あなたの愛人、もう辞めます

abang

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好きなものを見つける

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エイヴェリーが案内してくれたのは国一番の大きな商業施設で、彼はそこを貸し切ったと言うのだからさすがのリベルテも驚いた。


王族が管理するこの施設の中には、衣食だけでなく娯楽が組み込まれている。貴族だけでなくあるレベルの基準を達していると判断されれば出店する事が出来るこの施設には色んな珍しい店が並ぶ。

リベルテは目移りして酔ってしまいそうだった。


「好きなものを見つけよう」

「好きなもの……?」


カルヴィンのリベルテへの傲慢な態度にエイヴェリーは憤りを感じていた。リベルテはきっと全てを管理されていたのだと悟ってしまったのだ。

あの見下した、そのくせに全てを喰らうかなような欲深い目。

リベルテを思い通りに出来ると思っている勘違いを大きく覆し、期待など二度と持たせないように崩してやりたいとさえ思っている。

全てを語らぬエイヴェリーからそれを読み取るのは不可能なことだが、リベルテは彼がきっと自分の為を思って行動してくれたのだろうことは理解できているらしく、戸惑いながらも嬉しそうにはにかんだ。


「好きな色や、好きな食べ物、今日は全部リベルテが選んでいい。直感だったり何かを連想してもいいよ」

「あなたの好きなものも教えてくれる?」

「勿論だよ、一緒に知ってくのはどうかな?」

「ええ、すごく楽しそう!」



いつも何故か視界に入れば離れなかった凛々しい赤い瞳と、情熱的でありながらどこか妖艶な美しい髪。

輝かしい表情はきっと新しい自分に前向きだからだろう。

そう思うとリベルテにこのような表情をして貰えることが嬉しくてエイヴェリーは何とも言えない胸を締め付けられる気持ちになった。


お酒が好きになったこと、ドレスは髪色の映える色を好むこと、チーズが好きで、カルヴィンに合わせて飲んでいたブラックコーヒーよりも紅茶の方が好きだったということ……

身につけるものの好みや、食べ物の趣味、今まで何の疑問もなく手に取って来たものとリベルテがいいと思うものはやっぱり違った。

従順なリベルテの印象とは違う、もうどれ程の酒瓶を指差しただろうか?

今は、令嬢には珍しく彼女の父君くらいの紳士が選びそうな珍味に興味深々なリベルテの横顔を見ながら自分自身もまた楽しんでいることに気付いてくすぐったいような、ムズムズするみたいな妙な感じがする。


「エイヴェリー、ありがとう」

「こちらこそありがとう」

「こんなに楽しいのは初めてよ」

僕も同じ気持ちだった、けど友人とはこう言う時もっと気楽に、気を遣わせないように返すだろうと考えて「大袈裟だよ」と少し笑って、どうしても緩む表情を隠す為にリベルテの頭を撫でた。


この日を境にリベルテは少しずつ彼女らしさを手に入れて、あっという間に社交会でも注目の令嬢となった。


そして、僕もまた彼女の飲み友達から少しずつ親友という立場にまで近づいた。

身分差こそあれど、彼女も伯爵家の令嬢だしなんたってうちの公爵家に次ぐ大富豪だ。

僕達が親友であることに面と向かって文句を言う者はいない。

すっかり安心し切っているリベルテを見ると時々複雑な気分になるが、変に警戒されたくない気持ちが勝つ上に、傷心の彼女の傍でただ守ってやりたい、それだけだった。




近頃、カルヴィンが赤毛の令嬢と逢引きをしていると言う噂が紳士達の酒の席で話題に上がる事があり、それがリベルテではないのかと僕に不躾に尋ねる者が居る。


(違う、リベルテじゃない)


自信を持って言える、彼女の訳がないと。

三日に一度は晩酌を共にするし、互いの邸を気軽に行き来するほど仲が深まった。

彼女の両親ともよく話すがそんな心配事を口にしないわけが無い。

そうは言っても、聞いてしまうと心配になるもので、かと言ってリベルテにそんな質問をして嫌な思いをさせたくも無い。


「カルヴィンを見張るか……」


だが……まさか、カルヴィンがあそこまでどうかしているとは想像もつかなかったーーー
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