あやかし祓い屋の旦那様に嫁入りします

ろいず

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1巻

1-3

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 変な習わしだけれど、一族間でそう言い続けられているので、今更逆らうつもりもない。おかしな風習だとは思うけど。
 コゲツの漢字も結婚した時に教えてもらった。
 漢字で『虎結』。
 自分の名前と同様、『虎』の字を書き慣れていないから、書けと言われても書ける自信はない。

「コゲツ、遅いなぁー……」

 甘いミルクティーを口に含みつつ、時計を見ると二十二時を過ぎていた。
 いつものコゲツなら一時間前には「嫁殿、早く寝なさい」と言ってきて、わたしは「まだ早いよー」と文句を垂れている。この時間にはコゲツ自身も早々に寝入っている頃だから、仕事に時間がかかっているのだろう。

「んーっ、甘い! だが、それが良い」

 一人で過ごす家はなんだか静かすぎて、意味もなく独り言が多くなる。
 証拠を隠滅するつもりでミルクティーを飲み干そうとして……あと半分というところで、玄関のドアがドンドンドンと、三回叩かれた。
 大きな音に驚いて、座った爪先が少し宙に浮いた。慌てて玄関へ行く。
 玄関に手をかけようとした時、耳元で「嫁殿!」とコゲツの声が聞こえた気がして、手を引っ込める。
 後ろを振り返ってももちろんコゲツの姿はない。
 気が急いて早く戸を開けないとと思ってしまったけれど、この夜更けに訪ねてくる人というのも、普通に怪しい……?

「どちら様ですか?」

 この時間にセールスや新聞勧誘だったら、常識がなさ過ぎてクレーム案件だ。
 絶対に玄関は開けないんだからね。
 わたしの応答を受けてか、ドンドンドンと、また戸が叩かれる。

「どちら様ですか! 名乗らないなら警察を呼びますよ!」

 再びドンドンドンと三回叩かれ、気味の悪さに後退あとずさった。
 その後もドンドンドンと規則正しい音が繰り返される。わたしは完全に戸を開ける気が失せていて、玄関から離れても変わらず三回響く音に恐怖を覚えていた。
 二階に上がってしまおうか……でも、一階から侵入されたらどうしよう?
 そう考えると不安で、二階に上がることもできない。

「スマートフォン……二階だ……」

 こんなことになるなら、スマートフォンを持ち歩く癖をつけておけば良かった。
 武器を持つべきだろうか? そう考えて台所で包丁を手にしたものの、これは流石さすがに危険すぎると首を横に振る。
 相手は不法侵入者とはいえ、下手をすれば自分も殺人を犯してしまう。
 結局わたしが手に取ったものは、フライパンである。
 相手がナイフを持っていても、フライパンなら防御もできるはず! こちらからの攻撃も、打撃ならば致命傷にはならない……かもしれない、多分。
 わたしがフライパンを手に持って居間に陣取っている間も、戸は規則正しく三回ずつ叩かれている。恐怖で心臓はバクバクしっぱなしだった。

「うーっ、なんで……こんな時にコゲツがいないのよ~っ」

 泣き言を吐きながらも、コゲツが帰ってきたら紅茶のシフォンケーキを作ってもらおう、ホイップは山盛りで! と、幸せなことを思い浮かべて恐怖から逃げていた。
 部屋の隅っこで膝を抱えて籠城ろうじょうする――


「――嫁殿。こんなところで寝ては、風邪をひきますよ」

 コゲツの声に目を開けると、いつの間にか寝ていたらしい。わたしの傍らにはフライパンがあるので、不審な来客があったのは夢ではないだろう。
 カーテンの閉まった室内はまだ薄暗い。わたしが寝てからそれなりに時間が経ったのかもしれない。

「……今、何時?」
「朝日が昇る手前というところです」
「……コゲツ、帰ってくるのが遅い」
「それは悪かったと思っています。私の帰りを待っていてくれたのですか? でも、ちゃんと自分の部屋で寝ないと駄目ですよ」

