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1.異世界と屋敷からの脱出
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目を開けると、何も分からなかった。
見たことの無い天井。それは別にいい。
けれど、自分が誰なのか、この体が本当に自分のものなのか、色々なことが分からなくなってしまった。なぜ、前は分かっていたかのような言い方なのかと言うと、常識的な知識は残っていたから。
ベッドの上で思考する。
なんとなく、この体に違和感を感じる。
思い出せ。
きっとそれがわたしの欠片。
何かが掴めそうで掴めない。
そんな時、扉をノックする音がした。
返事をする前に入ってきたのはメイド服の女性。
なんだろう、『メイド服は可愛いもの』という知識と『メイド服は仕事着』という知識がある。まるで、二人分の脳みそが合わさったような。
「失礼します。……あら、目が覚めたんですね」
「ここは、どこ?」
「! 意識があるんですか!?」
「?」
この言い方からすると、前は目が覚めても意識がなかったということになる。それならば恐らく精神的なもの。突然治ったりするものじゃないはず。
――怪しいよね?
メイドさんは報告してくると言って着替えを置いていった。今着ているのは手触りがよく暖かい寝間着。渡されたのは透け透けで男の人を誘惑するためにあるようなネグリジェ。
寝間着は暖かい格好なのに、着替えるものがこれということは……まさか、意識がない状態で男の人の相手をさせられていた?
……なんとなく違う気がする。
けど、大きく外れている訳でも無い。
そして、男の人の相手、というのに違和感があった。どうして? わたしは女で、相手が男なら違和感なんて…………これだ。思い出さないと。
わたしは女。そして、そして……
「わたしは僕でもあった、よね」
薄らと思い出せる。
平和な日本のこと。
死ぬ間際の痛みと苦しみ。
ああ、そうだったね。
僕は殺された。いじめの一種として暴力を振るわれていた。偶然、頭の打ちどころが悪くて血が溢れてきたんだ。そして、あっけなく死亡。
自己主張の少ない子供だったと思う。
もっとやりたいことをしていれば、と後悔していた気がする。
それは、わたしも同じだった。
生まれたところは貧乏で、けれどわたしは幸せだった。お父さんとお母さんに優しくされて、辛い時も二人が傍に居てくれた。
でも、そんな幸せは長く続かない。
初めは、新しい仕事を見つけたとお父さんが喜んだ。給料のいい安全な仕事だと。そう喜んでいたのに、実は大嘘でブラックにも程がある仕事で。
給料も何故か支払われず、お父さんがそこを辞めても精神的に追い詰められて次からは上手くいかなくなってしまったのだ。
家族仲は段々と悪くなっていき、お父さんは少ないお金でギャンブルに手を出してしまう。わたしはそれを知っていてお母さんに言えなかった。お父さんに嫌われたくないから。お母さんとお父さんは仲良くしていて欲しいから。
でも、それが間違い。
お父さんはギャンブル依存症になっていき、借りたお金を返せと家にまで人が来てしまったのである。お母さんは怒った。
離婚は当然。じゃあわたしは?
……お父さんと暮らすことになった。お父さんがシャルは俺が育てる、と言って。お母さんは怒っていたから勝手にすればいいと言って居なくなってしまった。
置いていかないで。
お父さんは、育てる気なんてない。
この目は、子供を見る目じゃない。
案の定、わたしは捨てられた。
ううん、捨てられたんじゃない。売られた。それがこの家であり、わたしは伯爵夫人の玩具として飼われている。
毎晩のように行われる行為に耐えられず、わたしの精神が病んでいくのも必然。そうなった少女達はここにいっぱい居る。
まだ、美人ならよかったのかもしれないけれど、ヒキガエルのような化け物が相手だったのである。きっと、意識のないわたしでもよかったんだろうと思う。
普通は子供を売ってもすぐにお金が尽きる。でも、わたしは普通の子供じゃなかった。みんなしらなかっただけで、わたしはご先祖さまの血が蘇った先祖返りらしい。お父さんはそれを伯爵の手の者に聞かされて、わたしを売った。
今のわたしは、もう何もない。
大切なものも……面倒な柵も。
「わたしは今まで人の為に生きたんだもん。これからは、自分の為に生きたっていいよね? ……ここからは、わたしの物語なんだから」
自分の体をあちこち触る。
艶のある黒髪で、肩より少し長い程度のセミロング。その頭には狐の耳、お尻にはもふもふとした尻尾……これが先祖返りの証。
鏡を見てみると瞳は蒼く、頬に赤い2本の線がヒゲのようにある。
体は小柄で、身長は145も無い。
胸もちょっとだけ。……但し、壁じゃない。
ステータス依存だから身体能力と見た目は関係ない。レベル、ステータス、スキル、これからがそこを当たり前のこの世界。
確か神様も居るんだったかな?
