あなたの愛人、もう辞めます

abang

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罰を受けるべきなのは

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いつも私だーー、

自分を正当化するつもりも無いが、カルヴィンはあまりにもひどい男だと思う。


「彼、少しの間邸から出られない程の怪我なの」

「そうですか……」


エリシアとその後ろに集まる沢山の令嬢達。


軽蔑と嘲笑の混じる、それらを吐き出すような話し方でそれぞれ私を罵っているが正直どうだっていい。



「貴女の所為だって聞いたのだけれど」

「あれがどうして私の所為になるんですか?」


睨みつけるエリシアの瞳を見れば分かる。
かつて自分がそうだったように、愛しているから彼を信じたいのだろう。そうであって欲しいという希望でもあるのだろう。


けれどカルヴィンはだ。
信じたところでこちらが深読みするほどの意味を彼は持たない。

欲望や自己中心的な思考からくる単純な愚行なのだから。


「貴女が誘惑した事は知っているのよ!?」

「していません」

「~っ、まだ未練があるの?それとも恨みかしら?」

エリシアは苛立った様子でリベルテにぶつける。
彼女に続くようにハンカチや近くにあった物が投げつけられ「売女」「娼婦」「泥棒」と罵声が浴びせられた。


(酒瓶じゃ無かっただけマシよね……)


リベルテはこれも元々は自分の過去の行動が巻き起こしたことだと耐え凌ぐことを選んだ。


けれどその伸びたままの姿勢や、意志の強い瞳がエリシアは何よりも気に入らないのだ。


他の令嬢がリベルテの両腕を押さえつけ、エリシアが扇子を持ったまま高く手を挙げたーー

頬を打たれるのだと覚悟した時、リベルテの鼻を掠めたのは慣れ親しんだ清潔感のある香りだった。


「エイヴ……」

「あれ?目を瞑ってても僕だと分かるのか?」


目を開くと、視界にはやっぱりエイヴェリーの背中で軽口を言いながらも彼はエリシアの手を掴んでくれていた。


「わかるわよ……なんで来たの?」


エイヴェリーの評判や地位に自分の所為で傷をつけたくは無かった。

だから彼から離れ、一人で呼び出しに応じたというのに……

彼のうなじに伝う汗で分かる、きっとエイヴェリーは慌てて探し回ってくれたのだろう。

それなのに強がって可愛げのないことを言ってしまったと後悔した。


「今、忙しいから背中なら貸すよ?」

「……ありがとう、エイヴ」


いつの間にか両脇を押さえていた令嬢達は距離をとっていて、エリシアは青ざめた表情で手を下ろした。

ほっとして力が抜けたのかもしれない、ぽすんとエイヴェリーの背中にもたれ掛かるように頬をつけると何故か嬉しいときの癖でワントーン声色が明るくなった彼に「素直だね」と笑われる。


「ええ、疲れたみたい。ちゃんと連れて帰って欲しいわ」

「ははっ!僕のたった一人の親友の為なら喜んで」

「公爵閣下っ!リベルテさんは夫を誘惑したのですよ!?」


エリシアが半ば叫ぶように言った。

その甲高い声に眉間に皺を寄せるエイヴェリーは、今度は聞いたことのないほどの冷たい声で言う。


「彼を、あんな風にしたのは僕だよ」

「なっ、でも……!」

「御者を打って、無理やりリベルテの馬車を止めたんだ。駆けつけた時には君の夫は彼女に暴行をはたらく所だったよ」


扇子をカランと音を立てて落としたエリシアに追い討ちのようにエイヴェリーが伝える。


「ほんと、僕が間に合って良かったよ」


まるで、君の為にもと恩を着せるような雰囲気。

圧力すら感じるエイヴェリーの様子にエリシアはとうとう、しぶしぶと謝罪し踵を返した。



「失礼しますわっ!!」


慌てて追いかける令嬢達を鼻で笑うエイヴェリーがいつもより少し怖く感じたが、それでもリベルテにとっては心強い親友だった。


「今日はずっとひっついてようか?」

「エイヴのばか」

「さ、リベルテの父君が晩餐に誘ってくれたんだ」

「そうなの?じゃあ一緒に帰りましょう」

「勿論、馬車を用意してあるよ」


二人の仲が本当にただの親友なのかと疑う声が令嬢達の間ではしばらく噂の的となったが、エスコート以外では手すら繋がない二人をだんだんともどかしく思う者達が増え、親友同士から恋人に変わることを願う二人の後援隊までもが出来たらしい。













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