あなたの愛人、もう辞めます

abang

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話題の二人は親友

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別に探さずとも見つけられる、どんなに作ろうとしたって作れない唯一の輝き。

腹立たしいことに私のリベルテの隣には高貴な男。
なにもあんな男と親友にならなくても、エリシアだったり、他のその辺の令嬢だったならまだ近づけたのに……。

よりにもよってリベルテが親友になった相手は、あのエイヴェリー・ゴールディだった。

別に婚約者でもなんでもない親友だというのに公爵のガードはあまりにも堅く、仕方なくレビアをリベルテの変わりにしている。

何かを嬉しそうに見つけたリベルテはひどく強い酒を指差し、それに笑って頷いたエイヴェリーは酒を注ぐと皿を受け取って何か食べ物を取りに向かった。



(親友と言いながら、酔わせて既成事実でも作るつもりか?)



世間知らずのリベルテが酒の種類など知るはずもない。
エイヴェリーが止めないところを見るときっと彼は気の強いリベルテを酔わせて今夜は寝室に連れ込むつもりだろう。


そう考えるといても立っても居られなくなって、気付けばリベルテの手を掴んでいた。


(また、金……)


リベルテの細い手首には華奢な金色のブレスレット、彼女の装いの中にもう私のエメラルドグリーンは存在しない。

思わず金色のブレスレットを凝視すると留め具の所にさりげなく見えたゴールディの紋章。
 

「はッ、独占欲か?」

「何を言っているの?離してください

「カル、と呼んでたろ」

「もう忘れました。離して下さい」


嫌悪されている。そう分かりながらもぞくりとする赤い瞳は前よりもより一層燃えているようで、いっその事すぐに呑ませて奴が戻る前に連れて帰ってしまおうかとすら考える。


「離してやってくれるかな?」

「……公爵閣下、私は世間知らずのリベルテに忠告しただけです」

「忠告だって?」

「こんなにも強い酒を呑ませてリベルテに何をしようと?」


私の言葉にきょとんとするリベルテはまだ愛らしいが、同じ表情をした後、小さく笑ったエイヴェリーはひどく憎らしい。


「ふ、リベルテがこの程度でどうにかなる女性だと?」


私の手からリベルテを奪って、自らのハンカチで嫌味にも拭き取ると見せつけるように楽しげに微笑み合って乾杯した。


「リベルテ!飲むな、許さない!」

「伯爵様に許される必要はないわ」


見ていないふりなどもうとうにしていない会場の者達が注目する中、それすらも何でもない事のように酒に慣れた者でも酔ってしまうような強い酒を一気に飲み干した。


(公爵に抱かせる位なら、目立っても連れて帰ーーー!?)


すぐに二杯目を飲み干し、私を居ないものかのようにリベルテは「初めてよ、この強さでこんなに爽やかなのは」と嬉しそうに奴に感想を述べる。

三杯目を注いでリベルテがエイヴェリーに手渡した所で我に帰り、慌てて止めた。


「やめろ!何を考えてるんだ!?」

「ふふ、伯爵はほんとにリベルテを知らないんだな」


その言葉についカッとなって、声が大きくなる。

「そっちこそ、世間知らずのリベルテを酔わせて何をするつもりでしょうか!?」


「ふ、ふふふ!」

「リベルテ、酔ってると思われるよ」

「だって……酔わせて、ですって」

「あぁ……悪いけど伯爵、リベルテはこれくらいで酔わない」

「だから勿論、私たちは何もしないわ」



確かに、リベルテの顔色は変わらない。

まさか酒瓶を見間違えたか?

そう思って勢いよく酒瓶を取ると私からそれを奪ってグラスに注いで飲んだのはエリシアだった。


「きっと偽物よ……っう!」


一口、たったの一口でエリシアはしゃがみ込んで顔を上げた時にはもう頬を赤くして瞳を蕩けさせていた。

夜会とはいえこうも公の場でこのような表情を晒すのははしたないとされている上に、普段のエリシアならば令嬢らしからぬと大騒ぎするだろう。

けれど、エリシアの状況を見るに確かに酒は本物だ。


は心配無用だ。奥方を連れて帰ってやっては?」

「……っ僕の?だって?」

「伯爵様、私もエリシアさんが心配ですわ」

クスクスと笑い声が聞こえ始める、足元でうずくまって「暑い」と呟き始めるエリシアのいつもとの違いに男達の好奇の目、女達の嘲笑が向けられている。

「まぁ、あんなに必死になって……」

「余程リベルテ嬢の失態が見たかったみたいだな」

「脱いでくれるならどちらでも良いさ」

「私なら恥ずかしくて居られませんわ」


目線をエリシアからエイヴェリーに上げる際にチラリと見えた何の変哲もない袖のカフス。


(ルビー……の中に両翼?)

両翼のモチーフはよく羽ばたくという意味にかけて自由を意味するシンボルに使われる。

そしてリベルテ、その名の意味も「自由」が由来だったーー。


身体の底から痺れるような、かえって力が抜けるような激しい怒り。親友と言いながら互いのシンボルを送り合うほどに深い仲。

自分の知らないリベルテの姿、知る姿よりも遥かに美しい両翼を与えられた彼女の完璧な姿。

壁際で心配そうに見つめる模造品も、床にうずくまる妻も全部が虚しくて、なぜリベルテが今自分のモノではないのか理解ができない。

怒りに任せるように乱暴にエリシアの腕を引いて会場を出る事が精一杯の理性だった。




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