 嬉しそうな声には申し訳ないけれど、コゲツの帰りを待っていた訳じゃない。
 まぁ、早く帰ってきてほしいとは思ったけど……

「ここで寝たくて寝た訳じゃないもの」

 コゲツはふと足元のフライパンを拾うと、わたしに向かって少し首を傾げた。
 何をしていたんだ? という怪訝けげんさがにじんでいるけれど、これにはれっきとした理由があるのだ。

「あのね、玄関の戸を叩き続ける人がいたの! すっごくしつこくて、怖かったの!」
「この家の玄関を?」
「本当だよ! ここ、お隣さんの家も遠いから、間違いなくうちの家だよ!」

 わたしが言い終わるや否や、コゲツはフライパンをちゃぶ台に置くと、玄関へ走り出した。わたしもコゲツの後を追い、靴を履いて玄関を出る。
 朝日が薄っすらと辺りを明るく照らし始めている。

「――ヒッ! 何、それ……」

 玄関のガラス戸には、赤黒い手形が三つ付いていた。

「三度参り……嫁殿、玄関を開けてはいませんね?」

 わたしはブンブンと勢いよく頭を上下に振る。気持ちの悪さに、胃の上がキュッと縮こまった感じがした。
 コゲツはジャケットの内ポケットから白い袋を出すと、中の白い粉を玄関前にいた。

「何をいたの?」
「これは清め塩。……嫁殿、顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃなーい! 夜中にドンドン叩かれるし、こんな悪戯いたずらされてるし⁉」

 わたしがワッと騒ぐと、コゲツがなぐさめるようにわたしの頭を撫でる。
 撫でられても誤魔化ごまかされないのだけど? 嫌がらせにしては度が過ぎている!
 涙目になったわたしの目元を、コゲツが指で拭う。
 こんな時なのに、思わずドキッと胸が飛び跳ねて頬が熱くなった。

「嫁殿は、怖がりな性質たちですか?」
「怖がりとかの話じゃないよ! 警察に連絡して、犯人を捕まえてもらわないと安心できないよ!」
「それは無理だと思いますが……」
「なんで無理なの? コゲツは犯人に心当たりがあるの?」

 コゲツが「玄関を見れば分かります」と言って、ガラス戸を指す。その誘導に従ってそちらに目を向けて、わたしは言葉を失った。
 朝日の光で照らし出された玄関には――何もなかった。
 赤い手形は、綺麗さっぱり消えている。
 狐に化かされたような気分と言えばいいのだろうか? 先ほどまであんなにクッキリと付いていたのに。
 コゲツを見上げると、困ったような様子だ。

「どういうこと? 三度参りって、なんなの? こんな悪意のあることをされるって、お礼参りされちゃうような悪いことをしたの?」
「喧嘩のたぐいで言う『お礼参り』じゃありませんよ。嫁殿、とりあえず家に入りましょう。温かい飲み物でも淹れますから、落ち着いてください」
「落ち着けって言われても、手形はどこに消えたの? 悪戯いたずらのジョークグッズだって言うの?」

 背中を押されて家の中に入り、コゲツに手洗いとうがいを言い渡された。
 ほんの少ししか外に出ていないのにとは思うけど、習慣で素直に従ってしまう。
 居間に戻ると、ホットミルクの入ったマグカップがあった。

「留守にすると、嫁殿はすぐ砂糖だらけの紅茶を淹れますからね。これで我慢してくださいね」
「むぅ……って、これ、甘い。ハチミツ?」

 火傷やけどをしないようにチビチビと飲んだホットミルクから顔を上げると、コゲツがうなずいた。
 証拠を隠滅するはずだった昨夜のミルクティーは半分残ったまま台所に取り残されていて、コゲツが「まったく、油断も隙もないですね」とコップを洗って戻ってきた。
 甘い物は女の子には必需品なのになぁ……。完全犯罪は難しい。

