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二章
めめさんとアイスを③
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『居眠り運転! 大型トラックが乗用車に突っ込む 炎に包まれる』という記事の見出しから始まった。めめさんの事故の死亡記事がスマートフォンに表示された。
十八日午後十九時前、千葉県木更津市の東京湾パーキングエリアにて、乗用車に居眠り運転の大型トラックが衝突し、乗用車に乗っていた、東京都在住の飲食店従業員、蒼井めめさん(二十九)が巻き込まれ、乗用車の持ち主で会社員の坂倉健吾さん(二十八)が蒼井さんを車から救助しようとし、炎上する乗用車にて意識不明の重体。
__意識不明の重体。
「めめさん……、彼氏さんの名前は、坂倉健吾さんですか?」
「そうよ。スマホには何て?」
どうしよう? 言ってしまっていいのだろうか? 意識不明……炎上、マンションのめめさんの部屋の火。
もしかしたら、坂倉さんはもう亡くなって、めめさんの帰りをあの部屋で待っているのかもしれない。
「坂倉さんはー……もう」
この世に居ないかもしれないと話そうとしたところで、めめさんも幽霊だ。と、それならば、坂倉さんと会わせてあげることが出来るかもしれない。と、私は口をつぐむ。
生きて一緒に居ることが出来ないのなら、死んでから一緒に居られるのではないだろうか?
これは、むしろ朗報? ううん、めめさんの性格からしたら、自分のせいで彼氏が亡くなってしまったら、自分を許せるだろうか?
いや、これは私のただの予想だ。彼氏さんは生きているかもしれない。
「よく聞いて下さい。坂倉さんは、めめさんを車から助け出そうとして、炎上する車の中に入ったそうです。意識不明の重体と書かれています」
「うそ……うそ、でしょ?」
『麻乃ちゃん。生きているの? 彼氏は』
「そこまでは書いていません。ですから、入院先の病院を探すのが先決かと思います」
スマートフォンで御守さんに、めめさんの事故の話とマンションの話をメッセージで送ったところ、御守さんが合流することになり、私達は一旦、おおかみ宿舎に戻る事になった。
その間、めめさんは泣き通しで私も、みゐやさんも慰めるのに必死だった。
おおかみ宿舎に戻ると、御守さんが先に帰っていて、食堂にはめめさんを故郷へ連れ帰る担当の山伏斗賄さんが来ていた。
山伏さんは、怪火と言われる九州地方の妖で、死んだ者を捕まえる為の妖怪と言われている。元々は、海に現れる炎の中を歩く子供や、幽霊船などをまとめてそう呼んでいたもので、似た話が海では幾つもある為に、彼等個々の妖の力は弱く、こうして夏場は死者を迎える係りをして過ごしている。
「蒼井めめさんの事件は、こっちも調べましたよ」
山伏さんは肩に付きそうな髪を掻き上げて、新聞の切り抜きのコピーと幾つかのメモをテーブルへ広げる。
新聞の切り抜きは、先程私が調べた物と大差はなく、メモ書きの方を見れば、病院の名前と病室番号が書かれていた。
「これは、坂倉さんの入院先の住所と病院名ですか?」
「一応ね。ただね、坂倉さんはずっと意識不明で、もう2ヶ月になる」
つまりは、今も意識は戻っていないという事だ。
山伏さんは紙のメモの一枚を手に取り読み上げる。
「臓器提供、全身の火傷が酷い為、眼球は無理。ただし、心臓や内臓は使える部分は提供される可能性があるっぽいんだよ。家族の人達もそろそろ限界だろうからね」
「限界? どういう限界なんですか?」
山伏さんは髪を掻き上げながら、「疲れの限界」と言った。
その一言に、私も養母の入院中の世話をしている時の看病疲れを思い出した。
どんなに大好きな人でも、看病していくうちに心がすり減っていく。
心の限界、そういう事なのだろう。
「臓器提供をされてしまうと、幽霊という形にはならないし、死んだ。という明確な基準から外れてしまうから、連れて行くことは出来ない」
「それじゃあ……坂倉さんは……」
「そんなの嫌ッ! 健吾は生きているのに、健吾じゃ無くなっちゃうじゃない!」
めめさんはフッとその場で消えてしまうと、山伏さんは頭を掻きむしる。
「ハーッ。死んでからも迷惑かけんなっつーの」
「そんな言い方、無いじゃないですか!」
「麻乃。落ち着け」
「だって、御守さん!」
山伏さんの言い方にカチンッときてしまった私が食って掛かると、御守さんが私を止めて、私はいら立ちを御守さんにもぶつけてしまう。
御守さんは困った顔をして、メモに目を通し、「行ってみるか」と私の手を取り、ヒョイッと背中に私をおんぶしたかと思うと、大きな狼の姿になって駆け出した。
「わっ! み、御守さん!?」
「口は閉じておいた方が良いぞ。舌を噛むからな」
「わっぷっ!」
狼姿になった御守さんの後頭部に顔を埋めて、しがみ付くとおおかみ宿舎を出て、家や建物の壁を足で蹴りつけて跳躍すると、ビルの上を飛び越えながら御守さんは駆けていく。
なんて無茶な移動方法をするのだろうか!? ひぇぇと、心の中で悲鳴を上げて薄暗くなり始めた街中の闇に紛れていった。
十八日午後十九時前、千葉県木更津市の東京湾パーキングエリアにて、乗用車に居眠り運転の大型トラックが衝突し、乗用車に乗っていた、東京都在住の飲食店従業員、蒼井めめさん(二十九)が巻き込まれ、乗用車の持ち主で会社員の坂倉健吾さん(二十八)が蒼井さんを車から救助しようとし、炎上する乗用車にて意識不明の重体。
__意識不明の重体。
「めめさん……、彼氏さんの名前は、坂倉健吾さんですか?」
「そうよ。スマホには何て?」
どうしよう? 言ってしまっていいのだろうか? 意識不明……炎上、マンションのめめさんの部屋の火。
もしかしたら、坂倉さんはもう亡くなって、めめさんの帰りをあの部屋で待っているのかもしれない。
「坂倉さんはー……もう」
この世に居ないかもしれないと話そうとしたところで、めめさんも幽霊だ。と、それならば、坂倉さんと会わせてあげることが出来るかもしれない。と、私は口をつぐむ。
生きて一緒に居ることが出来ないのなら、死んでから一緒に居られるのではないだろうか?
