此れ以上、甘やかさないで!

abang

文字の大きさ
上 下
19 / 33

愛慈の葛藤と喜び

しおりを挟む

そのまま車を走らせて暫く走ると、いま人気の劇団のミュージカルを観に行き、終わると天音はとても感動して愛慈の袖をきゅっと握ったまま何やら一生懸命話していた。


「…ね、とても上手だったね!」


「そうですね、でも…」

(あー、可愛い)


「でも?」


「楽しんでるお嬢みてるのが可愛くて、集中できませんでした。」ニコリ


「…っな、愛慈!からかわないでよ、」


隣を歩く天音が照れてそっぽを向く仕草、赤くなった耳をみつけて満足したように、愛慈も少し照れて笑った。


「すみません、でも本気。」

「あの…愛慈…今日まだ帰んないよね?」


「…え!?いや、あの…晩飯には早いし、じゃあショッピングしましょう。」


ギクリと目を彷徨わせて、言う愛慈の腕を天音は膨れ面で取って、「もっと愛慈とデートしたい。」と言う。


(むり!可愛すぎ!もう、無理。親父、利仁さんすみません……)



「~~っ、買い物行って、晩飯食ったらちゃんと帰りましょうね?」


「うん、ありがとう!今日はずっと愛慈と一緒ね、」


「…~~!行きましょう、」


流石、愛慈はその後も完璧と言える程に天音の好みのお店に案内しては欲しいものを見つけては全部購入者した。

申し訳無さそうに、止める天音にむしろ満足というような恍惚とした顔で天音を制する愛慈に、先程まで彼に見惚れていた店員は思わず、ゾクリと背筋を凍らせて訝しげに愛慈を見ていた。



(この人イケメンだけどさっきから変だわ、ちょっと気持ち悪いほどよね)


一方愛慈の脳内は、天音でいっぱいであった。


(俺が与えたもので、お嬢が出来上がっていくこの快感!)

「お嬢、俺に遠慮しないで?お嬢の為に働いてるんですから。」



「愛慈、でも買いすぎだよ。一生懸命働いたお金だから大切に使って欲しいの。」


「お嬢…っ、」


「ありがとう、愛慈。ご飯は私がご馳走してもいい?」


天音は祖父からのお小遣いもあったが、利仁の会社の役員として手当が支払われており、勿論リモートになるが仕事もしていた。


とはいえ、見習いのようなもので、殆どが書類の処理である。


「お嬢もですよ、大切に使って下さい。俺のはほら…半分はあぶく銭ですから、」


「そんな事ないよ、私はお祖父ちゃんの仕事にだって誇りを持ってるわ。もちろん、愛慈にだって。」



愛慈は嬉しそうに、噛み締めるような表情をして天音の手を握って店を出た。


「…お嬢、何食べたい?」

今すぐ抱きしめたいほどの感情であったが、努めて平静に天音に聴くと、天音は優しく微笑んで、「愛慈の好きなもの、たまには食べたい。」と言った。

愛慈は少し考えて、天音を車にのせると車の外でなにやら電話んかけてから、車に乗りどこかへ向かった。




「わぁ、立派なホテルね!ウチに負けないくらいね、」


「ここの、食事はうまいって有名なんです。」


「そうなの?偵察も兼ねて楽しみ!」


期待通り、豪華かつ美味な食事と丁寧な接客で二人はとても有意義な食事だった。

雰囲気も良く、毎日一緒にいるはずなのに尽きない会話は車の中までも続いていた。


「……。」


「お嬢?急に黙ってどうしたんですか?」



見知った街並み、家にどんどん近付いていくと天音は寂しいような、物足りないような気持ちになった。

もっと、愛慈と2人で居たくて独り占めしていたかったし、人目を気にせず甘えたかった。



「愛慈…帰りたくない。」


「え"っ……こほっ、え?なんて?」


「まだ帰りたくないの、愛慈と居たい。」




(お嬢…これって意味わかって言ってんのか?)


「確認ですけど、意味分かって言ってます?」


「意味も何も、愛慈とただ二人で居たくて。前だって泊まったわ、いいでしょう?」


愛慈は殆ど自分のマンションで寝る事はなく、天音の家にある部屋で寝泊まりするのだが…


最近は確かに、天音を連れてマンションに帰る機会が増えたと思う。別に問題は無いのだが…


「お嬢、俺我慢できないかもしれませんよ?」


「我慢??」

「いや、なんでも……」




「あっ!」


愛慈の返事を待たずに途中で何かに気付いた天音は、真っ赤になって、顔を両手で隠してしまった。


「…ね?お嬢。俺だって男なので…好きな人と居ると尚更。」


「あ…愛慈ならいい。なにすんのかも分かんないんだけど…愛慈になら何されたっていい。一緒に居たい。」





愛慈は心臓を鷲掴みにされたような感覚と、潤んだ目で真っ赤になりながら必死で言う天音の可愛さとで訳がわからなくなって、思わずただ頷いてしまい、天音の喜ぶ姿に訂正する事も出来ずに進路を変えたのであった。



(俺って……、まぁ俺がちゃん耐えられればいいんだよね。)

頑張ろ、と小さくつぶやいた愛慈に小首を傾げて不思議そうに天音は見ただけだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】一夜の関係を結んだ相手の正体はスパダリヤクザでした~甘い執着で離してくれません!~

中山紡希
恋愛
ある出来事をキッカケに出会った容姿端麗な男の魅力に抗えず、一夜の関係を結んだ萌音。 翌朝目を覚ますと「俺の嫁になれ」と言い寄られる。 けれど、その上半身には昨晩は気付かなかった刺青が彫られていて……。 「久我組の若頭だ」 一夜の関係を結んだ相手は……ヤクザでした。 ※R18 ※性的描写ありますのでご注意ください

王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】

霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。 辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。 王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。 8月4日 完結しました。

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

処理中です...