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5章 祭祀の舞
一家ーほしけー
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四角いスポンジケーキの中にはホイップクリームと崩れてしまった栗の甘煮を入れ込んでいて、それをまたスポンジで挟み込んで上に、サツマイモペーストを掛けている訳だけど、真剣そのもの。
絞り口からにゅるると、黄金色のサツマイモペーストをスポンジケーキの上に見栄えよく掛けるために全神経を注ぐ。
「嫁殿、大丈夫ですか?」
「ひゃあっ!」
小さく飛び跳ねて、手元が狂いサツマイモペーストがいびつに飛び散って指先についてしまう。
「ああ……」
「いきなり声をかけてすみません」
「ううん。まだ修正可能だから」
「手伝いましょうか?」
「大丈夫。お義父さんに頼まれたんだし、わたしがやらなきゃ」
コゲツは少し納得のいかない顔をして、ケーキを入れる箱を組み立ててくれる。
実を言うと一家の祭祀に呼ばれ、学校を一週間休んで今日から行くことになったのだけど、お土産の話をしたらお義父さんに「ケーキが欲しいですね。手作りの」と言われてしまい……
不肖、コゲツの嫁たるわたしが手作りケーキを作ることになった。
買った方が絶対美味しいと思うのだけど、手作りと言われてコゲツに頼るのは嫁の沽券にかかわるのでは? と、頑張っている。
「嫁殿に買ってきた栗だったのですけどね」
「まぁ、ご実家に着いたら一緒に食べた方がきっと美味しいよ」
文化祭の時にお仕事のお土産は栗が良いなぁという話をしていて、少し遅れて栗が届いたばかりだったのだけど、その栗をふんだんに使ってのマロンケーキを作ることにした。
でも、我が家の食いしん坊な狼二匹がマロンペーストを摘まみ食いしてしまい、サツマイモペーストで作り直したりと、ここまで出来上がるのに結構時間がかかったのよね。
「うちの父が我が儘を言ってしまって、申し訳ありません」
「そんなことないよ。それにね、夏休みにコゲツに教わったお菓子作りの成果を見せなきゃ!」
「嫁殿の手作りは、私のだけにしたいのですけどね」
わたしの腕をとって、指先についたサツマイモペーストを口に運んで舐め取る。
口をパクパクと酸欠状態の金魚のように開閉させると、コゲツは微笑んでわたしの手の上から手を重ねて残りのサツマイモペーストをケーキの上に掛けていく。
「これぐらいやれば大丈夫でしょう。あとは上から栗の飾りつけと粉砂糖でも掛けましょう」
「コゲツ……何するの……もう、もう……」
「さすがに父に嫁殿の手作りを渡すのが惜しくなりまして」
「そうじゃなくて、もう……指舐めるとか、恥ずかしい」
最後の方は小さな蚊の鳴くような声になってしまう。
恥ずかしくてコゲツの顔がまともに見れない。
今まで白い布で隠していた顔が、飾り紐のおかげで素顔を晒している分、美形の迫力に心臓が持たない。
わたしが恥ずかしさで見悶えている間に、コゲツはマロンケーキの飾りつけをして箱に仕舞いラッピングまで器用にやってしまう。
黒い箱に金色のリボンを巻いて、一見普通のケーキ屋さんで買ったように見えてしまうから、コゲツの手先の器用さは折り紙付きだ。
「さて嫁殿。後片付けをしたら出発しましょうか」
「うん。急いで片付けちゃうね」
「急がなくても大丈夫ですよ」
お菓子作りを夏休みにコゲツに習って覚えたことは、自分で調理した機材は自分で片付けること。
なので、ケーキ作りに使ったボウルやヘラをチャッチャと洗っていく。
コゲツが布巾で拭いて元の場所に戻してくれて、わたしはエプロンを外すと二階の自分の部屋へ行き急いで服を着替える。
淡いレンガ色のハイネックのミモレ丈ワンピース。腰の辺りをリボンで結んでプリーツがあるのがポイント。
誕生日にコゲツがくれたピンクダイヤのネックレスに、お化粧は少しだけ。
年相応に、でも少しでも大人っぽくを目指す。
白い薄手のコートを持って一階へ降りていく。
他の荷物はもう車の中に積み込んであるから、あとはブーツを履けば準備は完了。
「コゲツお待たせ」
「それでは行きましょうか」
「うん。キョウさんダイさん、火車、行くよー」
「やっとか。ミカサは時間が掛かり過ぎだ」
「やれやれ。待ちくたびれてしまったぞ」
「なぉーん」
二人はテレビを消すと狼姿でのっそりと玄関まで出る。
火車はわたしの肩に飛び乗るとゴロゴロと喉を鳴らしてくつろいでしまう。
少し大きくなったけれど、体重はそんなにないから軽いものだ。
玄関を出るとコゲツが鍵をかけ、裏手に回るといつも天草先生が運転している黒い車がある。
今回はコゲツが運転するということで、天草先生に借りた物だ。
「じゃあ、出発ー!」
車の助手席に乗り込むと、後ろの座席からキョウさんとダイさんが真ん中に顔を出す。
