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三章
麻乃の夢②
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夢の中で見たものは、実際に起きたことが再現されていて……
小さなころの私は、ずいぶんとわがままなお姫様だった。
穴があったら入りたい。これぞ黒歴史……きっと御守さんは、私の黒歴史を覚えているだろうから、どうか忘れてほしい。
夢の中で大人の私は、ジタバタと恥ずかしがるものの、場面は切り替わる。
一面のシロツメクサ畑。
そこに御守さんと小さな私が座っていた。
「スイ。ユビワがあったら、ケッコンなのよ?」
「ほう。ならこれは、結婚指輪ということか?」
小さな私はシロツメクサで作った指輪を手に、御守さんの指にはめようと膝の上にのぼる。
御守さんは楽しそうに笑って、小さな私に付き合ってくれている。
小さな私は他にも必死に、御守さんの昔の奥さんより自分を選んでほしくて試行錯誤を繰り返し……事あるごとに『これはケッコン!』と言っていた。
本当に、勘弁してほしい。
御守さんも、よく子供の戯言に付き合ってくれたものだと思う。
まぁ……私がこの後、姿を消してから何年も探していてくれて、恋人にまでなってくれたのだから、とても親切な人だ。
本当のことを言ってしまえば、これには理由がある。
私の母が人魚という妖で、人魚と言えば、失恋して泡になってしまう妖だ。
実らない恋に身を焦がし、哀れに消えてゆく。
私が泡にならないように私の想いに応えてくれているだけ、私は人魚の母と白虎の父との間に生まれたせいなのか、悲しみが深すぎても体を維持することができない。
だから、周りは私を優しく包み込んでくれているのだ。
なんてはた迷惑な人魚姫なのだろう……
それでも、幼い私と今の私は、御守さんに恋をしている。
御守さんの優しさに付け込んではいないだろうか? 御守さんは結婚してもいいとまで言ってくれているのは、父の眷属だからだと分かっているのに、心はつい、踊ってしまうのだ。
小さな私は、シロツメクサの指輪が枯れるたびに、御守さんを連れてこの花畑に指輪を作りに来た。
何度も結婚指輪を作るなんて、小さな私はとても心配症だ。
そして御守さんも、そのたびに小さな私の指先にシロツメクサの指輪を作ってはめてくれて、そして軽く、騎士が姫君の指先に軽くキスをするように、唇を落としてくれた。
私の幸せな思い出の夢だ。
けれど、幸せはそう続かなかった。
私の誕生日。
その日は朝から遊園地に行こうと約束していた。
家族三人と御守さんの合わせて四人で、だ。
けれど、御守さんは小さな私に手を合わせる。
「悪い。仕事なんだ」
「なんで!? スイ、いくっていったもん!!」
「途中までは一緒に行けるから、そんなに機嫌を悪くしないでくれ」
眉を下げて謝る御守さんに小さな私はぶすっとむすくれて、父も母も「かわいい顔が台無し」と、小さな私の頬を突いて笑っていた。
「今日のお姫様は、『不思議の国のアリス』みたいで、可愛いぞ」
御守さんは、小さな私のご機嫌取りに水色のワンピースに白いレースのエプロンを褒めちぎった。
そして小さな私は、少しだけ機嫌を良くしたところで……御守さんは、真っ白なウサギの人形を差し出した。
「可愛いアリスには道案内のウサギが必要だろう?」
「わぁ! くれるの? ありがとう!」
「ふぅ。やっと笑ったな。さぁ、途中まで一緒に行こう」
ホッとしたように御守さんが肩を落とし、小さな私に手を差し伸べて、手をつないで遊園地へ行くための電車まで一緒に歩いた。
お店のウィンドウに御守さんと一緒に映るのが嬉しくて、何度も見ていた。
「仕事が片付いたら、一緒に夕飯を食べよう。その時にバースデーケーキの特別な物を用意しておくからな」
「やくそくだよ! これ! やくそくのリボン!」
「ああ。帰ってきたら返すからな。それまでは、大事に預かっておくよ」
小さな私はテレビか何かで見たのか、約束をするのに相手に自分の何かを渡す……と、いうもの憧れていて、自分の両サイドに結ばれた水色のリボンの一本を御守さんに渡した。
御守さんが、水色のリボンにキスをして、小さな私は幸せいっぱいで手を振って別れた。