これは、むしろ朗報? ううん、めめさんの性格からしたら、自分のせいで彼氏が亡くなってしまったら、自分を許せるだろうか?
いや、これは私のただの予想だ。彼氏さんは生きているかもしれない。
「よく聞いて下さい。坂倉さんは、めめさんを車から助け出そうとして、炎上する車の中に入ったそうです。意識不明の重体と書かれています」
「うそ……うそ、でしょ?」
『麻乃ちゃん。生きているの? 彼氏は』
「そこまでは書いていません。ですから、入院先の病院を探すのが先決かと思います」
スマートフォンで御守さんに、めめさんの事故の話とマンションの話をメッセージで送ったところ、御守さんが合流することになり、私達は一旦、おおかみ宿舎に戻る事になった。
その間、めめさんは泣き通しで私も、みゐやさんも慰めるのに必死だった。
おおかみ宿舎に戻ると、御守さんが先に帰っていて、食堂にはめめさんを故郷へ連れ帰る担当の山伏斗賄さんが来ていた。
山伏さんは、怪火と言われる九州地方の妖で、死んだ者を捕まえる為の妖怪と言われている。元々は、海に現れる炎の中を歩く子供や、幽霊船などをまとめてそう呼んでいたもので、似た話が海では幾つもある為に、彼等個々の妖の力は弱く、こうして夏場は死者を迎える係りをして過ごしている。
「蒼井めめさんの事件は、こっちも調べましたよ」
山伏さんは肩に付きそうな髪を掻き上げて、新聞の切り抜きのコピーと幾つかのメモをテーブルへ広げる。
新聞の切り抜きは、先程私が調べた物と大差はなく、メモ書きの方を見れば、病院の名前と病室番号が書かれていた。
「これは、坂倉さんの入院先の住所と病院名ですか?」
「一応ね。ただね、坂倉さんはずっと意識不明で、もう2ヶ月になる」
つまりは、今も意識は戻っていないという事だ。
山伏さんは紙のメモの一枚を手に取り読み上げる。
「臓器提供、全身の火傷が酷い為、眼球は無理。ただし、心臓や内臓は使える部分は提供される可能性があるっぽいんだよ。家族の人達もそろそろ限界だろうからね」
「限界? どういう限界なんですか?」
山伏さんは髪を掻き上げながら、「疲れの限界」と言った。
その一言に、私も養母の入院中の世話をしている時の看病疲れを思い出した。
どんなに大好きな人でも、看病していくうちに心がすり減っていく。
心の限界、そういう事なのだろう。
「臓器提供をされてしまうと、幽霊という形にはならないし、死んだ。という明確な基準から外れてしまうから、連れて行くことは出来ない」
「それじゃあ……坂倉さんは……」
「そんなの嫌ッ! 健吾は生きているのに、健吾じゃ無くなっちゃうじゃない!」
めめさんはフッとその場で消えてしまうと、山伏さんは頭を掻きむしる。
「ハーッ。死んでからも迷惑かけんなっつーの」
「そんな言い方、無いじゃないですか!」
「麻乃。落ち着け」
「だって、御守さん!」
山伏さんの言い方にカチンッときてしまった私が食って掛かると、御守さんが私を止めて、私はいら立ちを御守さんにもぶつけてしまう。
御守さんは困った顔をして、メモに目を通し、「行ってみるか」と私の手を取り、ヒョイッと背中に私をおんぶしたかと思うと、大きな狼の姿になって駆け出した。
「わっ! み、御守さん!?」
「口は閉じておいた方が良いぞ。舌を噛むからな」
「わっぷっ!」
狼姿になった御守さんの後頭部に顔を埋めて、しがみ付くとおおかみ宿舎を出て、家や建物の壁を足で蹴りつけて跳躍すると、ビルの上を飛び越えながら御守さんは駆けていく。
なんて無茶な移動方法をするのだろうか!? ひぇぇと、心の中で悲鳴を上げて薄暗くなり始めた街中の闇に紛れていった。
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