コゲツがカーナビをセットするのを興味津々で見ていて、これは道中質問攻めにあうかもしれない。そんな予感をしつつ、車は静かに走り出した。
絞り口からにゅるると、黄金色のサツマイモペーストをスポンジケーキの上に見栄えよく掛けるために全神経を注ぐ。
「嫁殿、大丈夫ですか?」
「ひゃあっ!」
小さく飛び跳ねて、手元が狂いサツマイモペーストがいびつに飛び散って指先についてしまう。
「ああ……」
「いきなり声をかけてすみません」
「ううん。まだ修正可能だから」
「手伝いましょうか?」
「大丈夫。お義父さんに頼まれたんだし、わたしがやらなきゃ」
コゲツは少し納得のいかない顔をして、ケーキを入れる箱を組み立ててくれる。
実を言うと一家の祭祀に呼ばれ、学校を一週間休んで今日から行くことになったのだけど、お土産の話をしたらお義父さんに「ケーキが欲しいですね。手作りの」と言われてしまい……
不肖、コゲツの嫁たるわたしが手作りケーキを作ることになった。
買った方が絶対美味しいと思うのだけど、手作りと言われてコゲツに頼るのは嫁の沽券にかかわるのでは? と、頑張っている。
「嫁殿に買ってきた栗だったのですけどね」
「まぁ、ご実家に着いたら一緒に食べた方がきっと美味しいよ」
文化祭の時にお仕事のお土産は栗が良いなぁという話をしていて、少し遅れて栗が届いたばかりだったのだけど、その栗をふんだんに使ってのマロンケーキを作ることにした。
でも、我が家の食いしん坊な狼二匹がマロンペーストを摘まみ食いしてしまい、サツマイモペーストで作り直したりと、ここまで出来上がるのに結構時間がかかったのよね。
「うちの父が我が儘を言ってしまって、申し訳ありません」
「そんなことないよ。それにね、夏休みにコゲツに教わったお菓子作りの成果を見せなきゃ!」
「嫁殿の手作りは、私のだけにしたいのですけどね」
わたしの腕をとって、指先についたサツマイモペーストを口に運んで舐め取る。
口をパクパクと酸欠状態の金魚のように開閉させると、コゲツは微笑んでわたしの手の上から手を重ねて残りのサツマイモペーストをケーキの上に掛けていく。
「これぐらいやれば大丈夫でしょう。あとは上から栗の飾りつけと粉砂糖でも掛けましょう」
「コゲツ……何するの……もう、もう……」
「さすがに父に嫁殿の手作りを渡すのが惜しくなりまして」
「そうじゃなくて、もう……指舐めるとか、恥ずかしい」
最後の方は小さな蚊の鳴くような声になってしまう。
恥ずかしくてコゲツの顔がまともに見れない。
今まで白い布で隠していた顔が、飾り紐のおかげで素顔を晒している分、美形の迫力に心臓が持たない。
わたしが恥ずかしさで見悶えている間に、コゲツはマロンケーキの飾りつけをして箱に仕舞いラッピングまで器用にやってしまう。
黒い箱に金色のリボンを巻いて、一見普通のケーキ屋さんで買ったように見えてしまうから、コゲツの手先の器用さは折り紙付きだ。
「さて嫁殿。後片付けをしたら出発しましょうか」
「うん。急いで片付けちゃうね」
「急がなくても大丈夫ですよ」
お菓子作りを夏休みにコゲツに習って覚えたことは、自分で調理した機材は自分で片付けること。
なので、ケーキ作りに使ったボウルやヘラをチャッチャと洗っていく。
コゲツが布巾で拭いて元の場所に戻してくれて、わたしはエプロンを外すと二階の自分の部屋へ行き急いで服を着替える。
淡いレンガ色のハイネックのミモレ丈ワンピース。腰の辺りをリボンで結んでプリーツがあるのがポイント。
誕生日にコゲツがくれたピンクダイヤのネックレスに、お化粧は少しだけ。
年相応に、でも少しでも大人っぽくを目指す。
白い薄手のコートを持って一階へ降りていく。
他の荷物はもう車の中に積み込んであるから、あとはブーツを履けば準備は完了。
「コゲツお待たせ」
「それでは行きましょうか」
「うん。キョウさんダイさん、火車、行くよー」
「やっとか。ミカサは時間が掛かり過ぎだ」
「やれやれ。待ちくたびれてしまったぞ」
「なぉーん」
二人はテレビを消すと狼姿でのっそりと玄関まで出る。
火車はわたしの肩に飛び乗るとゴロゴロと喉を鳴らしてくつろいでしまう。
少し大きくなったけれど、体重はそんなにないから軽いものだ。
玄関を出るとコゲツが鍵をかけ、裏手に回るといつも天草先生が運転している黒い車がある。
今回はコゲツが運転するということで、天草先生に借りた物だ。
「じゃあ、出発ー!」
車の助手席に乗り込むと、後ろの座席からキョウさんとダイさんが真ん中に顔を出す。
コゲツがカーナビをセットするのを興味津々で見ていて、これは道中質問攻めにあうかもしれない。そんな予感をしつつ、車は静かに走り出した。
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