あやかし祓い屋の旦那様に嫁入りします

ろいず

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4章 言霊のカタチ

お蚕様

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 居間のちゃぶ台にデンッと置かれた丸い物体。
 バレーボールの珠を二個並べたぐらいの長さがある。
 どう見ても繭玉。わたしが知っている繭玉の大きさではないけれど、コゲツがお土産として式神に持ってこさせた物。

「キョウさん、これ繭玉……だよね?」
「お蚕様かいこさまだな」
「お蚕様?」
「そう。この蚕は龍脈りゅうみゃく、つまりは大地の気が集まっている流れのある場所で神気のみを溜め込んで繭を作る妖だ」
「へぇー。それでダイさん。これをどうすればいいの?」

 わたしが指先で繭玉をツンツンと突くと、繭玉に手首までズボッと入ってしまった。

「ひぎゃあ!」
「「あっ!」」

 情けない悲鳴をあげるとキョウさんとダイさんは口と手を揃えて出したものの、お互いに目を見合わせると「ブハッ」と吹き出した。
 抜き取ろうと思ってもギッチリと手に巻き付いて離れず、わたしはワーッと騒いで手を振り回す。

「二人共、笑ってないで助けてよー! ヤダこれ何これ!」
「落ち着けミカサ」
「なんにでも手を出すミカサが悪いのだぞ」
「なんでもいいから、取ってー!」

 半泣きになったわたしを尻目に、二人は慌てた様子もなく押入れの中から深緑色の風呂敷を出す。
 中には花や実や色の点いた石が入っていて、他にも貝殻や珊瑚のような物も混ざっている。

「何それ?」
「これは主に頼まれた物だ」
「頼まれた物が染料だとは思ったが、これに使うのだろうな」
「よく分からないんだけど? それよりこれ、手袋みたいに巻き付いちゃったよ~。取ってぇ~」

 いつの間にか手の形に巻き付いてしまった繭玉をブンブン手を振りまわっていたら、キョウさんに頭をポンポン叩かれ、ダイさんに腕をとられていた。
 二人はちゃぶ台の上に集めた物を広げ、わたしを座らせると手をちゃぶ台の上に置く。

「落ち着けと言っただろう。今から糸を染めてやろう」
「これならミカサが触っても壊れたりはしないからな」
「糸を染める?」
「まあ、百聞は一見に如かずと言うからな。大人しく見ていろ」

 キョウさんがわたしに巻き付いた繭玉から糸を引き出し、それを木の実と一緒に手の中で紙縒こよりながら一つの糸にし、ダイさんがその糸を貝殻に巻き付けていく。
 紫色のブルーベリーに似た色の実は糸と交ると綺麗な薄紫色に変わっていく。
 二人は貝に十分巻き付けられると、次の染料で糸を作り繰り返す。
 その間のわたし? もちろんただ座って二人の作業を見ているだけだった。
 もしかして、コゲツがこのお蚕様を置いていったのは、わたしへの罰だろうか?
 
「もう飽きたよ……」
「ミカサは座っているだけだろう」
「我らは常に手を動かしているのだぞ」

 不満を口に出せば、キョウさんとダイさんに怒られた。
 テレビぐらいは見てもいいと思うのに、いつものテレビっ子なキョウさんとダイさんはどこへやらという感じで「気が散る」とテレビはダメ出しをされてしまう。
 でも貝に巻き付けられていくお蚕様の糸は綺麗で、普通の絹糸よりも光沢があるような気がする。
 ようやく地肌が繭玉から見えてきたところで、わたしの手の甲に薄茶色の何かがあった。

「まさか、まさか……」

 もぞりとソレが動き、わたしは全身に鳥肌を立たせた。
 すぐさま逃げ出そうと立ち上がったものの、長時間座っていたために足が痺れて立ち上がれず、悲鳴をあげたら中から出てきそうで悲鳴を呑み込む。

「そろそろ羽化する頃合いか」
「滅多に見れるものではないからな」
「ひぃぃぃ」

 まだ少し繭糸が残っていたけれど、わたしの手の甲にいたさなぎは羽化して白くて小さな蚕が飛び立っていった。
 蚕が飛び立つと繭糸はブツブツと手から切れて消えてしまう。

「あれがまた次代のお蚕様を産むのだろうなぁ」
「しかし、主はよくこんな立派なお蚕様を見付けてきたものだ」
「さすがは主だ」
「ん? どうしたミカサ」

 わたしは二人の声を聞きながら床に大の字になると「もうやだ」と一言呟いた。
 お土産ならいつものお菓子が良い。
 こんなお土産は要らないよ。本当にコゲツの嫌がらせとかじゃないよね? 涙目でわたしは東北辺りにいるであろうコゲツに心の中で悪態をつく。
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