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5章 祭祀の舞

義実家

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 お昼前に家を出発し途中でサービスエリアで軽くお昼を食べて、夕方にはコゲツの実家であるほし家へと到着した。
 小さな山と村がある所で、一言でいえば田舎。
 ただ、山へ続く道には長い石畳の階段と鳥居が上の方まで建てられている。
 いつか見た花嫁が神輿に担がれていた場所に少し似ているかも。

「嫁殿。田舎なのでびっくりしたでしょう?」
「あ、ううん。のどかでいいと思うよ。それより、あのいっぱい並んでいる鳥居の上には何があるの?」
「私の実家があります」
「このお家じゃなくて?」

 真新しい平屋のモダンハウスがあり、広い芝生には小洒落た幅の高い家庭菜園が植えられている。
 コンクリートと木組みを使ってある家で、こんな田舎に近代的な平屋が……と、思ってしまうぐらい場違いなお家。そこの車庫にコゲツが車を停めたから、この家かと思ったのだけど。
 キョウさんとダイさんも周りを見てくると言ってどこかに行ってしまうし、火車もここに着いた途端どこかに消えてしまった。
 こういうところ自由な我が家のもふもふ達だ。

「ここは両親の新居ですね。八代目を私が継いだのでここで隠居生活をしています。まぁ、私達もここで泊りになりますから、嫁殿も気兼ねなく過ごしてください」
「じゃあ、あの山の上の家は関係ないってことで良いの?」
「いえ、あちらはあちらで祭祀の時に使います」
「そうなんだ」

 つまり基本はこっちの家で、祭祀の行事はあっちということみたい。
 コゲツが荷物を持ってくれて、わたしはケーキの入った紙袋だけを持って行く。
 玄関のチャイムを鳴らす前に玄関が開き、顔を半分黒い布で隠した藍色の着物を着た背の高い男性が出てきた。
 髪はコゲツのように伸ばしている。
 
「やあ、いらっしゃい。結婚式以来だね。二人共」
「まさかとは思いますが、玄関でずっと待っていたんですか?」
「そんなこと、ないですよ」

 コゲツが呆れ顔で見つめ返す。
 この人がコゲツのお父さんで、わたしから言えば義父にあたる人。

「こんにちは。お義父さん」
「久しぶりですね。やはり、息子より義娘ですねぇ」
「お父さん。荷物でも運んでください」

 なんだか父親の前だからかコゲツが子供っぽく見えてしまう。
 新鮮な感じ。
 お義父さんに荷物を持ってもらい、玄関の中に洗面台で手を表せてもらう。
 玄関に洗面台がある辺りは、祓い屋さんのお家という感じ。
 我が家もこうしたらどうだろう? 一応、わたし達が住んでいる家はコゲツ名義の持ち家で、元々は曾お祖父さんの物だったのよね。お義父さんが出張で祓い仕事をする時に使っていた家を貰ったみたい。
 わたしの学校も近かったからというのもある。 

「いらっしゃい。コゲツもミカサさんもゆっくりしてね」
「お義母さん。お久しぶりです。あの、これお土産のケーキです。お口に合うと良いのですけど……」
「まぁまぁ! ごめんなさいね。うちの人が我が儘を言ってしまったみたいで。ありがとう」

 お義母さんは美人。
 しなやかな黒髪美女で、コゲツは全体的にお義母さんに似ていて、目だけが違うからおそらく目はお義父さんに似ているのではないかな?
 半分顔を隠しているから分からないけど。
 リビングに通されて、お茶を淹れてもらった。
 お手伝いを申し出たんだけど、座っていなさいと言われてしまって、素直にコゲツと並んで座っている。

「それにしても、コゲツの素顔を見るのは久々だわ。それに目も……」

 コゲツはわたしの作った飾り紐で髪を結んでいるから、素顔のままで来ていて、お義母さんは眉を少し下げて心配そうな顔をしている。

「私もそれを聞きたいですね。コゲツ、その目はどうしたんです? まさか霊力欠如にでもなってしまいましたか?」

 荷物を部屋に置いてきてくれたお義父さんがリビングに戻って来て、わたし達の向かい合わせに座る。
 霊力欠如……霊力が無くなったら、コゲツの祓いの目は黒くなってしまうのだろうか? 

「霊力が無くなったわけではありませんよ。嫁殿の、おかげですね」

 手の上にコゲツが手を重ねてきて、わたしを見て微笑むから一瞬で茹でダコにされてしまった。
 ううっ、ただでさえ義実家で緊張しているのに、こういう不意打ちをしてくるんだから心臓に悪い。

「ミカサさんのおかげ?」

 二人が不思議そうな顔をしてわたしを見る。
 コゲツが胸ポケットからわたしが以前作った飾り紐を取り出す。
 危険と言われて没収された物。
 飾り紐を二人が手に取り、まじまじと飾り紐を見たり弄ったりしている。
 こうじっくり見られるのも恥ずかしい。

「これはお蚕様の繭糸で出来ていますね。それに随分と強い霊気ですねぇ……ふむ。これをミカサさんが?」
「一応……わたしです」
「まぁまぁ! 二人からミカサさんは特殊だとは聞いていたけれど、これは凄いわね」
「そうでしょう。だから嫁殿をほし家で迎え入れて、保護すべきだと言ったでしょう?」

 わたしのやらかしは……特殊という扱いのようで、恥ずかしいやらどう反応して良いのか分からないから、淹れてもらったお茶を飲んで場をにごしておく。
 
「ミカサさん。この飾り紐を一つ貰ってもいいかい?」
「あ、はい。どうぞ」
「貴方、私が結んであげますよ」
「お願いします」

 黒い布を外したお義父さんに、お義母さんが髪紐を解いて飾り紐を結び直す。
 目を開けたお義父さんはコゲツの目に似ていて、一瞬だけ紫陽花色の色彩をした目が見えた。
 すぐに黒目になってしまったけど、やっぱり<縁>を継ぐ人は紫陽花色の目を持っているようだ。
 だとしたら、コゲツの子供も……って、わたしが産むことになることに思い当り、お茶を噴き出すところだった。
 うん、そうだよね。わたし以外の誰がコゲツの子供を産むというの……将来的には、欲しいかな。
 まだ学生だから子供はそのうちという感じだけどね。
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