あやかし祓い屋の旦那様に嫁入りします

ろいず

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6章 武者首

グループ

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 合宿研修が終わり、一年生が学校に戻ってきたのは金曜日。
 直ぐに土日休みで体を休めなさいという学校の配慮なのか、平日を休みにしたくないだけなのかという感じだ。

「千佳、おかえり。楽しかった?」

 わたしはコゲツの実家の近くで買った茶饅頭の箱を千佳に渡し、数日ぶりに会う親友に笑ってみせる。

「ミカサ~。もう辛かったよー!」
「よしよし。わたしがいなくて辛かったんだね」
「それもあるけど、研修って……ひたすら勉強会だったよー」
「そうなの?」
「教科書がやけに持っていく物が多いと思ったらさ、普通に授業だよ」
「それは嫌かも」

 千佳のうんざりと言う悲痛な嘆きを聞いて、平穏無事に授業が終わった。
 平穏無事というには授業内容が、わたしだけ遅れてしまっているから千佳に聞きつつ、教科書とノートを写させてもらった感じで、ほぼよく分からないまま終わった。
 しかもなんの意地の悪さなのか、合宿研修中に習ったところが次のテストで出るらしい。
 わたしと同じように合宿研修に参加しなかった生徒は特別授業が受けられるのだけど、来たのはたったの三人だけ。
 しかも一人は千佳だ。

「美空は合宿にも参加しただろ?」
「だって、一回で覚えられるほど頭良くありませんから」

 あっけらかんとした千佳の物言いに、先生も仕方がないとばかりにわたし達三人に教え始める。
 テスト範囲だけでも覚えなくてはと真面目に受けて、質問もほぼ個人授業なようなものだから分かるまで教えてもらった。
 
「そういえば、お前達は球技大会は何に参加するんだ?」
「あー、そういえばテストが終わったら球技大会でしたっけ?」
「そろそろクラスでも班分けがあるだろ?」
「くじで決めるらしいですよ」
「わたし、その話知らないよ?」
「ああ、合宿研修で決めたからだよ」

 参加している人が数名居ないのに大事なことを決めないで欲しい。
 合宿研修はお金を出しての参加だから、高校生にもなるとバイトをしていた方がまだマシという意見も多数あり、参加していない生徒がそれなりにいる。
 わたしも本来なら来年も同じ時期だと行けなかっただろうけど、御神木が我が家の庭にあるから来年は参加になりそうだ。

「それで、くじは決まったの?」
「待ってねー。スマホに通知が来ているはずだから」

 どうやら合宿研修で、クラスのグループ会話も出来てしまっているようだ。
 千佳がスマートフォンで調べてくれた結果、わたしは運よくと言うべきか千佳と同じバレーにグループ分けされていた。

「あっちゃー。ミカサ、バレーは公民館コースだよ」
「公民館コース?」
「うちの学校の体育館だけじゃ足りないから、公民館で貸し出しされてる体育館も使うんだよ。つまり、駅を通りコース」
「駅までだと遠くない?」
「そっ。メッチャ遠いし、ジャージで行くの」
「秋の寒空に歩けと⁉」

 体を震わせる素振りをすると、先生が「若者なら歩け」と促し、千佳と二人で「オジサンくさいですよ」と返す。
 この学校から駅まで行くのもかなり遠いのに、公民館までとなるとまた時間が掛かる。
 歩いても三十分は掛かるのは、この学校が駅から離れた山の方にあるからだ。
 逆にわたしや千佳は歩いて十五分もしない場所に家があるから、学校に来るのは楽でも駅などに行く場合はバスの方が早い。

「しかし、美空がバレーだとサッカーの方は二年生にも勝ち目があるな」
「全学年混合ですからねぇ」
「先生。あたしを舐めちゃいけない。バレーでも活躍しますよ!」

 シュッシュッと口で言いながら千佳がボールを叩く真似をして、先生が手をわきわきと動かす。

「お前達の腕が鈍くなーれ鈍くなーれ」
「なんですかー。もう。呪わないでくださいよ」
「先生、大人気なーい」

 もう一人居た特別授業を参加していた男子生徒は、わたし達のやり取りを横目で見ながら「そんじゃ、帰りまーす」と、帰って行った。
 わたし達もこの辺で帰ることにして、千佳の家に最初に行って、着替えた千佳と家に帰った。
 家の中はお醤油のような香ばしい匂いがしていて、手洗いうがいを済ませてから台所へ向かう。

「ただいま。コゲツ、今日の夕飯はなーにー?」
「おかえり……と、嫁殿。また何をしでかしてきたのですか?」
「何が?」

 コゲツが台所の炊事場で手を洗った後で、わたしの耳を左右に二回指で音を鳴らした。
 そして台所に顔を出した千佳にも同じように指を鳴らす。

「なんですか? 師匠。今の指を鳴らすやつ」
「呪い弾きですよ。二人共、誰に呪われてきたんです? 軽いものですから大事には至りませんが……」

 千佳と顔を見合わせて、思いつくのは先生の腕が鈍くなれという呪い混じりの言葉ぐらいだ。
 コゲツに説明すると小さく溜め息をつかれ、月曜日に先生が肩こりと頭痛が酷いと嘆いていたのは呪い返しのせいではないと思いたい。
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