「三度参りについて説明しましょうか」
「ホラーっぽい話?」

 コゲツは小さくうなずく。
 わたし、ホラーもオカルトも苦手なのだけど……

「三度参りは、三回ドアを叩き、それを三回繰り返します。家に人払いの魔除けを施していても、家人がドアを開ければ入られてしまいます」
「あー、確かに三回叩いてた! 規則正しく三回! でも、人払いの魔除けって?」
「我が家には、人払いの魔除けが施してあります。嫁殿は、玄関に触れた、もしくは声を出して反応しましたか?」
「あ……うん。警察を呼ぶぞって騒いじゃった。駄目だった?」

 普通の不審者なら、警察の名前を出せば引くはずだ。
 でも、相手はそれでもしつこく叩き続けていたから、警察が怖くなかったみたい。それじゃあ極悪非道な不良……って、不良が仕返しする時の『お礼参り』じゃないって、言っていたっけ。

「ふむ。嫁殿が反応したことで、戸を開けるまで叩き続けようとしたのでしょうね」
「警察を呼べば良かった……」
「それは止めておいたほうがいいでしょう。呼んでいたら今頃、警察の遺体が転がっていたかもしれません」
「うー……さっきから、コゲツはわたしを怖がらせようとしてるの? 物騒なんだけど!」

 これ以上のオカルト話は嫌だと、マグカップをちゃぶ台に置いて両耳を塞ぐ。
 コゲツは何も言わずにわたしの肩を手でポンポンと叩き、居間を出ていった。
 怖がりだと呆れられてしまっただろうか?
 でも、仕方がないじゃない? 玄関を何度も叩かれた上に、血のりで手形を付けられて、挙句、コゲツにもオカルト話のようなことを聞かされたのだから、怖がるなと言うほうが無理というものだ。

「嫁殿」

 机の上のマグカップに視線を落としていると、コゲツが戻ってきた。

「今日も出掛けなくてはいけません。ですから、これを肌身離さず持っていてください。そうすれば、怖いことはないですから」

 そう言って、コゲツは小さな紫色のお守り袋をくれた。親指の爪ぐらいの何かが中に入っているようで、爪先でつつくとコツコツと軽い音がする。
 コゲツは今日も夕方ぐらいに出るらしい。怖いから嫌だと、わたしは小さな子供のように駄々をこねた。
 お昼前まで自分の部屋で寝るようにと言われたけれど、居間に布団を敷いてもらい、寝付くまでコゲツに手を繋いでもらう。

「嫁殿は、まだ子供ですね」
「怖いのは苦手なんだもの……それに、コゲツとわたしじゃ、まさに大人と子供だよ……」

 口をとがらせて不満を漏らすと、コゲツは「そうでしょうか?」と穏やかに笑う。そして握ったわたしの手を引き寄せ、そこに唇を軽く押し当てた。

「な、なっ、コゲツ⁉」
「夫婦なのですから、このぐらいはね」
「~っ、わたし、寝る……」

 布団を頭まで被って、ゆだってしまいそうな顔を隠す。
 とんでもなく鼓動が速い。起きた後も、コゲツの顔がまともに見られないかもしれない。
 クスッとコゲツの含み笑いが聞こえ、わたしは撃沈してしまう。
 コゲツ、意地悪だ……


 鼻をくすぐる甘い香りに目を覚ますと、手を握ってくれていたはずのコゲツはいなくなっていた。
 シャカシャカと軽い金属音を辿って、台所を覗く。コゲツがボウルを抱え、泡立て器で生クリームをかき混ぜていた。

「起きたようですね。よく眠れましたか?」
「うん。わたしより、コゲツは寝ていなくて大丈夫なの?」

 わたしは一応、部屋の隅っことはいえ朝方まで寝ていた訳だし、今もまた眠った。朝帰りのコゲツのほうがよっぽど寝不足だと思う。
 けれど、コゲツは口元に笑みを浮かべて「平気です」と穏やかな口調で言った。
 うーん、怪しい。

「嫁殿。ココアをアイスで淹れてもらえますか?」
「はーい。二つ?」
「嫁殿の分だけで」
「コゲツはいらないの?」
「作るだけで十分満足していますから」

 ココアの粉をコップに入れて、お湯を大さじ二杯ほど入れる。それを練り合わせて、ドロッとしたら牛乳を注いでかき混ぜれば、アイスココアの完成。
 コゲツがそのココアの上にホイップクリームを盛り付けて、更にチョコソースまで掛けてくれる大盤振る舞いだ。

「うわぁ。コゲツが優しい!」
「シフォンケーキはもう少しスポンジが冷めてからになりますから、待っていてくださいね」
「熱々のケーキでもわたしは平気だけど?」
「スポンジが熱いと生クリームが溶けますが、それでも?」
「あ、それなら大人しく冷めるまで待っています!」

 ビシッと敬礼して、わたしはそそくさとアイスココアと共に居間へ戻る。
 家の中に漂う甘い香りがケーキとは、流石さすがコゲツ。玄関の手形騒ぎで興奮していたわたしが「怖くて眠れない!」「甘い物作って!」と言ったのもあるのだろう。
 コゲツが言うように、わたしはまだまだお子様なのだ。
 そりゃあ、お嫁入りはしたし、コゲツに女性として認められたい気持ちもあるけれど、そこまでの大人にはまだ心が育っていない。

「ココア、美味しい」
「それは良かった。ただし、甘い物の摂り過ぎは駄目だとよく覚えておくように」
「そんなに甘い物食べてないよ?」
「嫁殿は目を離すと、砂糖をこれでもかというほど入れるじゃないですか」
「うぐ……っ」

 そうは言っても、大事な心の栄養源なのだ。
 花嫁修業中、必要以上のお砂糖は禁止されていた。だけど、禁止されてしまうと余計欲しくなってしまい、今に至る訳だ。

「コゲツは甘い物、嫌い?」
「普通に摂取する分には好きですが、嫁殿は過剰摂取気味ですね」
「太らない程度にしてるよ~っ」

 人を上から下まで見ないでほしい。眺めるようにわずかに頭が上下したの、わかっているんだからね?
 わたし、太っただろうか?
 うーん……。自分のパイル生地のパーカーの胸元を持って、中を覗き込む。
 そんなにお肉は付いていないと思うんだけどなぁ。

「嫁殿ッ⁉」
「はい?」
「はしたないから、止めなさい……」
「何が?」

 コゲツが額に手を当てて、ふぅ……と溜め息を吐く。もう片方の手で、わたしの胸元を指さした。

「……コゲツのエッチ」
「いや、嫁殿が自分でやったことです。身長差で見えただけで……」
「へっ? ぎゃー! エッチ! スケベ! ふわぁぁぁっ!」

 まさか見えているなんて思わなくて、揶揄からかい交じりにエッチとか言ったけれど、見えていたのならば、話は別だ。
 顔を真っ赤にしているだろうわたしはワァワァ騒ぐ。コゲツは手で額を押さえていた。

「下心はともかく。嫁殿、今日も一人にしてしまいますが、大丈夫ですか?」
「今日はスマホをずっと持って、いざとなれば警察を呼ぶよ!」

 コゲツは警察を呼んでも遺体が転がるだけと言ったが、だったら尚更、警察を呼ぶべきだとわたしは思う。そんなに凶悪な相手なら、しっかり捕まえてもらわないと!

「嫁殿は、本家やご両親に何も教わらなかったのですか? 一族のことや私のことを」
「えっと、本家は立派な由緒正しいお家だなー? くらいだし、両親は普通のサラリーマンだよ。コゲツについては『一族の命運がお前にかかっている』って、訳の分からないことしか聞いてないよ」
「そうですか……。でも、なんとなくは気付いているのでしょう?」

 躊躇ためらった後で、わたしは小さくうなずいた。
 顔半分を布で隠しているコゲツが普通ではないのはわたしも分かっている。でも、それ以外におかしなことは起きていないから、今日まで触れずに来たのだ。
 けれど、昨日のような怪奇現象を体験してしまっては、流石さすがにそろそろ知らなくてはいけないだろう。