まあ、それはどうでもいいよね。
先祖返りのわたしは凄く強い。
具体的にはレベルが全然上がってない今でもオリンピック選手並に動ける……はず。凄いよね、全種目で1位になれるくらいだもん。
「さーて、行っちゃいますか!」
窓を開け放ち、足をかける。
「うぅ……やっぱり怖いよぉ……」
で、でも、大丈夫!
三階くらいなら耐えられるもん!
わたし、頑張れ! 飛び降りるんだ!
「えいっ」
気の抜けるような掛け声と共に飛び降りる。
足がどこにも触れない不安感を押さえつけながら着地。正直、今すぐ泣きたいくらい痛いです。でも、逃げないと。
上が騒がしくなってる。
多分、部屋に居ないのがバレたんだと思うけど、わたしってば危機一髪だったんじゃない?
じゃ、バイバイ――
「ま、待って!」
「!?」
ばっと後ろを振り返る。
女の子が居た。白髪で、猫耳の女の子。
先祖返りなのか獣人なのかは分からないけど、とても綺麗でわたしより少し歳上だと思われる。このお屋敷も美少女ばかりじゃないから、ここまで可愛い子は珍しい。
「お、お願いっ、私も連れて行って! こんなところ居たくないの! なんでもするからっ……!」
「……ん、いいよ。行こっか」
「! ……うんっ!」
窓から降りてくる。1階だから逃げ出すのも簡単……なんてことはない。きっと門には見張りが居るはずだし、このままじゃ捕まっちゃう。
ひとつ、小石を拾った。
「? ね、ねぇ、そんな石どうするの?」
「んと、ちょっと待ってて」
「え? お、置いて行かないでよ……!」
「大丈夫、すぐだから」
少し進んで息を潜める。
来て、早く、今すぐ……来たっ!
木に止まった鳥目掛けて小石を投擲。
一種の賭けだったけど、無事に命中してその体が落ちてくる。
「んんっ……」
ぞくぞくっと体に妙な感覚が。
これはレベルが上がった時の感覚。
試しに走ってみると、さっきよりも早く動けた。もしかしたらレベルが1のままだったのかな? それなら納得かも。
戻りながら手の甲を2回叩く。
これがステータスを開く為の動き。
────────────────
名前:シャルロット
種族:黒狐Lv2
年齢:15
職業:妖術師Lv1
治癒力:F
魔力:201/201(81+120)
体力:61(26+35)
筋力:35(20+15)
耐性:39(19+20)
敏捷:65(40+25)
器用:74(34+40)
精神:73(28+45)
抵抗:79(29+50)
◇解放済み職業◇
《剣士見習いLv1》《平民Lv1》《魔術師見習いLv1》
◇スキル◇
【選択の自由Lv1】【火魔術Lv1】【水魔術Lv1】
◇称号◇
『転生者』『先祖返り』『喪失者』
────────────────
職業……? そんなの初めて聞いた。
適当に《妖術師》にしてみたらいきなり上がったし。犯人は【選択の自由】とかいう謎スキルじゃないかと。ステータスに職業という項目は存在しないはず。気づかなかっただけでこれがわたしのユニークスキルなんだと思う。
そして、称号の転生者、先祖返り、喪失者、という順番を考えるとわたしは元々僕でもあって、精神的に壊れたから思い出したのかもしれない。いやな理由だけど。
でも、これで準備は出来た。
早くあの子の所に戻ってあげないとね。
「あ、も、戻ってきた……」
「待たせてごめんね。そういえば、名前聞いてなかったけどなんていうの?」
「えと、私はイレーネ……ただのイレーネ。そういうあなたは?」
「シャルロット。シャルって呼んでね」
「じゃあ、私のことはレネでいいわよ。だってその、友達っぽくていいし……ふふっ」
最後にボソッと付け加える。
ぼっちだったのかな……?