それが髪の短い御守さんを見た、最後の姿だ。
小さなころの私は、ずいぶんとわがままなお姫様だった。
穴があったら入りたい。これぞ黒歴史……きっと御守さんは、私の黒歴史を覚えているだろうから、どうか忘れてほしい。
夢の中で大人の私は、ジタバタと恥ずかしがるものの、場面は切り替わる。
一面のシロツメクサ畑。
そこに御守さんと小さな私が座っていた。
「スイ。ユビワがあったら、ケッコンなのよ?」
「ほう。ならこれは、結婚指輪ということか?」
小さな私はシロツメクサで作った指輪を手に、御守さんの指にはめようと膝の上にのぼる。
御守さんは楽しそうに笑って、小さな私に付き合ってくれている。
小さな私は他にも必死に、御守さんの昔の奥さんより自分を選んでほしくて試行錯誤を繰り返し……事あるごとに『これはケッコン!』と言っていた。
本当に、勘弁してほしい。
御守さんも、よく子供の戯言に付き合ってくれたものだと思う。
まぁ……私がこの後、姿を消してから何年も探していてくれて、恋人にまでなってくれたのだから、とても親切な人だ。
本当のことを言ってしまえば、これには理由がある。
私の母が人魚という妖で、人魚と言えば、失恋して泡になってしまう妖だ。
実らない恋に身を焦がし、哀れに消えてゆく。
私が泡にならないように私の想いに応えてくれているだけ、私は人魚の母と白虎の父との間に生まれたせいなのか、悲しみが深すぎても体を維持することができない。
だから、周りは私を優しく包み込んでくれているのだ。
なんてはた迷惑な人魚姫なのだろう……
それでも、幼い私と今の私は、御守さんに恋をしている。
御守さんの優しさに付け込んではいないだろうか? 御守さんは結婚してもいいとまで言ってくれているのは、父の眷属だからだと分かっているのに、心はつい、踊ってしまうのだ。
小さな私は、シロツメクサの指輪が枯れるたびに、御守さんを連れてこの花畑に指輪を作りに来た。
何度も結婚指輪を作るなんて、小さな私はとても心配症だ。
そして御守さんも、そのたびに小さな私の指先にシロツメクサの指輪を作ってはめてくれて、そして軽く、騎士が姫君の指先に軽くキスをするように、唇を落としてくれた。
私の幸せな思い出の夢だ。
けれど、幸せはそう続かなかった。
私の誕生日。
その日は朝から遊園地に行こうと約束していた。
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けれど、御守さんは小さな私に手を合わせる。
「悪い。仕事なんだ」
「なんで!? スイ、いくっていったもん!!」
「途中までは一緒に行けるから、そんなに機嫌を悪くしないでくれ」
眉を下げて謝る御守さんに小さな私はぶすっとむすくれて、父も母も「かわいい顔が台無し」と、小さな私の頬を突いて笑っていた。
「今日のお姫様は、『不思議の国のアリス』みたいで、可愛いぞ」
御守さんは、小さな私のご機嫌取りに水色のワンピースに白いレースのエプロンを褒めちぎった。
そして小さな私は、少しだけ機嫌を良くしたところで……御守さんは、真っ白なウサギの人形を差し出した。
「可愛いアリスには道案内のウサギが必要だろう?」
「わぁ! くれるの? ありがとう!」
「ふぅ。やっと笑ったな。さぁ、途中まで一緒に行こう」
ホッとしたように御守さんが肩を落とし、小さな私に手を差し伸べて、手をつないで遊園地へ行くための電車まで一緒に歩いた。
お店のウィンドウに御守さんと一緒に映るのが嬉しくて、何度も見ていた。
「仕事が片付いたら、一緒に夕飯を食べよう。その時にバースデーケーキの特別な物を用意しておくからな」
「やくそくだよ! これ! やくそくのリボン!」
「ああ。帰ってきたら返すからな。それまでは、大事に預かっておくよ」
小さな私はテレビか何かで見たのか、約束をするのに相手に自分の何かを渡す……と、いうもの憧れていて、自分の両サイドに結ばれた水色のリボンの一本を御守さんに渡した。
御守さんが、水色のリボンにキスをして、小さな私は幸せいっぱいで手を振って別れた。
それが髪の短い御守さんを見た、最後の姿だ。
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