あやかし祓い屋の旦那様に嫁入りします

ろいず

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4章 言霊のカタチ

文化祭準備

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 文化祭の出し物が各クラスの話し合い元で行われ、一年生には模擬店は無し、二年生から模擬店が許可されている。
 模擬店、つまりは飲食等の衛生管理や火の取り扱いなどを含めた出し物というわけだ。
 まずは検便検査とか、ガスボンベの火器の取り扱いの消防許可など、色々と必要になる。
 だから、一年生は先輩方からそれを学べということ。
 しかしながら、異議を唱えたのが一部の一年生たちだった。
 自分たちと1学年違うだけの先輩たちと何が違うのか? 高校は中退することもあるのだから、ここは硬いことを言わずに、自由にやらせて欲しい。と、まぁそういうわけだ。
 一年生は先生方を巻き込んで、実行委員の生徒会と揉めに揉めて……結局、全校集会である。
 
「ミカサ、ミカサ。時間の無駄じゃない?」
「だよねぇ。クラス代表の委員長が、会議に出ればいいだけだと思うけど……」
「だよね。だよね」

 わたしと千佳は体育館の冷たい床の上に腰を下ろし、白熱している一年生代表と生徒会長の論議を面倒くさいといわんばかりに、傍観者気取りでいた。
 早く終わらないかなー? と、ぼうっとしていたところを千佳がわたしの制服を指でつんつんと引っ張ってくる。

「どうしたの?」
「ミカサ。上、上に何かいる!」
「上?」

 千佳が指さす方向を見れば、昨日映画館で見た『何か』が体育館の天井でうごめいていた。
 人の想いが形を歪めて出来てしまうようなものだとコゲツは言っていたけれど、アレは少し気持ちが悪い。
 昨日の映画館では黒い靄のような物だったのに、ここの『何か』は一つの体に顔が幾つもある。
 しかも口がいっぱいで、何かをつぶやいているような動きだ。

「今まで、あんなの気付かなかったよね……」
「うん。なんであんな気持ちの悪いのを気付かなかったのか、分からないね」
「でも昨日聞いたら、アレはそんなに悪いものじゃないようなことをコゲツは言っていたけど」
「うーん。師匠って、今日は居ないんだよね?」
「うん。二、三日は留守にするって」
「ふふふ。じゃあさ、ミカサ~」

 含みのある笑い方をする千佳になんとなく嫌な予感がするのは、気のせいかな?
 猫なで声も気になる。
 千佳はわたしの手を取ると、まるで母親におねだりをする時のようにお願いをしてきた。

「師匠に内緒で、アレ、倒してみたいんだけど、黙っててくれる?」
「え? ちょっと、それは無謀じゃ……」
「大丈夫だってば。あたしも結構、出来るようになったと思うんだよね」

 ジトッとわたしが半目で見れば、千佳は「大丈夫!」といたずら前の子供のような顔をする。
 こうう時って、大抵は悪いことになる気がするのだけど、昨日の映画館でもそれ程のものでも無かったし、大丈夫……だろうか。
 うーんと、悩みはするものの、わたしに答えが出せるような祓い屋のあれそれは分からない。
 千佳の方が知っているから、自分に自信が無ければ言わないだろう。

「無茶、しないでね?」
「やった! 千佳さんにまっかせなさい!」
「そういうところが任せられないのよねー」
「ミカサ……酷いよ~」
「まぁ、頑張って」

 わたしは千佳に一任して、白熱している弁論大会のようになっているステージに目を向ける。
 この騒がしさなら、千佳が少し変なことをしようと、誰も気に留めはしないだろう。
 
「ではでは、いきます」

 千佳が両手の指先を同じ形にして、胸の前で三角を作る。
 わたしは茶目っ気を出して「ラブビーム」と手でハートを作り、千佳に笑う。
 
「ミカサ。あとでそのポーズ、カメラに撮って師匠に送ってあげるね」
「いえ、それは結構です」

 それは冗談じゃないと左右に首を振って、わたしは昨日のキスの事を思い出し真っ赤になる。
 ようやく薄れた羞恥心が……このこそばゆい気持ちのソワソワ感、いったいどう処理したらいいのだろう?
 
「ひとつ、人ならざる者を解す時、己の心に邪なものを持たぬべし……ふたつ、名を介し媒介とすべし……みっつ、全ての理を理解すべし……」

 千佳がコゲツに教わった祓い屋の心得を口にして、ぶつぶつと難しいことを言っている。
 ちなみに千佳にも意味はよく分からないようだけど、要約すると『人ならざる者を退治するなら余計なことを考えるな。名前は人ならざる者をこの地上に固定するものだから、相手の名を知ること。無ければつけること。これが分かったら退治に集中すること』ということだ。
 分かっていないのに、分かったふりをして千佳は印を結んでいく。
 千佳も随分と指の動きが良くなった。
 これもスパルタなコゲツの指導のたまものだろう。

「――爆散!」

 何やら物騒な最後の言葉と共に、『何か』に赤い光が走る。
 一瞬の赤い光は、ライフル銃のレーザーポインターのようだった。
 それぐらい細くて瞬きの間のことだったのに、『何か』が四散したと思ったけれど、散り散りになって数が増えただけ。

「千佳さんや……増えてますよ?」
「あらら。失敗しちゃいましたか……まぁ、悪いものじゃないんだよね?」
「その、はず……」

 いや、待って……昨日の『何か』がそれほどの悪いものじゃないだけだったっけ?
 頭の中でコゲツの「嫁殿」と呆れた声が聞こえた気がした。
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