「今回のことが終わったら、嫁殿には説明しましょう」
「うーっ、説明は欲しくないかも……。コゲツがわたしの気付かないうちにパパッとなんとかしてくれるでしょう?」
「私が傍にいない時に、身を守るすべを覚えておくべきです。知っていると知らないとでは、違いますからね」

 わたしはガクリと肩を落とし、ちゃぶ台に突っ伏した。
 ホラーもオカルトも望んでいません!
 お昼にはコゲツが冷めた紅茶シフォンケーキに生クリームを塗って出してくれて、午後はお夕飯の準備もしてくれた。

「嫁殿、お留守番を頼みましたよ」
「分かってますってば。子供じゃないんだから」
「十分過ぎるほど、子供ですよ」

 失礼な。頬を膨らませると「そういうところが、お子様なのですよ」と、わたしの頬を指で潰す。

「夕飯を食べたらいい子にしていてくださいね」
「もう、子供扱いしないで~っ」
「はいはい。では、行ってきますね」
「行ってらっしゃい」

 わたしは頬を膨らませたままコゲツの背中をぐいぐいと押した。
 玄関を出たコゲツは、門扉の前に停車していた黒塗りの車に乗り込むと、行ってしまった。黒塗りの車が迎えに来るなんて、怪しさ抜群である。

「コゲツ、本当になんの仕事をしているんだろう?」

 なんとなく分かる気はするけど、口にするのは躊躇ためらってしまう。
 車が見えなくなると家の中に入り、玄関のカギをしっかり戸閉した。
 コゲツが用意してくれた夕飯を居間へ運ぶ。食器棚からお茶碗を出して、炊飯器で炊き立てのご飯をよそった。
 桜色の綺麗な夫婦めおと茶碗。十五歳の頃にコゲツと浅草あさくさにデートに出掛けた時に購入したものだ。
 二人で焼き立てのお煎餅せんべいを食べたり、ゴマ油で揚げる有名な天ぷら屋さんでお昼を食べたんだよね。
 デートと言うには華がないけれど、この夫婦めおと茶碗を見ると、あの日のデートを思い出す。
 当時のわたしは中学を卒業して親元から引き離され、毎日厳しい花嫁修業に明け暮れていた。
 ほし家の一員になるのならば多少の武術の心得も必要だと言われ、足の運び方から、体術、周りにある物を使った攻撃の仕方などなど……。一体全体、わたしはどんな危ない人のところへ嫁がされるのか、不安でいっぱいだった。
 朝早くからの稽古けいこに料理や華道など、ぎっちりとスケジュールが組まれ、少しでも間違えようものなら、細い竹の枝で手のひらを叩かれた。
 こんな一族、もう知るか! と、逃げ出したこともある。すぐさま水島家の人にバレて追いかけられていたところを、偶然わたしに会いに来たコゲツがかくまってくれた。
 まさかその時かくまってくれた相手が、結婚相手だとは思わなかったけど。

「あの時のコゲツは、格好良かったんだよねぇ」

 地獄に仏とはこのことかと思ったぐらいだもの。
 コゲツが稽古けいこや体罰に関して水島家の人達に注意してくれたおかげで、わたしの花嫁修業は改善された。
 それからもコゲツは暇を見つけては会いに来てくれて、その度に、この優しいお兄さんが結婚相手なら良いのになぁ……と、思ったものだ。
 しばらくして、コゲツが結婚相手だと知らされた。元々は押し付けられただけの結婚を、半分はわたし自身の意志として受け入れられるようになった。
 身に危険が及ぶような相手に嫁ぐのだという思いもあったけれど、その時は本当に「コゲツが相手で良かった」と思ったのだ。偶然の初対面の時から顔半分を布で隠しているような人だったけど、不思議と怖くはなかった。
 デートをするのも楽しかったし、コゲツはいつでも優しかったからね。


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