一応、緊張が若干解れたみたいだからよし。このまま外に出れたらわたし的にはとってもありがたいんですが……
「逃げてきたとこ悪ぃが、ここを通すわけにはいかねぇなぁ?」
「え……う、うそ……」
「ですよねー」
知ってた。居ないはずないよね。
これが手練の冒険者とかだと為す術もなく戻されちゃうんだろうけど、そんな冒険者が門番なんてするはずないっていう理屈。
それを証明するように目の前の男性は皮装備に普通の剣。
「仕事でもなきゃ美味しくいただくところなんだがよぉ……」
「ごめんね、ちょっと寝てて」
「――は?」
水魔術『水の抱擁 』
単に水の球に閉じ込めるだけの、手練の冒険者であれば難なく抜け出せるであろう魔術。ただ、剣士なら相当強くないと水を切ってもまた戻るだけ。
もがき苦しむ男性は、空気を吐き出しながら意識を失う。
この辺でいいかな。
演技の可能性も考慮しつつ降ろすも、その様子はなかった。えっへん、さすがわたしの魔術。(なお、気づいたの数分前の模様)
「え? え??」
「凄いでしょー?」
「う、うん、凄い……シャル、かっこよかったよ」
「えへへ~」
女の子に褒められると嬉しいなぁ。
前世の記憶をぼんやり思い出した分、女の子好きになっちゃったっぽい。これはこれで百合というか、レズプレイが楽しめるしいいけど。
……伯爵夫人? それは思い出したくない。
「とりあえず、どうしよっか?」
「えっ? 考えてなかったの?」
こうして、2人の少女は化け物の手から逃れたのであった……なんちゃって。これからが大変だもんね?
見たことの無い天井。それは別にいい。
けれど、自分が誰なのか、この体が本当に自分のものなのか、色々なことが分からなくなってしまった。なぜ、前は分かっていたかのような言い方なのかと言うと、常識的な知識は残っていたから。
ベッドの上で思考する。
なんとなく、この体に違和感を感じる。
思い出せ。
きっとそれがわたしの欠片。
何かが掴めそうで掴めない。
そんな時、扉をノックする音がした。
返事をする前に入ってきたのはメイド服の女性。
なんだろう、『メイド服は可愛いもの』という知識と『メイド服は仕事着』という知識がある。まるで、二人分の脳みそが合わさったような。
「失礼します。……あら、目が覚めたんですね」
「ここは、どこ?」
「! 意識があるんですか!?」
「?」
この言い方からすると、前は目が覚めても意識がなかったということになる。それならば恐らく精神的なもの。突然治ったりするものじゃないはず。
――怪しいよね?
メイドさんは報告してくると言って着替えを置いていった。今着ているのは手触りがよく暖かい寝間着。渡されたのは透け透けで男の人を誘惑するためにあるようなネグリジェ。
寝間着は暖かい格好なのに、着替えるものがこれということは……まさか、意識がない状態で男の人の相手をさせられていた?
