばかりだった。
事あるごとに自分の口から「愛慈」って出るのも、別々にいるのに携帯の履歴はぜんぶ「愛慈」なのも……けれど咲も誰も私を変だとは言わない。それが不思議なくらい……。
「ちょっとお嬢? 俺放っといてまた玲ー?」
「愛慈っ」
いつの間にか背後から抱きしめられて耳元でそう囁く愛慈を見上げると少し拗ねたような表情。
(んな物欲しそうな顔すんなよ、お嬢)
「愛慈、よく我慢してんじゃん」
「?」
「うっせー、俺は大人だからなぁ」
「んだよ、愛慈の仕事付いてって怪我したのに……」
「あー?甘えんな俺なんてガキん頃からどんだけ……」
(あれ?なんか……)
背後にぴたりとひっついてる愛慈の表情は見えないけど、玲の表情はどこかいつもよりあどけなく見える。
悠々とした態度じゃない、何だろう言うなれば……
「ふふ、弟みたいね」
「「は?」」
「愛慈がお兄ちゃんで、玲が弟」
「Never!! どうして!嫌だよ愛慈が兄なんて!」
「事実さ、変わんねーだろ。諦めろよブラザー」
「煩い、発音悪い、愛慈のすけべ天音から離れろ」
「あ?ちょっとは話せるわ、馬鹿にすんな」
唐突に天音の頬に口付けたかと思うと、騒ぐ玲を無視。
天音から離れて玲の事をガバッと包み込んだ。
「何のつもり……気色わりーよ」
「お嬢に心配されてんじゃねぇよ」
「え……」
「お前、早く俺と理人さん以外にも慣れろよ」
(あぁ、玲にもちゃんと甘えられる場所があったんだ)
器用そうに見えて不器用な玲だから、きっとまだ二人以外にはうまく心を開けてないだけなんだよね。
「玲にも、ちゃんと寄りかかれる人がいて良かった」
ふわりと笑った天音が可愛くて、けれど少し寂しそうだった。
だから二人は思わず……
「「違う」」
「え?」
「お嬢、玲はお嬢にも寄りかかってるよ」
「ん、そっか……」
「本当だよ、けど俺……好きな子には良い所だけ見てほしーんだよ」
「ええっ!?」
「あ!お前、何言ってんだよ!」
でも、少し安心できたかもしれない。
そう思えた。
やっぱり三人居れば大丈夫だって思えたから。
(お祖父ちゃん、お父さん、ありがとう)
私達を出逢わせてくれて……
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