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4章 言霊のカタチ
デート
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授業の終了を知らせるチャイムが鳴り、わたしはシャーペンを手から離した。
最後までテスト用紙から目が離せず、最後のあがきとばかりに一問目から見直していく……が、後ろからテスト用紙を回収され、ようやく諦めた。
テスト用紙を集め終わった教師が帰りの挨拶をして、それぞれ帰り支度を始める。
「あー……、もう駄目」
「あたしも、もう駄目っていうより、師匠に怒られる……」
後ろの席の千佳が情けない声を出し、わたしは後ろを振り向く。
千佳はガクリと肩を落として、カバンを机の上に置き、筆記用具を詰め込んで帰り支度を始めていた。
わたしも帰り支度を始め、これでようやく中間テスト最終日も終わりだと、肩から力を抜く。
「千佳、テストどうだった?」
「だから、師匠に怒られるぐらいヤバいってば」
「具体的には?」
「テスト用紙を見る前までは、覚えていました! 見た瞬間……頭の中は真っ白です!」
「あらら……ご愁傷様です」
千佳が両手を降参とばかりに上げて、席を立つ。
カバンを手にわたしも席を立ち、千佳と一緒に教室を出た。
今日の授業は半日授業。
テストを朝から昼まで続けざまに三教科もしていたので、テストから解放された頭の中身はお疲れ気味だ。
「ミカサ。今日はどうする?」
「お昼ご飯はコゲツが作ってくれているから、大人しく帰るよ」
「遊んで帰らないの?」
「えへへー。実は、今日はコゲツと映画館にデートなのだよ」
「おおっ! ミカサも一歩進展だね!」
まぁ、正確には二人っきりではないし、情操教育とでも言えばいいのか……百目鬼兄弟のキョウさんとダイさんが、テレビっ子になってしまい、映画はその延長線上のようなものだ。
でも、ここはあえてコゲツとのデートだと思っておこう。
それに一歩前進も何も、わたしとコゲツは夫婦なのだから、一歩も二歩も無い。
千佳と別れ、家に帰りつくと玄関を開ければ、子猫の火車が出迎えてくれる。
「ニィー」
「火車、ただいまー」
わたしの足に頭をすり寄せると、火車は前を歩いて台所へ入っていく。
台所の前を通れば、コゲツが料理をしている足元で、火車が甘えているのが見える。
「コゲツ、ただいま」
「おかえり。嫁殿」
「着替えてくるね」
「ええ。すぐにお昼にしますね」
手洗いうがいを済ませて、自分の部屋へ入り着替える。
デートなのだから、少しだけお洒落をしようと、夏休みの終わりに千佳と一緒に買った服に袖を通す。
七分袖のブラウスに、大きめのデニムジャンバースカート。
ジャンバースカートはボタンで留める物で、全部外して前開きにして、ジーンズ生地のホットパンツを履き、子猫のプリントタイツが決め手だ。
髪は二つ結びに学校ではしているけれど、折角だしヘアーアイロンで巻いてしまおうか……流石にそれはやり過ぎ? いや、こういう時に巻かずしていつ巻くのか。
「えーと、お水、お水」
ヘアーアイロンに水を少し入れて、熱が上がるまで待つ間にほんの少しだけお化粧にも手を出す。
お母さんに注意されたので、学生らしく節度のあるお化粧というところだ。
化粧水はほんのり柑橘系の香り付き、色付きのリップにも桃の香り。
コゲツがお化粧に気付かなくても、匂いぐらいは気付いてほしいなという乙女心だったりする。
ヘアーアイロンで髪を巻き、鏡で自分の姿を見て最終チェック。
「よしっ!」
階段を下りて居間へ行くと、ちゃぶ台の上にはお昼ご飯が並んでいる。
四皿の上には海鮮焼きそば。
海老とイカに小松菜にニンジンが入っているようだ。
「ミカサ、遅いぞ」
「そうだぞ。我らは腹ペコだ」
「ごめんね。キョウさんもダイさんも、先に食べていて良かったんだよ?」
二人は普段は狼の姿をしているけれど、人の姿にもなれる為に、今は人の姿だ。
元々背の高い人ならざる者だから、身長が高めの青年二人で、キョウさんは右わけの髪でダイさんが左わけの髪をしている。
服も同じなので、見た目で見分けるなら髪だけが頼りというところだろう。
そんな二人はわたしを見て首を振る。
「ミカサ抜きで先に食べると、主に酷い目に遭わされる」
「そうだぞ。主は恐ろしいのだ」
すっかり傅いてしまった二人は、コゲツにいいように使われているみたい。
「嫁殿、可愛い服ですね。髪型も」
「えへへ。ちょっと張り切っちゃった」
「よく似合っていますよ」
わたしを褒めながら、コゲツがお茶を用意して隣に座る。
やっぱり、髪を巻いて良かった。
時間が掛かっちゃったのは、少しだけ申し訳ないけどね。
「では、皆揃いましたし、いただきましょうか」
「はーい。いただきまーす」
コゲツ特製の海鮮焼きそばは、生麺を油に押し付けてお焦げを作って、その上から海老、イカ、ホタテ、小松菜、ニンジンを炒めて、オイスターソースに鶏がらスープを片栗粉で溶いてとろみをつけた餡かけになっている。
海老やイカから滲みだした旨味が効いた餡がパリパリの麺に絡んで美味しい。
「ニィー」
「あなたには、こっちです」
コゲツが膝に足を掛ける火車に、サイコロ状にしたマグロを湯通しした物をお皿に載せて食べさせる。