……なんとなく違う気がする。
けど、大きく外れている訳でも無い。
そして、男の人の相手、というのに違和感があった。どうして? わたしは女で、相手が男なら違和感なんて…………これだ。思い出さないと。
わたしは女。そして、そして……
「わたしは僕でもあった、よね」
薄らと思い出せる。
平和な日本のこと。
死ぬ間際の痛みと苦しみ。
ああ、そうだったね。
僕は殺された。いじめの一種として暴力を振るわれていた。偶然、頭の打ちどころが悪くて血が溢れてきたんだ。そして、あっけなく死亡。
自己主張の少ない子供だったと思う。
もっとやりたいことをしていれば、と後悔していた気がする。
それは、わたしも同じだった。
生まれたところは貧乏で、けれどわたしは幸せだった。お父さんとお母さんに優しくされて、辛い時も二人が傍に居てくれた。
でも、そんな幸せは長く続かない。
初めは、新しい仕事を見つけたとお父さんが喜んだ。給料のいい安全な仕事だと。そう喜んでいたのに、実は大嘘でブラックにも程がある仕事で。
給料も何故か支払われず、お父さんがそこを辞めても精神的に追い詰められて次からは上手くいかなくなってしまったのだ。
家族仲は段々と悪くなっていき、お父さんは少ないお金でギャンブルに手を出してしまう。わたしはそれを知っていてお母さんに言えなかった。お父さんに嫌われたくないから。お母さんとお父さんは仲良くしていて欲しいから。
でも、それが間違い。
お父さんはギャンブル依存症になっていき、借りたお金を返せと家にまで人が来てしまったのである。お母さんは怒った。
離婚は当然。じゃあわたしは?
……お父さんと暮らすことになった。お父さんがシャルは俺が育てる、と言って。お母さんは怒っていたから勝手にすればいいと言って居なくなってしまった。
置いていかないで。
お父さんは、育てる気なんてない。
この目は、子供を見る目じゃない。
案の定、わたしは捨てられた。
ううん、捨てられたんじゃない。売られた。それがこの家であり、わたしは伯爵夫人の玩具として飼われている。
毎晩のように行われる行為に耐えられず、わたしの精神が病んでいくのも必然。そうなった少女達はここにいっぱい居る。
まだ、美人ならよかったのかもしれないけれど、ヒキガエルのような化け物が相手だったのである。きっと、意識のないわたしでもよかったんだろうと思う。
普通は子供を売ってもすぐにお金が尽きる。でも、わたしは普通の子供じゃなかった。みんなしらなかっただけで、わたしはご先祖さまの血が蘇った先祖返りらしい。お父さんはそれを伯爵の手の者に聞かされて、わたしを売った。
今のわたしは、もう何もない。
大切なものも……面倒な柵も。
「わたしは今まで人の為に生きたんだもん。これからは、自分の為に生きたっていいよね? ……ここからは、わたしの物語なんだから」
自分の体をあちこち触る。
艶のある黒髪で、肩より少し長い程度のセミロング。その頭には狐の耳、お尻にはもふもふとした尻尾……これが先祖返りの証。
鏡を見てみると瞳は蒼く、頬に赤い2本の線がヒゲのようにある。
体は小柄で、身長は145も無い。
胸もちょっとだけ。……但し、壁じゃない。
ステータス依存だから身体能力と見た目は関係ない。レベル、ステータス、スキル、これからがそこを当たり前のこの世界。
確か神様も居るんだったかな?
まあ、それはどうでもいいよね。
先祖返りのわたしは凄く強い。
具体的にはレベルが全然上がってない今でもオリンピック選手並に動ける……はず。凄いよね、全種目で1位になれるくらいだもん。
「さーて、行っちゃいますか!」
窓を開け放ち、足をかける。
「うぅ……やっぱり怖いよぉ……」
で、でも、大丈夫!
三階くらいなら耐えられるもん!
わたし、頑張れ! 飛び降りるんだ!
「えいっ」
気の抜けるような掛け声と共に飛び降りる。
足がどこにも触れない不安感を押さえつけながら着地。正直、今すぐ泣きたいくらい痛いです。でも、逃げないと。
上が騒がしくなってる。
多分、部屋に居ないのがバレたんだと思うけど、わたしってば危機一髪だったんじゃない?
じゃ、バイバイ――
「ま、待って!」
「!?」
ばっと後ろを振り返る。
女の子が居た。白髪で、猫耳の女の子。
先祖返りなのか獣人なのかは分からないけど、とても綺麗でわたしより少し歳上だと思われる。このお屋敷も美少女ばかりじゃないから、ここまで可愛い子は珍しい。
「お、お願いっ、私も連れて行って! こんなところ居たくないの! なんでもするからっ……!」
「……ん、いいよ。行こっか」
「! ……うんっ!」
窓から降りてくる。1階だから逃げ出すのも簡単……なんてことはない。きっと門には見張りが居るはずだし、このままじゃ捕まっちゃう。
ひとつ、小石を拾った。
「? ね、ねぇ、そんな石どうするの?」
「んと、ちょっと待ってて」
「え? お、置いて行かないでよ……!」
「大丈夫、すぐだから」
少し進んで息を潜める。
来て、早く、今すぐ……来たっ!
