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書籍化記念のオマケ
贈り物
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暑かった日々も終わりに近づいた日、わたしとコゲツは庭の草むしりをしていた。
いつもならコゲツが庭の手入れもしてくれているのだけど、最近はお仕事が立て続けにあったことで庭の手入れまでは、手が回らなかったからだ。
「嫁殿。あらかた片付きましたし、そろそろお茶にでもしましょうか」
「うん。そうだね」
コゲツが家の中に入り、わたしはその間に庭にある蛇口で手を洗う。
しばらくしてコゲツがグラスに冷たいお茶を淹れて戻ってきた。
「今日はマスカットティーにしてみました」
「うわぁー。コゲツはなんでも作れちゃうね」
「なんでもと言うわけではありません。紅茶に凍らせたマスカットの実を入れただけだけですから」
「へぇー。意外と簡単なんだね」
「美空家から大量に頂きましたからね。贅沢仕様です」
夏休み中に夫婦旅行に行った千佳のご両親から、お土産にとマスカットを大量にもらったのは記憶に新しい。
天草先生にもおすそ分けをして、我が家のキョウさんとダイさんにも食べてもらっても有り余る量。
たまに火車も食べているから、妖ってなんでも食べちゃうのねって驚きと発見だ。
「おや……」
コゲツが上を見上げ、二階にあるわたしの部屋のベランダを見て「賑やかそうですね」と笑った。
その含みのある笑い方に、わたしは少しだけ頬が熱くなるのを感じる。
ベランダには子供の頃から大事にしているぬいぐるみ達が、天日干しされている。
十六歳にもなって、まだぬいぐるみを大量に持っているのかと言われているようで、気恥ずかしい。
けれど、あれはわたしの誕生日に親戚のお兄さんが、毎年プレゼントしてくれている物だったりする。
さすがに結婚してしまったから、贈ってくれることはなくなってしまったけど。
その証拠に、十五歳の誕生日にもぬいぐるみは届いていなかった。
代わりと言うべきか、十五歳の誕生日は過ぎていたけど、コゲツが誕生日プレゼントにと、ピンクパール色のブーティーをくれた。
ハートの形のバックルが付いた可愛い物で、デートの時に履く特別な靴だ。
十六歳の時には、小粒のピンクダイヤが付いたネックレスを貰った。
やはりこれもデートの時に付けている。むしろ、付けていく場所がそういったところ以外ないとも言うけど。
「嫁殿が一番気に入っている子は、どの子なんですか?」
「えっと……一番左にいる水色の……って、教えない!」
ただでさえ、人形は子供っぽいかな? と思いはじめているのに、素直に教えたら揶揄われてしまいそう。
でも、半分言ってしまったようなものなので、コゲツは「あのウサギですか」と嬉しそうに言った。
あのウサギは、プレゼントを一番初めに貰った時の物だ。
両親から親戚のお兄さんにお礼の手紙を書きましょうねと言われて、クレヨンで手紙を書いた気がする。
以降、毎年プレゼントのお礼を書き続けているわけだ。
「そういえば、親戚のお兄さん、一回も会ってないなぁ……」
「親戚のお兄さん?」
「うん。毎年、あのぬいぐるみをくれてた人だよ」
「なるほど。まぁ、気にしなくていいですよ」
「なんでコゲツが気にしなくていいって言うの? コゲツは関係ない……よね?」
首を傾げるとコゲツはわたしの頭をゆっくりと撫でる。
子供扱いみたいだけど、頭を撫でられることは大きくなってから少なくなっているし、ここは甘んじて撫でられておこう。
親戚のお兄さん、そういえば名前すら知らないかも……
両親に親戚のお兄さんとしか言われていないし、わたしも『お兄さん』としか覚えていない。
両親は「そのうち会えるから、その時にちゃんと自分の口でお礼を言いなさい」と手紙を書く度に言っていた気がする。
もしかして……コゲツを見上げると、目が優し気に細められていた。
胸がドキッと跳ね上がり、聞きたかったことを呑み込んでしまう。
「嫁殿には私がこれから先もプレゼントを贈りますから」
「もしかして、親戚のお兄さんって……コゲツのこと?」
「どうでしょうね」
この顔は、絶対コゲツだ。
わたしに誕生日プレゼントを毎年くれていたのはコゲツで、だから結婚した時から親戚のお兄さんじゃなくてコゲツがくれたのか……
お母さんもお父さんも教えてくれないなんて酷いよ。
ここに引っ越す時にやけに「ぬいぐるみは持って行きなさい」って言う訳だ。
「コゲツ。あの、プレゼント……毎年ありがとう」
「ふふっ。毎年嫁殿から届くお礼の手紙を楽しみにしていましたから、気にしないでください」
「わたしからもコゲツに誕生日プレゼントを贈りたいんだけど、何かリクエストはある?」
「そうですね……なら、嫁殿が夏休みの間にどれだけお菓子を作れるようになったかの成果をみせて欲しいですね」
「誕生日ケーキ……うん。ケーキを作るね!」
心臓がドキドキし過ぎて慌ててプレゼントの話になってしまったけど、誕生日ケーキをちゃんと作れる自信はあまりない。
前にケーキを焦げ焦げの生焼けにしてコゲツにドーナッツもどきに生まれ変わらせてもらったのは記憶に新しい。
「なら、今年の誕生日は楽しみにしていますね」
