13 / 25
好きなものを見つける
しおりを挟むエイヴェリーが案内してくれたのは国一番の大きな商業施設で、彼はそこを貸し切ったと言うのだからさすがのリベルテも驚いた。
王族が管理するこの施設の中には、衣食だけでなく娯楽が組み込まれている。貴族だけでなくあるレベルの基準を達していると判断されれば出店する事が出来るこの施設には色んな珍しい店が並ぶ。
リベルテは目移りして酔ってしまいそうだった。
「好きなものを見つけよう」
「好きなもの……?」
カルヴィンのリベルテへの傲慢な態度にエイヴェリーは憤りを感じていた。リベルテはきっと全てを管理されていたのだと悟ってしまったのだ。
あの見下した、そのくせに全てを喰らうかなような欲深い目。
リベルテを思い通りに出来ると思っている勘違いを大きく覆し、期待など二度と持たせないように崩してやりたいとさえ思っている。
全てを語らぬエイヴェリーからそれを読み取るのは不可能なことだが、リベルテは彼がきっと自分の為を思って行動してくれたのだろうことは理解できているらしく、戸惑いながらも嬉しそうにはにかんだ。
「好きな色や、好きな食べ物、今日は全部リベルテが選んでいい。直感だったり何かを連想してもいいよ」
「あなたの好きなものも教えてくれる?」
「勿論だよ、一緒に知ってくのはどうかな?」
「ええ、すごく楽しそう!」
いつも何故か視界に入れば離れなかった凛々しい赤い瞳と、情熱的でありながらどこか妖艶な美しい髪。
輝かしい表情はきっと新しい自分に前向きだからだろう。
そう思うとリベルテにこのような表情をして貰えることが嬉しくてエイヴェリーは何とも言えない胸を締め付けられる気持ちになった。
お酒が好きになったこと、ドレスは髪色の映える色を好むこと、チーズが好きで、カルヴィンに合わせて飲んでいたブラックコーヒーよりも紅茶の方が好きだったということ……
身につけるものの好みや、食べ物の趣味、今まで何の疑問もなく手に取って来たものとリベルテがいいと思うものはやっぱり違った。
従順なリベルテの印象とは違う、もうどれ程の酒瓶を指差しただろうか?
今は、令嬢には珍しく彼女の父君くらいの紳士が選びそうな珍味に興味深々なリベルテの横顔を見ながら自分自身もまた楽しんでいることに気付いてくすぐったいような、ムズムズするみたいな妙な感じがする。
「エイヴェリー、ありがとう」
「こちらこそありがとう」
「こんなに楽しいのは初めてよ」
僕も同じ気持ちだった、けど友人とはこう言う時もっと気楽に、気を遣わせないように返すだろうと考えて「大袈裟だよ」と少し笑って、どうしても緩む表情を隠す為にリベルテの頭を撫でた。
この日を境にリベルテは少しずつ彼女らしさを手に入れて、あっという間に社交会でも注目の令嬢となった。
そして、僕もまた彼女の飲み友達から少しずつ親友という立場にまで近づいた。
身分差こそあれど、彼女も伯爵家の令嬢だしなんたってうちの公爵家に次ぐ大富豪だ。
僕達が親友であることに面と向かって文句を言う者はいない。
すっかり安心し切っているリベルテを見ると時々複雑な気分になるが、変に警戒されたくない気持ちが勝つ上に、傷心の彼女の傍でただ守ってやりたい、それだけだった。
近頃、カルヴィンが赤毛の令嬢と逢引きをしていると言う噂が紳士達の酒の席で話題に上がる事があり、それがリベルテではないのかと僕に不躾に尋ねる者が居る。
(違う、リベルテじゃない)
自信を持って言える、彼女の訳がないと。
三日に一度は晩酌を共にするし、互いの邸を気軽に行き来するほど仲が深まった。
彼女の両親ともよく話すがそんな心配事を口にしないわけが無い。
そうは言っても、聞いてしまうと心配になるもので、かと言ってリベルテにそんな質問をして嫌な思いをさせたくも無い。
「カルヴィンを見張るか……」
だが……まさか、カルヴィンがあそこまでどうかしているとは想像もつかなかったーーー
772
お気に入りに追加
1,650
あなたにおすすめの小説

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる