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二章
めめさんとアイスを①
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ジリジリとアスファルトの熱が足元から上がり、薄いビーチサンダルでは熱を防ぎきるには少し心許ない。
コンビニに辿り着くとヒンヤリとした店内のクーラーに、天国はここにあった! と、大袈裟なくらい思ってしまうから、困ってしまう。
アイボリー色のパフワンピースと白いロングレースのフレアスカートを少しだけ手に持って、わさわさと左右に動かしてクーラーの風を送り込む。
「ふぃー……暑い」
カゴを手に持つと、冷凍食品のコーナーへ行き、アイスをカゴへ色々な種類を入れ込んでいく。普段なら、誰が何を選ぶかを考える所ではあるけれど、今回はそうした時間も無い。なんせアイスは直ぐに溶けるから、時間との勝負だ。
「あっ、三色アイスは絶対入れる。あとは、モナカと小豆のアイスも外せない」
自分の好みの物とお子様達の好きな物はちゃんと入れておいてあげよう。
「麻乃ちゃん。このストロベリーレアチーズが欲しいなぁ」
透明の透けた手が指を差したカップアイスもカゴに入れて、合計で四十個程だろうか? 大量にアイスを買い占める私が居た。
レジの人にアイスボックスに直接アイスを入れてもらい、スマートフォンをスキャンしてもらい買い物官僚である。
おおかみ宿舎の会計をしてくれている七緒さんから、会計がしやすいようにスマートフォン自体を支給され、現金の受け渡しは最小限にする事にしたのだ。
妖の中でも近代化は進んでいる。
アイスボックスの持ち手を伸ばし、カートにするとゴロゴロとアイスボックスを引きながら歩い始める。
「めめさん。今から食べていると、宿舎に着くころには無くなっちゃいますよ?」
「だってぇ、暑いじゃない?」
「幽霊なのに?」
「気分よ。き・ぶ・ん」
うふふと笑って、幽霊のめめさんはアイスを食べて満足そうに体を弾ませている事から、スキップでもしているのだろう。足元は見えないけど。
お子様達はいつもならば喜んでコンビニには一緒に来るはずが、お子様達もこの時期は幽霊を追い回すのに、駆り出されている。
珍しく御守さんも駆り出されているらしく、今年の夏はそれだけさ迷っている幽霊が多いらしい。
年々過労死や自殺、事故が相次いでいるらしく、世の中が便利になった分、こうした事も増えているのだそうだ。
「あの、聞いて良いか分からないんですけど、めめさんって死因は何だったんですか?」
「あたし? お店のお客さんに良い人が居てね。休みの時とかデートしてたのよ! すっごく良い人! アタシの人生でここまで良い人は、きっと小学校の同級生の男の子くらいね!」
めめさんは赤い唇を嬉しそうに吊り上げて、恋バナに花を咲かせる乙女のように体をくねらせる。
とても良い人……その人を残して死んでしまったのだろうか?
少しそれを思うと、この先を聞いて良いのか迷ってしまうところだ。
「彼とね、山と海の間にある水族館へ行ったの。でも、アタシってこんなんでしょ? 水族館なんて似合うような女じゃないし、浮いている感じがして『アタシに似合う場所を選んで欲しい!』とか、怒っちゃって……彼は申し訳なさそうにしてたんだけど、アタシ素直になれなくて……帰る時もムスッとしてたら、彼が車を停めたの」
先程までの楽しそうな顔とは一変して、めめさんは眉尻を下げ、アイスのカップに視線を落としたまま溜め息を吐く。
「車を停めた場所は、海の展望台レストランで……前にアタシが一度だけ行きたいって言っていた場所なんだけど、アタシったら変に捻くれてて、嬉しかったのにムスッとしたまま食事をして、帰りに彼が車のダッシュボードにプレゼントがあるって言うから、ブツブツ文句を言いながら探しに行ったの。ダッシュボードを開けた時、大型車が車に突っ込んできてね。死んじゃった」
「え……それじゃあ、ダッシュボード中身は見ていないんですか?」
めめさんは頷いて「気になるよねー」とションボリとした声を出す。
聞いた状況からすると、それはプロポーズの指輪とかではないだろうか? とも思うのだけれど、確証はないし……
そこで私は閃いた。
「めめさん! その彼氏さんの所にダッシュボードの中身を探しに行ってみませんか?」
「ええ? でも、車は大破してると思うし、今更じゃない?」
「でも、彼氏さんに何だったのか聞けるんじゃないでしょうか? めめさんだって気になるでしょう?」
「そりゃぁ……気になるけどさ、でも、本当に今更って話でしょ」
「めめさん。彼氏さんの住まいは!?」
「その前に、アイス」
めめさんに言われて、小走りでアイスを宿舎の冷蔵庫に入れるべく私は走る。
勿論、夏に重たいカートを引いて走るのは、少々、かなり体力は削られたが、汗だくで宿舎に戻り、三色アイスでクールダウンを図りつつ、めめさんに彼氏さんの家などを聞き取り調査した。
コンビニに辿り着くとヒンヤリとした店内のクーラーに、天国はここにあった! と、大袈裟なくらい思ってしまうから、困ってしまう。
アイボリー色のパフワンピースと白いロングレースのフレアスカートを少しだけ手に持って、わさわさと左右に動かしてクーラーの風を送り込む。
「ふぃー……暑い」
カゴを手に持つと、冷凍食品のコーナーへ行き、アイスをカゴへ色々な種類を入れ込んでいく。普段なら、誰が何を選ぶかを考える所ではあるけれど、今回はそうした時間も無い。なんせアイスは直ぐに溶けるから、時間との勝負だ。
「あっ、三色アイスは絶対入れる。あとは、モナカと小豆のアイスも外せない」
自分の好みの物とお子様達の好きな物はちゃんと入れておいてあげよう。
「麻乃ちゃん。このストロベリーレアチーズが欲しいなぁ」
透明の透けた手が指を差したカップアイスもカゴに入れて、合計で四十個程だろうか? 大量にアイスを買い占める私が居た。
レジの人にアイスボックスに直接アイスを入れてもらい、スマートフォンをスキャンしてもらい買い物官僚である。
おおかみ宿舎の会計をしてくれている七緒さんから、会計がしやすいようにスマートフォン自体を支給され、現金の受け渡しは最小限にする事にしたのだ。
妖の中でも近代化は進んでいる。
アイスボックスの持ち手を伸ばし、カートにするとゴロゴロとアイスボックスを引きながら歩い始める。
「めめさん。今から食べていると、宿舎に着くころには無くなっちゃいますよ?」
「だってぇ、暑いじゃない?」
「幽霊なのに?」
「気分よ。き・ぶ・ん」
うふふと笑って、幽霊のめめさんはアイスを食べて満足そうに体を弾ませている事から、スキップでもしているのだろう。足元は見えないけど。
お子様達はいつもならば喜んでコンビニには一緒に来るはずが、お子様達もこの時期は幽霊を追い回すのに、駆り出されている。
珍しく御守さんも駆り出されているらしく、今年の夏はそれだけさ迷っている幽霊が多いらしい。
年々過労死や自殺、事故が相次いでいるらしく、世の中が便利になった分、こうした事も増えているのだそうだ。
「あの、聞いて良いか分からないんですけど、めめさんって死因は何だったんですか?」
「あたし? お店のお客さんに良い人が居てね。休みの時とかデートしてたのよ! すっごく良い人! アタシの人生でここまで良い人は、きっと小学校の同級生の男の子くらいね!」
めめさんは赤い唇を嬉しそうに吊り上げて、恋バナに花を咲かせる乙女のように体をくねらせる。
とても良い人……その人を残して死んでしまったのだろうか?
少しそれを思うと、この先を聞いて良いのか迷ってしまうところだ。
「彼とね、山と海の間にある水族館へ行ったの。でも、アタシってこんなんでしょ? 水族館なんて似合うような女じゃないし、浮いている感じがして『アタシに似合う場所を選んで欲しい!』とか、怒っちゃって……彼は申し訳なさそうにしてたんだけど、アタシ素直になれなくて……帰る時もムスッとしてたら、彼が車を停めたの」
先程までの楽しそうな顔とは一変して、めめさんは眉尻を下げ、アイスのカップに視線を落としたまま溜め息を吐く。
「車を停めた場所は、海の展望台レストランで……前にアタシが一度だけ行きたいって言っていた場所なんだけど、アタシったら変に捻くれてて、嬉しかったのにムスッとしたまま食事をして、帰りに彼が車のダッシュボードにプレゼントがあるって言うから、ブツブツ文句を言いながら探しに行ったの。ダッシュボードを開けた時、大型車が車に突っ込んできてね。死んじゃった」
「え……それじゃあ、ダッシュボード中身は見ていないんですか?」
めめさんは頷いて「気になるよねー」とションボリとした声を出す。
聞いた状況からすると、それはプロポーズの指輪とかではないだろうか? とも思うのだけれど、確証はないし……
そこで私は閃いた。
「めめさん! その彼氏さんの所にダッシュボードの中身を探しに行ってみませんか?」
「ええ? でも、車は大破してると思うし、今更じゃない?」
「でも、彼氏さんに何だったのか聞けるんじゃないでしょうか? めめさんだって気になるでしょう?」
「そりゃぁ……気になるけどさ、でも、本当に今更って話でしょ」
「めめさん。彼氏さんの住まいは!?」
「その前に、アイス」
めめさんに言われて、小走りでアイスを宿舎の冷蔵庫に入れるべく私は走る。
勿論、夏に重たいカートを引いて走るのは、少々、かなり体力は削られたが、汗だくで宿舎に戻り、三色アイスでクールダウンを図りつつ、めめさんに彼氏さんの家などを聞き取り調査した。
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