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5章 祭祀の舞
宿泊研修
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コピー用紙にプリントされた文字は『宿泊研修』と書かれた申込用紙。
参加か不参加かを記入し、保護者の印鑑もいる。
この宿泊研修とは、要は二泊三日の間に森の中にある施設に宿泊して共同生活をして、クラスの絆を深めろというものらしい。
ちなみに、一年生は山に近い森の中に建てられた自然の家という名の施設。二年生は北海道研修。三年生はハワイと……一年生だけ妙に近場な感じだ。
「二年の先輩に聞いたらさ、一日目はマナー講座。二日目はゴミ拾いに森の散策。三日目に帰る前に施設の人へ感謝を込めて合唱コンクールとかやらされるんだって」
「えっ、何それ……全然面白くなさそうなんだけど」
「だよねぇ。しかもマナー講座は立ったり座ったり、お辞儀の仕方とか名刺の渡し方とか、社会人になる前の基礎マナーみたいなやつだとか聞いたよ」
千佳の説明に、わたしはますます興味が無くなりかけた。
文化祭で十分クラスの絆は深まっているだろうから、今更なのではないかな? とわたしは思う。
「でもね。なんかこういう催しの夜って、告白とかされてカップルになる子達が増えるんだってさ」
「んーっ。わたしには関係ないかな」
「だよねぇ。あたしもお子様には興味ないわー」
相変わらず千佳は天草先生が好きだというのだから、熱烈な感じだ。
すでにわたしにはコゲツと言う夫がいる。
浮気駄目絶対。それにね、コゲツの美貌に比べたら高校の同級生は無いなって、思っちゃうのよね。
これも惚れた弱みというやつなのか、普通にコゲツが魅力的なのか。きっと両方かな?
わたし達は宿泊研修のことを話しながら学校帰りにコンビニに寄る。
今日は千佳の修行は無いために、コンビニで新作のフローズンヨーグルトの抹茶味を食べようということになったのだけど……
とても見知った顔がコンビニのイートインコーナーでソフトクリームを頬張っている。
わたし達に気付くと手を挙げて嬉しそうに振った。
「ミカサ!」
「お前達もきたのか!」
「キョウさん、ダイさん。二人共買い食い?」
「主が小遣いをくれたのだ」
「我らの日頃の働きを労ってくれたのだ」
おそらくは二人がテレビのコマーシャルを見て食べたがっていたのを、コゲツがこれ以上食べたいと騒がれる前にお小遣いを渡して黙らせたというのが正解だろう。
「コゲツは家に居るの?」
「主なら夕飯の買い出しをしておるぞ」
ということは、この二人がスーパーであれ欲しいこれ欲しいと騒がないための予防線か。
二人共子供のようなところがあるというか、好奇心が旺盛だから小さな子供に物を教えたり与えたりして勉強させている状態。
わたしは逆に二人に教えてもらうことも多いけれど、コゲツは四六時中質問攻めにあっている。
「ミカサ。フローズン抹茶注文しちゃうよ」
「あっ、うん。お願い」
「我らもそれが欲しい!」
「千佳。四つ注文してもらえる?」
千佳に注文してもらいスマートフォンで支払いを済ませる。
わたしのお小遣いは両親からスマートフォン決済で支払われる。
明細は親に行くので、たまに親から「お菓子ばっかり食べて」と言われてしまうのが悩みだ。
事細かに明細で何を買ったかがバレるのも困りもの。
まぁ、両親はそういう細かい明細が出るを契約して、わたしが遠くで何をしているか分かりやすくしているのもある。
今日のは何と言われるやらだけど、流石にわたしが四つも食べたとは思わないだろう。
「お待たせいたしましたー」
「わーい。ミカサ、はいどうぞ」
「ありがとう。キョウさんとダイさんの分はわたしが持って行くから、わたしの分を持ってきてくれる?」
「オッケー」
イートインコーナーで四人で並んで座り、フローズン抹茶を食べ始めたところでコゲツがコンビニに入ってきた。
「コゲツも食べる?」
「一口もらえますか?」
「はい。あーん」
スプーンで掬ってコゲツの口に運び、「どう?」と聞けば「黒蜜をかけるとより美味しくなりそうですね」と言われ、確かにと四人で頷く。
「あっ、そうそう。コゲツ、これなんだけど……」
先程の宿泊研修のプリントをコゲツの前に出す。
目を通してからコゲツは自分のスマートフォンを出して、「行きたいですか?」と聞いてきた。
「んーっ、正直に言うと行きたくないかな」
「そうですか。なら不参加にしても大丈夫ですか?」
コゲツの意外な言葉にわたしは目を丸くする。
いつもなら「学生の本分は学ぶことにあり」と言うはずなのに、不参加になっても良いのだろうか?