「頑張ります!」
ビシッと敬礼をして、わたし達は並んで縁側でマスカットティーで夏の終わりを感じていた。
いつもならコゲツが庭の手入れもしてくれているのだけど、最近はお仕事が立て続けにあったことで庭の手入れまでは、手が回らなかったからだ。
「嫁殿。あらかた片付きましたし、そろそろお茶にでもしましょうか」
「うん。そうだね」
コゲツが家の中に入り、わたしはその間に庭にある蛇口で手を洗う。
しばらくしてコゲツがグラスに冷たいお茶を淹れて戻ってきた。
「今日はマスカットティーにしてみました」
「うわぁー。コゲツはなんでも作れちゃうね」
「なんでもと言うわけではありません。紅茶に凍らせたマスカットの実を入れただけだけですから」
「へぇー。意外と簡単なんだね」
「美空家から大量に頂きましたからね。贅沢仕様です」
夏休み中に夫婦旅行に行った千佳のご両親から、お土産にとマスカットを大量にもらったのは記憶に新しい。
天草先生にもおすそ分けをして、我が家のキョウさんとダイさんにも食べてもらっても有り余る量。
たまに火車も食べているから、妖ってなんでも食べちゃうのねって驚きと発見だ。
「おや……」
コゲツが上を見上げ、二階にあるわたしの部屋のベランダを見て「賑やかそうですね」と笑った。
その含みのある笑い方に、わたしは少しだけ頬が熱くなるのを感じる。
ベランダには子供の頃から大事にしているぬいぐるみ達が、天日干しされている。
十六歳にもなって、まだぬいぐるみを大量に持っているのかと言われているようで、気恥ずかしい。
けれど、あれはわたしの誕生日に親戚のお兄さんが、毎年プレゼントしてくれている物だったりする。
さすがに結婚してしまったから、贈ってくれることはなくなってしまったけど。
その証拠に、十五歳の誕生日にもぬいぐるみは届いていなかった。
代わりと言うべきか、十五歳の誕生日は過ぎていたけど、コゲツが誕生日プレゼントにと、ピンクパール色のブーティーをくれた。
ハートの形のバックルが付いた可愛い物で、デートの時に履く特別な靴だ。
十六歳の時には、小粒のピンクダイヤが付いたネックレスを貰った。
やはりこれもデートの時に付けている。むしろ、付けていく場所がそういったところ以外ないとも言うけど。
「嫁殿が一番気に入っている子は、どの子なんですか?」
「えっと……一番左にいる水色の……って、教えない!」
ただでさえ、人形は子供っぽいかな? と思いはじめているのに、素直に教えたら揶揄われてしまいそう。
でも、半分言ってしまったようなものなので、コゲツは「あのウサギですか」と嬉しそうに言った。
あのウサギは、プレゼントを一番初めに貰った時の物だ。
両親から親戚のお兄さんにお礼の手紙を書きましょうねと言われて、クレヨンで手紙を書いた気がする。
以降、毎年プレゼントのお礼を書き続けているわけだ。
「そういえば、親戚のお兄さん、一回も会ってないなぁ……」
「親戚のお兄さん?」
「うん。毎年、あのぬいぐるみをくれてた人だよ」
「なるほど。まぁ、気にしなくていいですよ」
「なんでコゲツが気にしなくていいって言うの? コゲツは関係ない……よね?」
首を傾げるとコゲツはわたしの頭をゆっくりと撫でる。
子供扱いみたいだけど、頭を撫でられることは大きくなってから少なくなっているし、ここは甘んじて撫でられておこう。
親戚のお兄さん、そういえば名前すら知らないかも……
両親に親戚のお兄さんとしか言われていないし、わたしも『お兄さん』としか覚えていない。
両親は「そのうち会えるから、その時にちゃんと自分の口でお礼を言いなさい」と手紙を書く度に言っていた気がする。
もしかして……コゲツを見上げると、目が優し気に細められていた。
胸がドキッと跳ね上がり、聞きたかったことを呑み込んでしまう。
「嫁殿には私がこれから先もプレゼントを贈りますから」
「もしかして、親戚のお兄さんって……コゲツのこと?」
「どうでしょうね」
この顔は、絶対コゲツだ。
わたしに誕生日プレゼントを毎年くれていたのはコゲツで、だから結婚した時から親戚のお兄さんじゃなくてコゲツがくれたのか……
お母さんもお父さんも教えてくれないなんて酷いよ。
ここに引っ越す時にやけに「ぬいぐるみは持って行きなさい」って言う訳だ。
「コゲツ。あの、プレゼント……毎年ありがとう」
「ふふっ。毎年嫁殿から届くお礼の手紙を楽しみにしていましたから、気にしないでください」
「わたしからもコゲツに誕生日プレゼントを贈りたいんだけど、何かリクエストはある?」
「そうですね……なら、嫁殿が夏休みの間にどれだけお菓子を作れるようになったかの成果をみせて欲しいですね」
「誕生日ケーキ……うん。ケーキを作るね!」
心臓がドキドキし過ぎて慌ててプレゼントの話になってしまったけど、誕生日ケーキをちゃんと作れる自信はあまりない。
前にケーキを焦げ焦げの生焼けにしてコゲツにドーナッツもどきに生まれ変わらせてもらったのは記憶に新しい。
「なら、今年の誕生日は楽しみにしていますね」
「頑張ります!」
ビシッと敬礼をして、わたし達は並んで縁側でマスカットティーで夏の終わりを感じていた。
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