あやかし祓い屋の旦那様に嫁入りします

ろいず

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6章 武者首

駅前

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 テストの結果が廊下に張り出され、わたしと千佳が安堵したのも束の間という感じで、日々は慌ただしく過ぎていく。
 球技大会が始まる頃には、冬が早く気過ぎたのではないかという寒さが吹きすさむ秋の終わりに差し掛かっていた。

「寒いよー。凍え死んじゃうからぁ~」
「千佳は強化してるんでしょ! ズルいズルい!」

 わたしと千佳はガタガタと凍える手足をばたつかせ、学校指定の山吹色のジャージ姿で騒ぎまわる。
 一年生から三年生までズラズラと山吹色のジャージ姿で高校から公民館への大移動。
 まだコートには早い為に、ジャージの上からコートを羽織ることも出来ないから、こうしてじゃれ合いながら体をバタバタ動かしてお互いに温まるしかない。

「誰が球技大会なんてやろうって言ったの!」
「それは学校の昔からある行事の一つだからね。言っても仕方がないよ」
「ミカサ~っ」
「千佳~っ」

 ひしっと抱き合って、寒いを連呼するわたし達の周りは、同じような生徒が多い。
 背中を丸めて移動するか騒いで体の中から熱を出すしか方法が無いのだから仕方がないとも思えるけど、通行人の人達には邪魔になるかな? と心配を余所に、駅前にも関わらず人の通りは多くないのが現状だ。
 前にコゲツ達と来た時は、もう少し賑やかだったはず……。
 駅前のタクシー乗り場はボロボロの木を大きく遠ざけるように車が並んでいる。
 歪な形の木で、大きなくぼみに赤黒い液体がこびりついているような感じだ。

「ミカサ? 立ち止まってどうしたの?」
「あ、ううん。なんか変な木だなって……」

 わたしが指を木に向けようとした時、お義父さんがくれた勾玉の腕輪のトンボ玉が透明の水晶から黒く染まっていた。

「木? ああ、あれは『晒し首の木』だよ」
「何その……怖そうなおっかない木の名前……」

 怖そうな名前からして、水晶が黒くなったのももしかしてもしかするやつなのだろう。
 お義父さんはハッキリ言わなかったし、これは一目散に逃げた方が良いやつだ。
 わたしは千佳の手を握ると「寒いから駆け足!」と、走り出す。

「って、おわぁ! ミカサ~」

 走り出した時は愚痴を言っていた千佳も運動少女と言うだけあり、走りのペースが出来てきたらわたしを追い抜かして「早く」と急かして、息も切らさずに公民館まで走り切ったのだから凄い。

「千佳、足、はやー……」
「ふふーん。師匠に夏からずっと鍛えられてるからね。そんなんじゃ、今日のバレーで生き残れないよ~」
「はぁー、疲れた。千佳、元気過ぎでしょ」

 しかしおかげで体は寒さを忘れて、今は熱いぐらいだ。
 他の生徒が揃うまで、体育館へ移動する途中で自販機でパックのいちご牛乳を買ってクールダウンさせる。
 いちご牛乳を飲みながら勾玉を見れば、もう水晶は黒から透明に変わっていた。

「そ・れ・で……ミカサ~。その意味ありげな物は何かな?」
「そんな目で見ても、色恋な感じじゃないよ? これ、コゲツのお父さんに貰ったの」
「師匠のお父さんからかぁ。師匠からなら色々突きまわしたのに」
「突きまわさないでよー」
「んで、それはなんなの? さっきから気にしてるみたいだけど」

 腕輪を千佳に見えるように近付けると、千佳は指で勾玉をツンと弾く。
 
「危険な場所に近付くと色が変わるんだって」
「へぇー。だから、さっきの『晒し首の木』で走り出したんだね」

 わたしは頷き、いちご牛乳を飲み干してゴミ箱へ捨てる。
 千佳もジュースを飲み切ると、クシャッと丸めてゴミ箱にコントロールよく放り投げた。

「あんまり聞きたくないけど、晒し首って、あの晒し首? 時代劇とかの市中引き回しの上、打ち首獄門……みたいな?」

 首を手で切るジェスチャーをしてみせると、千佳は「またあの二人のテレビ知識?」と笑う。
 あの二人とはキョウさんダイさんで、時代劇のことは二人の方が良く知っているし、実際にはその頃から生きてきた二人なので時代背景もよく話してくれる。

「まぁそんな感じなのかな? えっとねー、本当のところはどうなのか噂に尾ひれがつき過ぎて正確には分からないけど、初めは恋仲心中の木だったらしいんだけどね」
「恋仲……どうやったら、晒し首になるの? 遠くない?」

 まさに雲泥の差がありそうな話の出だしに、思わずツッコミを入れてしまった。
 千佳は「まぁこれが変化していくんだよ」と楽しそうに話す。

「報われない恋の終わりは、来世で一緒に……って、ロマンチックな木だったと、どこかの文献に載っていたとかいないとか。時は流れて戦国時代、敵の武者達の首をまるでクリスマスツリーのオーナメントのように吊るしたことから、今の晒し首の木って名前がついたんだって」
「なんだか見てきたような感じで言うね?」
「皆面白おかしく言うじゃない? それでだよ。普通、クリスマスツリーなんて表現しないでしょ?」

 まぁ確かにそれはそうだ。
 そんなおどろおどろしい物とクリスマスツリーを一緒にしたら、クリスマスの度に思い出しちゃいそうだから、縁起が悪い。
 
「でもなんで首をそこに吊り下げたんだろう?」
「ああ、それはねー……」

 千佳が説明し終わる前に、生徒達がぞろぞろとやって来て話はそこで中断となった。
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