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その背中を追ってきた
しおりを挟むゴールディ公爵にエスコートされるリベルテの表情はかなり分かりにくいが、私には手に取るように分かる。
「どう行動すればいいのか」をずっと考えるているのだろう。
その最善がこの場から取り敢えず離れる事だと言うのはリベルテでなくとも分かるが、その自然な動機を今さら作るのには骨が折れるだろう。
予想外にも自然とはかけ離れた形で彼女を私の目の前から連れ去ってしまおうとするこの男には今、勝てそうにもない。
「ご、誤解を招きますわ、閣下……っ」
「令嬢が気にする事じゃない、それにーーー」
ゴールディ公爵が私に再び視線を寄越して、エリシアに「彼、顔色が悪いようだけど?」とこちらに投げかけたことで初めて自分の様子を知ることになった。
幼い頃からリベルテの背を追ってきた。
ずっと私のモノだと初めから決まっていた。
リベルテの肩を抱いて、見上げた彼女の真っ赤な瞳に写る自分はより一層いい男に見えたし私を写すいつもは勝気な瞳が柔らかく笑うのも好きだった。
「!」
何か言葉をいくつか交わしている二人、リベルテがゴールディ公爵を見上げて、小さく微笑む。
その瞬間、感じたことのない得体の知れぬ激情が込み上げて来て私の全てを支配する。
「……れは、……しの……ろ……っ」
「カルヴィン?大丈夫かしら、気付かずにごめんなさい……」
エリシアの心配そうな表情に気遣う余裕も無い。
「ソレは、私のだろう……」
「ーーっ、カルヴィン!」
エリシアの怒りに満ちた声で我に帰るが、この感情を押し殺す為に爪が食い込むほど拳を握った。
否、そうする事しか出来なかった。
リベルテが自分以外の男をその瞳に写して、自分を一度も見ないことがこんなにも腹立たしいことだとは思わなかった。
不自然にシンとした会場は二人の退場を見送ってからいつも通り騒がしくなり、様々な憶測が飛び交う。
「公爵閣下……騙されてるんじゃ……心配だわ」
エリシアがリベルテを良く思わないのは当然だとして、なぜあの男の心配をするのか?
どん底に落ちて欲しい相手の次のパートナーが存外いい男だったから気に入らないのか、それともーーー
「君も公爵が良いのか、エリシア?」
「そんな訳ありません……!私はただ……っ」
「そうか?ゴールディ公爵は確かにいい男だが」
クスクスと笑う一部の令嬢達、リベルテとはまた違った雰囲気でエリシアが表面上よりも好かれて居ないことが分かる。
「確かに、成り上がりの方がいい男を連れてるなんて」
「あんなに苦労されたのにねぇ」
「ほら、元は婚約寸前の所を金で奪ったんでしょ」
「私は寝取ったと聞いたわ!」
「それはーー」
エリシアが俯いて赤面する。
顔を上げられないままぽたぽたと涙の粒が絨毯に落ち、仕方が無いので退場させる。
(ムシャクシャする……あれは……)
赤い髪に限りなく近い赤茶の髪、まだ初々しい彼女は新興貴族かデビュタントを終えて間もないのだろう。
異様な雰囲気に状況が分からず戸惑っているように見える。
けれど希望に光る瞳が、赤茶の瞳の純粋さが似ている。
「あれを抱くか」
この顔のおかげでそう苦労はしなかった。
私の事も分からぬようなのであえて名乗らずに、恋でもしたかのような情熱的な瞳で見つめるレビアと名乗る令嬢に満足できそうだと思った。
(顔も身体も似ても似つかないが、瞳が良い)
それに、声がとても良く似ていた。
「レビア、良い店を知っているんだ」
「まぁ……でも」
「大丈夫、おいで」
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