あなたの愛人、もう辞めます

abang

文字の大きさ
上 下
11 / 25

その背中を追ってきた

しおりを挟む


ゴールディ公爵にエスコートされるリベルテの表情はかなり分かりにくいが、私には手に取るように分かる。

「どう行動すればいいのか」をずっと考えるているのだろう。


その最善がこの場から取り敢えず離れる事だと言うのはリベルテでなくとも分かるが、その自然な動機を今さら作るのには骨が折れるだろう。


予想外にも自然とはかけ離れた形で彼女を私の目の前から連れ去ってしまおうとするこの男には今、勝てそうにもない。



「ご、誤解を招きますわ、閣下……っ」


「令嬢が気にする事じゃない、それにーーー」




ゴールディ公爵が私に再び視線を寄越して、エリシアに「彼、顔色が悪いようだけど?」とこちらに投げかけたことで初めて自分の様子を知ることになった。



幼い頃からリベルテの背を追ってきた。

ずっと私のモノだと初めから決まっていた。


リベルテの肩を抱いて、見上げた彼女の真っ赤な瞳に写る自分はより一層いい男に見えたし私を写すいつもは勝気な瞳が柔らかく笑うのも好きだった。



「!」


何か言葉をいくつか交わしている二人、リベルテがゴールディ公爵を見上げて、小さく微笑む。


その瞬間、感じたことのない得体の知れぬ激情が込み上げて来て私の全てを支配する。



「……れは、……しの……ろ……っ」

「カルヴィン?大丈夫かしら、気付かずにごめんなさい……」



エリシアの心配そうな表情に気遣う余裕も無い。



ソレリベルテは、私のだろう……」


「ーーっ、カルヴィン!」


エリシアの怒りに満ちた声で我に帰るが、この感情を押し殺す為に爪が食い込むほど拳を握った。


否、そうする事しか出来なかった。



リベルテが自分以外の男をその瞳に写して、自分を一度も見ないことがこんなにも腹立たしいことだとは思わなかった。



不自然にシンとした会場は二人の退場を見送ってからいつも通り騒がしくなり、様々な憶測が飛び交う。



「公爵閣下……騙されてるんじゃ……心配だわ」



エリシアがリベルテを良く思わないのは当然だとして、なぜあの男の心配をするのか?

どん底に落ちて欲しい相手の次のパートナーが存外いい男だったから気に入らないのか、それともーーー




「君も公爵が良いのか、エリシア?」

「そんな訳ありません……!私はただ……っ」

「そうか?ゴールディ公爵は確かにいい男だが」


クスクスと笑う一部の令嬢達、リベルテとはまた違った雰囲気でエリシアが表面上よりも好かれて居ないことが分かる。


「確かに、成り上がりの方がいい男を連れてるなんて」

「あんなに苦労されたのにねぇ」

「ほら、元は婚約寸前の所を金で奪ったんでしょ」

「私は寝取ったと聞いたわ!」

「それはーー」



エリシアが俯いて赤面する。

顔を上げられないままぽたぽたと涙の粒が絨毯に落ち、仕方が無いので退場させる。


(ムシャクシャする……あれは……)


赤い髪に限りなく近い赤茶の髪、まだ初々しい彼女は新興貴族かデビュタントを終えて間もないのだろう。


異様な雰囲気に状況が分からず戸惑っているように見える。


けれど希望に光る瞳が、赤茶の瞳の純粋さが似ている。


「あれを抱くか」


この顔のおかげでそう苦労はしなかった。

私の事も分からぬようなのであえて名乗らずに、恋でもしたかのような情熱的な瞳で見つめるレビアと名乗る令嬢に満足できそうだと思った。


(顔も身体も似ても似つかないが、瞳が良い)


それに、声がとても良く似ていた。


「レビア、良い店を知っているんだ」

「まぁ……でも」

「大丈夫、おいで」








しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう
恋愛
フルリス王国の公爵令嬢ロメリアは、幼馴染であり婚約者でもある騎士ガブリエルのことを深く愛していた。けれど、生来の我儘な性分もあって、真面目な彼とは喧嘩して、嫌われてしまうばかり。 「……今日から、王女殿下の騎士となる。しばらくは顔をあわせることもない」 彼から、そう告げられた途端、ロメリアは自らの前世を思い出す。 (なんてことなの……この世界は、前世で読んでいたお姫様と騎士の恋物語) そして自分は、そんな2人の恋路を邪魔する悪役令嬢、ロメリア。 (……彼を愛しては駄目だったのに……もう、どうしようもないじゃないの) 悲嘆にくれ、屋敷に閉じこもるようになってしまったロメリア。そんなロメリアの元に、いつもは冷ややかな視線を向けるガブリエルが珍しく訪ねてきて──……!?

〖完結〗その愛、お断りします。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った…… 彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。 邪魔なのは、私だ。 そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。 「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。 冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない! *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

元婚約者が愛おしい

碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

処理中です...