「実は一家で秋の祭祀があるのです」
「サイシって?」
「祭祀とは、神々を祀る……まぁ、我らのようなあやかしより上の位に位置する者を慰め、敬い、感謝する。という儀式のようなものだ」
ダイさんが横から説明をしてくれて、なんとなく分かったような気がする。
一家の祭祀というものがどういうものが、学校行事を中止しなくてはいけないことを気にしなくてはならないのだろう。
「うちの一族は敷地内にご神木があり、その神木を祀ることで祓い屋として成り立っています。私も八代目としては参加しなくてはなりませんし、嫁殿を迎え入れましたので嫁殿にも参加していただく必要があります」
「あ、はい。分かったけど……お義父さん達にも会うんだよね?」
「そうなりますね」
「結婚式以降会ってないから、どう接していいか分かんないよ」
「いつも通りの嫁殿で良いですよ」
わたしのいつも通りって、どんな感じだろう……むしろ、何か粗相をしでかさないかの方が問題だ。
ううっ、本当に何事もなく済めばいいんだけど、不安しかない。
参加か不参加かを記入し、保護者の印鑑もいる。
この宿泊研修とは、要は二泊三日の間に森の中にある施設に宿泊して共同生活をして、クラスの絆を深めろというものらしい。
ちなみに、一年生は山に近い森の中に建てられた自然の家という名の施設。二年生は北海道研修。三年生はハワイと……一年生だけ妙に近場な感じだ。
「二年の先輩に聞いたらさ、一日目はマナー講座。二日目はゴミ拾いに森の散策。三日目に帰る前に施設の人へ感謝を込めて合唱コンクールとかやらされるんだって」
「えっ、何それ……全然面白くなさそうなんだけど」
「だよねぇ。しかもマナー講座は立ったり座ったり、お辞儀の仕方とか名刺の渡し方とか、社会人になる前の基礎マナーみたいなやつだとか聞いたよ」
千佳の説明に、わたしはますます興味が無くなりかけた。
文化祭で十分クラスの絆は深まっているだろうから、今更なのではないかな? とわたしは思う。
「でもね。なんかこういう催しの夜って、告白とかされてカップルになる子達が増えるんだってさ」
「んーっ。わたしには関係ないかな」
「だよねぇ。あたしもお子様には興味ないわー」
相変わらず千佳は天草先生が好きだというのだから、熱烈な感じだ。
すでにわたしにはコゲツと言う夫がいる。
浮気駄目絶対。それにね、コゲツの美貌に比べたら高校の同級生は無いなって、思っちゃうのよね。
これも惚れた弱みというやつなのか、普通にコゲツが魅力的なのか。きっと両方かな?
わたし達は宿泊研修のことを話しながら学校帰りにコンビニに寄る。
今日は千佳の修行は無いために、コンビニで新作のフローズンヨーグルトの抹茶味を食べようということになったのだけど……
とても見知った顔がコンビニのイートインコーナーでソフトクリームを頬張っている。
わたし達に気付くと手を挙げて嬉しそうに振った。
「ミカサ!」
「お前達もきたのか!」
「キョウさん、ダイさん。二人共買い食い?」
「主が小遣いをくれたのだ」
「我らの日頃の働きを労ってくれたのだ」
おそらくは二人がテレビのコマーシャルを見て食べたがっていたのを、コゲツがこれ以上食べたいと騒がれる前にお小遣いを渡して黙らせたというのが正解だろう。
「コゲツは家に居るの?」
「主なら夕飯の買い出しをしておるぞ」
ということは、この二人がスーパーであれ欲しいこれ欲しいと騒がないための予防線か。
二人共子供のようなところがあるというか、好奇心が旺盛だから小さな子供に物を教えたり与えたりして勉強させている状態。
わたしは逆に二人に教えてもらうことも多いけれど、コゲツは四六時中質問攻めにあっている。
「ミカサ。フローズン抹茶注文しちゃうよ」
「あっ、うん。お願い」
「我らもそれが欲しい!」
「千佳。四つ注文してもらえる?」
千佳に注文してもらいスマートフォンで支払いを済ませる。
わたしのお小遣いは両親からスマートフォン決済で支払われる。
明細は親に行くので、たまに親から「お菓子ばっかり食べて」と言われてしまうのが悩みだ。
事細かに明細で何を買ったかがバレるのも困りもの。
まぁ、両親はそういう細かい明細が出るを契約して、わたしが遠くで何をしているか分かりやすくしているのもある。
今日のは何と言われるやらだけど、流石にわたしが四つも食べたとは思わないだろう。
「お待たせいたしましたー」
「わーい。ミカサ、はいどうぞ」
「ありがとう。キョウさんとダイさんの分はわたしが持って行くから、わたしの分を持ってきてくれる?」
「オッケー」
イートインコーナーで四人で並んで座り、フローズン抹茶を食べ始めたところでコゲツがコンビニに入ってきた。
「コゲツも食べる?」
「一口もらえますか?」
「はい。あーん」
スプーンで掬ってコゲツの口に運び、「どう?」と聞けば「黒蜜をかけるとより美味しくなりそうですね」と言われ、確かにと四人で頷く。
「あっ、そうそう。コゲツ、これなんだけど……」
先程の宿泊研修のプリントをコゲツの前に出す。
目を通してからコゲツは自分のスマートフォンを出して、「行きたいですか?」と聞いてきた。
「んーっ、正直に言うと行きたくないかな」
「そうですか。なら不参加にしても大丈夫ですか?」
コゲツの意外な言葉にわたしは目を丸くする。
いつもなら「学生の本分は学ぶことにあり」と言うはずなのに、不参加になっても良いのだろうか?
「実は一家で秋の祭祀があるのです」
「サイシって?」
「祭祀とは、神々を祀る……まぁ、我らのようなあやかしより上の位に位置する者を慰め、敬い、感謝する。という儀式のようなものだ」
ダイさんが横から説明をしてくれて、なんとなく分かったような気がする。
一家の祭祀というものがどういうものが、学校行事を中止しなくてはいけないことを気にしなくてはならないのだろう。
「うちの一族は敷地内にご神木があり、その神木を祀ることで祓い屋として成り立っています。私も八代目としては参加しなくてはなりませんし、嫁殿を迎え入れましたので嫁殿にも参加していただく必要があります」
「あ、はい。分かったけど……お義父さん達にも会うんだよね?」
「そうなりますね」
「結婚式以降会ってないから、どう接していいか分かんないよ」
「いつも通りの嫁殿で良いですよ」
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