あなたの愛人、もう辞めます

abang

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偶然か仕組まれた出会いか

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「公爵様っ!奇遇ですね……」

照れた笑顔を浮かべるレビアにエイヴェリーは「またか」とうんざりした。

「ああ。急いでいるんだ。失礼するよ」

「待ってください、公爵様!」


最近やけによく見かけるレビアが何故よく会うのかエイヴェリーは知っている。


この照れた表情もきっと作り上げたものだと知っているし、だからと言ってエイヴェリーには心底どうでもいいことだった。


「なんだ?」

「ーっ、こんなにもよく会えるなんて……運命ではないかと思っているのですが、今度ゆっくりお話しでもーー」


レビアの言葉を遮るように「時間は無いよ」と視線を合わせることもせず早口で断ったエイヴェリーの反応にレビアは焦ったような泣きそうな表情をした。


「おや、奇遇ですね閣下。レディに恥をかかせるなんて感心しませんね」

「それなら君が相手をしてやれ、エスト伯爵」

「レビアはどうやら閣下を慕っているようなので」

「僕は忙しいんだ」


圧力を感じる笑顔。

偶然を装ってレビアを助力しに来たのだろうカルヴィンは思わず言葉に詰まったが、今度はレビアが震えた声を大きく張り上げた。

「ただの……っ、む、無力な令嬢に少しのチャンスも頂けませんか!?」

「ああ、無理だね」

「閣下!あまりにもレビアが不憫です!」


チャンスだとばかりに今度はカルヴィンが声を張り上げるが、エイヴェリーは鼻で笑った。


(白々しいな)

「それでも、リベルテとの約束に遅れたくはないんだ」

牽制のつもりだったのに、リベルテの笑顔を思い浮かべるとつい緩んでしまう表情を慌てて引き締める。

それを見逃さなかったカルヴィンは「そうですか、それは失礼しました!」と不機嫌を隠しきれていない顔でエイヴェリーを睨みつけた。

カルヴィンのそんな様子に顔を青ざめさせたレビアはまるでエイヴェリーに懇願するように「少しだけでも……」と彼を見上げたがあまりにも綺麗な笑顔に気圧される。


「申し訳ないね」

「リベルテ様はそんなに心の狭い方じゃ……」

「僕が遅れたくないんだ。一秒でも早く会いたい」

親友と言うには甘すぎる、まるでリベルテに恋焦がれるただの青年のようなエイヴェリーにカルヴィンはさらに眉間の皺を深めて勢いよく踵を返した。


「もういい!レビア、行くぞ!」

「あ、はい……!」


(それじゃ、自分たちで仕組んだとバラしているようなものだよ)


やっと立ち去った二人に深く息を吐いて髪をかきあげる。


「彼らと話しているとやけに疲れるな」


今日はリベルテが最近料理に興味を持ったのだと言っていた、お酒に合う料理とやらを振る舞ってくれる日だ。


「いい酒と、彼女に似合う花を買っていこう!」


馬車で待つティグにまた「リストアップしてくれれば、自分が行きます!」と小言を言われるだろうがどうしてもリベルテと飲む酒も、彼女に贈る花も自分で選びたいのだ。


失敗したのは魅力が足りないからだとレビアを手酷く抱いて、何食わぬ顔で妻の元へと帰るカルヴィンの事など気にする暇はエイヴェリーには無いのだ。


ましてや、愛していると言うのならばカルヴィンのように相手を雑に扱うことなどエイヴェリーには想像もつかない。

けれどもカルヴィンもまた、そんなエイヴェリーの気持ちなど到底想像もつかないだろう。

彼はその夜も「つまらない女にはそそられない」と妻との寝室を出るのだから。



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