意外と面倒見がいい……意外でもないか。うん、コゲツは世話好きだと思う。
なんせ、嫁であるわたしの面倒を見ているのだから。
最後までテスト用紙から目が離せず、最後のあがきとばかりに一問目から見直していく……が、後ろからテスト用紙を回収され、ようやく諦めた。
テスト用紙を集め終わった教師が帰りの挨拶をして、それぞれ帰り支度を始める。
「あー……、もう駄目」
「あたしも、もう駄目っていうより、師匠に怒られる……」
後ろの席の千佳が情けない声を出し、わたしは後ろを振り向く。
千佳はガクリと肩を落として、カバンを机の上に置き、筆記用具を詰め込んで帰り支度を始めていた。
わたしも帰り支度を始め、これでようやく中間テスト最終日も終わりだと、肩から力を抜く。
「千佳、テストどうだった?」
「だから、師匠に怒られるぐらいヤバいってば」
「具体的には?」
「テスト用紙を見る前までは、覚えていました! 見た瞬間……頭の中は真っ白です!」
「あらら……ご愁傷様です」
千佳が両手を降参とばかりに上げて、席を立つ。
カバンを手にわたしも席を立ち、千佳と一緒に教室を出た。
今日の授業は半日授業。
テストを朝から昼まで続けざまに三教科もしていたので、テストから解放された頭の中身はお疲れ気味だ。
「ミカサ。今日はどうする?」
「お昼ご飯はコゲツが作ってくれているから、大人しく帰るよ」
「遊んで帰らないの?」
「えへへー。実は、今日はコゲツと映画館にデートなのだよ」
「おおっ! ミカサも一歩進展だね!」
まぁ、正確には二人っきりではないし、情操教育とでも言えばいいのか……百目鬼兄弟のキョウさんとダイさんが、テレビっ子になってしまい、映画はその延長線上のようなものだ。
でも、ここはあえてコゲツとのデートだと思っておこう。
それに一歩前進も何も、わたしとコゲツは夫婦なのだから、一歩も二歩も無い。
千佳と別れ、家に帰りつくと玄関を開ければ、子猫の火車が出迎えてくれる。
「ニィー」
「火車、ただいまー」
わたしの足に頭をすり寄せると、火車は前を歩いて台所へ入っていく。
台所の前を通れば、コゲツが料理をしている足元で、火車が甘えているのが見える。
「コゲツ、ただいま」
「おかえり。嫁殿」
「着替えてくるね」
「ええ。すぐにお昼にしますね」
手洗いうがいを済ませて、自分の部屋へ入り着替える。
デートなのだから、少しだけお洒落をしようと、夏休みの終わりに千佳と一緒に買った服に袖を通す。
七分袖のブラウスに、大きめのデニムジャンバースカート。
ジャンバースカートはボタンで留める物で、全部外して前開きにして、ジーンズ生地のホットパンツを履き、子猫のプリントタイツが決め手だ。
髪は二つ結びに学校ではしているけれど、折角だしヘアーアイロンで巻いてしまおうか……流石にそれはやり過ぎ? いや、こういう時に巻かずしていつ巻くのか。
「えーと、お水、お水」
ヘアーアイロンに水を少し入れて、熱が上がるまで待つ間にほんの少しだけお化粧にも手を出す。
お母さんに注意されたので、学生らしく節度のあるお化粧というところだ。
化粧水はほんのり柑橘系の香り付き、色付きのリップにも桃の香り。
コゲツがお化粧に気付かなくても、匂いぐらいは気付いてほしいなという乙女心だったりする。
ヘアーアイロンで髪を巻き、鏡で自分の姿を見て最終チェック。
「よしっ!」
階段を下りて居間へ行くと、ちゃぶ台の上にはお昼ご飯が並んでいる。
四皿の上には海鮮焼きそば。
海老とイカに小松菜にニンジンが入っているようだ。
「ミカサ、遅いぞ」
「そうだぞ。我らは腹ペコだ」
「ごめんね。キョウさんもダイさんも、先に食べていて良かったんだよ?」
二人は普段は狼の姿をしているけれど、人の姿にもなれる為に、今は人の姿だ。
元々背の高い人ならざる者だから、身長が高めの青年二人で、キョウさんは右わけの髪でダイさんが左わけの髪をしている。
服も同じなので、見た目で見分けるなら髪だけが頼りというところだろう。
そんな二人はわたしを見て首を振る。
「ミカサ抜きで先に食べると、主に酷い目に遭わされる」
「そうだぞ。主は恐ろしいのだ」
すっかり傅いてしまった二人は、コゲツにいいように使われているみたい。
「嫁殿、可愛い服ですね。髪型も」
「えへへ。ちょっと張り切っちゃった」
「よく似合っていますよ」
わたしを褒めながら、コゲツがお茶を用意して隣に座る。
やっぱり、髪を巻いて良かった。
時間が掛かっちゃったのは、少しだけ申し訳ないけどね。
「では、皆揃いましたし、いただきましょうか」
「はーい。いただきまーす」
コゲツ特製の海鮮焼きそばは、生麺を油に押し付けてお焦げを作って、その上から海老、イカ、ホタテ、小松菜、ニンジンを炒めて、オイスターソースに鶏がらスープを片栗粉で溶いてとろみをつけた餡かけになっている。
海老やイカから滲みだした旨味が効いた餡がパリパリの麺に絡んで美味しい。
「ニィー」
「あなたには、こっちです」
コゲツが膝に足を掛ける火車に、サイコロ状にしたマグロを湯通しした物をお皿に載せて食べさせる。
意外と面倒見がいい……意外でもないか。うん、コゲツは世話好きだと思う。
なんせ、嫁であるわたしの面倒を見ているのだから。
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