あやかし祓い屋の旦那様に嫁入りします

ろいず

文字の大きさ
上 下
25 / 62
4章 言霊のカタチ

網紐染め

しおりを挟む
 学校帰りのハンバーガーショップで、わたしは千佳と一緒にシェイクを注文していた。
 学園祭の話し合いどころか、テレビ局まで来てしまう惨状に学生は早々に帰宅を促されたけれど、わたし達は理由を知っているし、むしろ悪化させた犯人である。

「ミカサ~っ。師匠がめっちゃ怖いスタンプを送ってきたんだけど!?」

 千佳のスマートフォンを覗き込むと、般若のスタンプが押してあった。
 どこでこういうスタンプを手に入れたの!? むしろそっちの方が気になってしまうところだけど、これは怖い。怒っているのがありありとわかる。

「これは……ヤバいね」
「ミカサ~っ! ヤバすぎでしょ! ねっ! これはヤバい~」
「ヤバいね! 逃げよう!」
「二人で愛の逃避行! するっきゃない! するっきゃないね!」
「ふあぁぁぁ~ん」

 二人で手を握り合って怖さをノリでふざけながら声をあげる。
 そんなことをしてもコゲツが許してくれる訳はないだろう。むしろ余計に怒られるのは明白だ。
 わたしも自分のスマートフォンを覗いてみる。
 スタンプは般若ではなかった……が、が、なのだ。
 押されていたスタンプは壁から顔を覗かせる恨みがましそうな猫。
 本当にコゲツはどこでこういう物を買っているのやらだ。

「これは本格的に夜逃げを考えた方がいいかも?」
「ミカサの方にもきてた?」
「この通りだよ」

 スマートフォンの画面を千佳の目の前に差し出して、わたしはシェイクを吸い込む。
 少し硬めなのか吸い込むのに肺活量が必要なようだ。
 わたしがシェイクと格闘している間に、千佳はスマートフォンを片手で弄っていた。

「よし。これで師匠もなんとかー……」

 言い終わる前に千佳のスマートフォンが不穏な音を立てる。
 なぜ有名なサメ映画の曲が着信音なのか聞きたいところだけど、コゲツの怖さを表しているかのようだ。

「ひぇっ……はい。師匠なんでしょうか!」

 ビシッと敬礼しつつスマートフォンに対応する千佳を見れば、「そんな!」「酷い!」と騒いで百面相状態になっている。
 これはコゲツに手厳しく言われているのだろう。ペコペコと頭を下げて忙しそうだ。
 千佳がスマートフォンを切ると眉尻を下げてわたしへと泣きついてきた。

「ミカサ~っ。師匠が酷いんだよ! ちょっとふざけて『ミカサの着替え写真をこっそり送るから許してください』ってアプリでメッセージを出しただけなのに、『網紐染め』が出来るまでは他の修行もしてくれないって! あんな面倒なの嫌だよー!」
「それはわたしが怒るわ。千佳、ふざけてると我が家に出入り禁止にするからね!」
「うわーん。冗談なのに! ミカサも師匠も酷すぎるよ~!」
「冗談でバカなことを書いて送った千佳が悪いの! もう。反省しなさい」

 ちなみに網紐染めというのは、コゲツが髪を結うのに使っている組紐のことで、糸の束に自分の霊力を込めながら編んでいく物のこと。
 簡易的に人ならざる者を捕まえる時に使ったりするらしい。
 コゲツは数珠の方が霊力があるので、そっちを基本的に使っている。ただし、千佳には数珠とかの道具は相性が悪い。三灯天神の能力と相殺し合ってしまうから、初めから千佳自身の能力を注いで作った網紐染めの方が使えるという訳だ。
 ただ、千佳は精神集中をしながらの作業が苦手で……とても苦戦している物でもある。

「いつまでもウソ泣きなんかしないの。ちゃんとコゲツから出された課題をやるんだよ?」
「ミカサも一緒に作ろうよー! 一人じゃ退屈なんだもん」
「んーっ、一緒にやってあげたいのは山々なんだけど。わたし、コゲツの髪を結ってあげようとして網紐染めを触ったら、霊力が全部抜けちゃってコゲツに絶対触っちゃ駄目って言われているんだよね」
「マジで……?」
「うん。マジもマジで、ダイさんとキョウさんにも笑われたぐらいだもん」

 コゲツのなんとも言えない肩の落としようと、キョウさんとダイさんの笑いよう。唯一反応が無かったのは子猫の火車くらいだ。
 それでも最近の火車はわたしの能力が出ている時は近付いてこないし、出ていない時だけすり寄ってくるからこの時は近寄ってもこなかったから反応が見える範囲にいなかったが正しい。
 キョウさんやダイさん天草先生のように使役されている人ならざる者は、契約がある限り滅多なことではわたしが触っても消えてしまうようなことはないらしい。
 ここら辺、自分の能力が未知過ぎて分からないところでもある。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。