木に止まった鳥目掛けて小石を投擲。
一種の賭けだったけど、無事に命中してその体が落ちてくる。
「んんっ……」
ぞくぞくっと体に妙な感覚が。
これはレベルが上がった時の感覚。
試しに走ってみると、さっきよりも早く動けた。もしかしたらレベルが1のままだったのかな? それなら納得かも。
戻りながら手の甲を2回叩く。
これがステータスを開く為の動き。
────────────────
名前:シャルロット
種族:黒狐Lv2
年齢:15
職業:妖術師Lv1
治癒力:F
魔力:201/201(81+120)
体力:61(26+35)
筋力:35(20+15)
耐性:39(19+20)
敏捷:65(40+25)
器用:74(34+40)
精神:73(28+45)
抵抗:79(29+50)
◇解放済み職業◇
《剣士見習いLv1》《平民Lv1》《魔術師見習いLv1》
◇スキル◇
【選択の自由Lv1】【火魔術Lv1】【水魔術Lv1】
◇称号◇
『転生者』『先祖返り』『喪失者』
────────────────
職業……? そんなの初めて聞いた。
適当に《妖術師》にしてみたらいきなり上がったし。犯人は【選択の自由】とかいう謎スキルじゃないかと。ステータスに職業という項目は存在しないはず。気づかなかっただけでこれがわたしのユニークスキルなんだと思う。
そして、称号の転生者、先祖返り、喪失者、という順番を考えるとわたしは元々僕でもあって、精神的に壊れたから思い出したのかもしれない。いやな理由だけど。
でも、これで準備は出来た。
早くあの子の所に戻ってあげないとね。
「あ、も、戻ってきた……」
「待たせてごめんね。そういえば、名前聞いてなかったけどなんていうの?」
「えと、私はイレーネ……ただのイレーネ。そういうあなたは?」
「シャルロット。シャルって呼んでね」
「じゃあ、私のことはレネでいいわよ。だってその、友達っぽくていいし……ふふっ」
最後にボソッと付け加える。
ぼっちだったのかな……?
一応、緊張が若干解れたみたいだからよし。このまま外に出れたらわたし的にはとってもありがたいんですが……
「逃げてきたとこ悪ぃが、ここを通すわけにはいかねぇなぁ?」
「え……う、うそ……」
「ですよねー」
知ってた。居ないはずないよね。
これが手練の冒険者とかだと為す術もなく戻されちゃうんだろうけど、そんな冒険者が門番なんてするはずないっていう理屈。
それを証明するように目の前の男性は皮装備に普通の剣。
「仕事でもなきゃ美味しくいただくところなんだがよぉ……」
「ごめんね、ちょっと寝てて」
「――は?」
水魔術『水の抱擁 』
単に水の球に閉じ込めるだけの、手練の冒険者であれば難なく抜け出せるであろう魔術。ただ、剣士なら相当強くないと水を切ってもまた戻るだけ。
もがき苦しむ男性は、空気を吐き出しながら意識を失う。
この辺でいいかな。
演技の可能性も考慮しつつ降ろすも、その様子はなかった。えっへん、さすがわたしの魔術。(なお、気づいたの数分前の模様)
「え? え??」
「凄いでしょー?」
「う、うん、凄い……シャル、かっこよかったよ」
「えへへ~」
女の子に褒められると嬉しいなぁ。
前世の記憶をぼんやり思い出した分、女の子好きになっちゃったっぽい。これはこれで百合というか、レズプレイが楽しめるしいいけど。
……伯爵夫人? それは思い出したくない。
「とりあえず、どうしよっか?」
「えっ? 考えてなかったの?」
こうして、2人の少女は化け物の手から逃れたのであった……なんちゃって。これからが大変だもんね?
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