此れ以上、甘やかさないで!

abang

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初めてのデートなんですけど

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とりあえずcalme-カルム-に寄った二人は、久々にみる美しく成長した天音の姿に感動したように声をかけてくれる昔馴染みのスタッフに捕まっていた。



「本当に、お美しくなられて!あんなに小さかったと言うのに…」



このグレーヘアーの紳士的な高齢男性は蜷川 斎門といい、仁之助の古い友人でもあり、今は利仁を支える部下である。そして利仁より社長として複数の国内事業を預かった愛慈をこのカルムで副支配人として支えてくれている。

「ふむ…愛慈君…」ヒソヒソ


斎門さんが愛慈に耳打ちすると、急に真っ赤になった愛慈がバッと斎門さんから顔を背けた。


「おや、図星でしたか。天音様はそのような事気にされる方ではないでしょう、お二人で楽しんで来なさい。」


「なっ!?」

「??」

「本日もカルムは平和でございます、お気をつけていってらっしゃいませ。」



「愛茲、なんの話してたの?」


「いや、別になんでも…」

「……。」 


「いや…デート楽しんでこいって…」

(この歳で初めてって、格好悪ぃよな…)


愛慈が観念した様に言い、天音の反応をおそるおそる見ると…



「…お嬢、真っ赤。」


「…っ嬉しいっ!!!愛慈の初めてをひとつでも私に貰えて、」


(その顔反則…!)


「….っ行きましょう。」


珍しく照れている愛慈を愛おしげに見つめて後を歩く天音に、愛慈の心臓はまるで握られたようにギュッっとなる。


いつも通りに、車に乗せていつも通りの雰囲気。


でも違うのはお互いの心臓の音はきっと大きく、染まる頬とどことなくかたい表情はそれを悟られないようにする為だと、これまたお互いが気付いていたことだった。



「あ、愛慈お腹すいたね、」


「食事にしましょう、」


努めていつも通り言った愛慈の隠れぬぎごちなさに、くすくすと笑って頷いた。



ーーキキィ


「着きました。」バタン


「ありがとう、…わぁ!!!」


天音は目を輝かせて、愛慈を勢いよく見た。


そこは、普段行列ができているはずの小さなお城のようなお店、今日は営業しているはずなのに人気は無く、ウェイターが店の前で出迎えてくれている。


「ここ、TVや雑誌で見て行きたいって言ったの覚えててくれたのね!ダメって言ってたのに…っ!」


嬉しそうにキラキラと目を輝かせて、愛慈に飛びつく。


「…っと!忘れる訳ないでしょう、」


欲しい物も全部知ってますよ、とニコリと笑う愛慈に一瞬ヒヤリとした天音だったが普段とは違う私服の愛慈の笑顔にやられて思わず抱きしめた両腕をぎゅっと強めた。


「ありがとう…愛慈。」

「どういたしまして、」ニコリ


「今日は、人が少ないのね!私達ついてるわ!」


いつも行列のはずのお店を見て、嬉しそうに言う天音を眩しそうに目を細めて見て、

「そうですね、」

と、一言言った。



「いらっしゃいませ。本日はようこそいらっしゃいませ。」


丁寧に頭を下げたウェイターが扉を開くと、店内に他のお客はおらず、目線だけでくるりと見渡してからウェイターに聞いた。


「少し来るのが早かったでしょうか?」


「?」

「…ああ、なる程。お嬢、大丈夫。時間通りですよ。」


「……!はい。本日は桜木様の貸切でございますので、他にお客様はいらっしゃいませんが、お時間通りで御座います。」


天音は、思わず足を止めて口元を両手で覆った。



「!!…貸切だなんて、…あいじっ、」

こんなサプライズを用意してくれた喜びと、行列のできるお店を独占してしまった申し訳なさで、どう反応していいのか分かるない天音に、ウェイターは優しく微笑んでペコリとお辞儀をした。


愛慈は優しく天音を席へと促して、ウェイターに合図をした。


「桜木様とお美しい彼女様の為に本日は当店最高のおもてなしをさせて頂きます。」


ウェイターの言葉と共に、店の奥にあるグランドピアノにピアニストが座り、美しい旋律で店内に安らか雰囲気を作った。


「わぁ!とても素敵な曲ね。愛慈、ありがとう!」


「まだは始まったばかりでしょ、お嬢。沢山喜ぶ顔が見れるといいんですけど。」


「きっと、そうなるわ!……愛慈の初めてのデートってだけでとっても嬉しいんだから、」



頬を染めて恥ずかしそうに瞳を伏せて言った天音に、思わず紅茶のカップを落としそうになりながら、平静を装って微笑んだ。



「ありがとうございます。俺も初めてデートしたのがお嬢で嬉しいですよ。」

(くっそ、可愛すぎでしょ!今すぐ抱きしめたい!今日俺…我慢できんのかな、………。)




それからは楽しく食事をして、等々デザートが出てきた。


「どれも素敵な食事で、とても美味しいね!」


「ああ。…お嬢、デザートはそれ、何選んだの?」


「これね、チョコなんだって!可愛いでしょ?愛慈のはなに?」


「これは…アイスですね、上品なミルク味がする。美味い、」


じーっとアイスを見つめる天音に、愛慈はニヤリとして、スプーンにアイスをのせて差し出した。


「食べたかったでしょ、お嬢。」ニヤリ


「…!っそんなこと………ある。」


照れ隠しか、少しだけ反抗的な目で愛慈を見ながら差し出されたスプーンに唇を寄せて、アイスを食べようとみずみずしい唇を軽くあけてから、チラリと見えた赤い舌先に愛慈が目を奪われている間にパクリと食べてしまう。


(なに、なんかえろ…)



「んん~~っこれも美味しいっ!……愛慈?」


「…っえ?あ、美味いですね!お嬢も、食べさせて?」


小首を傾げて、いたずらに笑う愛慈に天音は顔を赤くしながら、チョコにコーティングされた丸いケーキをのせてスプーンを差し出した。



天音もまた、ドキドキと愛慈の唇を見つめて、真っ赤な顔で愛慈の食べる姿を見ていた。


(愛慈、なんか色っぽいな…大人だ…)


「お嬢?食べな?」


ぼーっと愛慈を見つめたままだった天音に困ったように笑って言う愛慈に悟られないように急いで頷いて、紅茶を啜った。



他愛もない話をして、食事を全てすませると、ウェイター達に見送られ、お店を出る。


スムーズに車に乗せられ、乗せられた膝掛けと温まる座席のシートを感じながら心の中で思う。


(当たり前だと思ってたけど、こんな風にしてくれるのも…やっぱりお会計をしていないのも特別な事なのよね。)


律とのデートの後から、天音は愛慈から与えられている当たり前がとても特別なものなのだと感じていた。


(って言っても律先輩とは、愛慈が迎えに来ちゃったし、ちゃんとしたデートは今日が初めてなんだけど。)



「お嬢、何考えてます?」

「愛慈がいつも優しいなって、それって……」


「それって?」


ーー私を好きだから?


「ううん。なんでもない!次が楽しみ!」


「…。お嬢、愛してますよ。」


見透かしたように、眉尻を下げて微笑んだ愛慈に少し驚いてから顔を赤くして俯いた天音に満足そうに笑って車を進めた。
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