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二章
宿泊客
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宿舎の庭に様々な車が一斉にズラリと並び、夏場の海水浴場は地獄のような駐車スペースがのようで、今現在、おおかみ宿舎の庭がその状態だ。
二階堂さんが車のスペースの指示をだし、暑い中で汗を流しつつも笑って来た人達に声を掛けている。
本日から、おおかみ宿舎はお盆が終わるまで、他の支部などから集まった人達が泊まりに来る。
「すみませーん。何か食べるものありますかー?」
食堂に顔を出した宿泊客に、泉田さんと私は料理を作っていた手を止める。
「簡単なもので良ければ作りますが、他にも食べたい方が要るようでしたら、まとめて作りたいので、聞いてきてもらえますか?」
私がそう言い、宿泊客は廊下に向かい「お腹減ってる人いるー?」と大きな声で呼びかける。すぐに「腹減ったー」と声が何ヵ所かで聞こえ、泉田さんと私は冷蔵庫から野菜と麺を取り出す。
「それなりに要るっぽいでーす」
「はーい。直ぐに作るので、それまでセルフサービスでお茶でも飲んでお待ち下さーい」
「はーい」
泉田さんが大きな中華鍋で野菜を炒め、私も大きな中華鍋に油を入れて生麺を解してから、熱くなり始めた所に麺を入れて押し付ける。
麺が少しだけ揚がり焦げ目が付いたらお皿に入れて、泉田さんが野菜をあんかけにして、麺の上へ載せるとジュワッと音が弾ける。
あんかけ焼きそばを幾つか作り、食堂に来た人達に出していく。
「付け合わせは、キュウリの浅漬け一本丸かじりになります」
「ああ、そういえば。この地区は今年の願いは『キュウリ』なんだっけ?」
「そうなんですよ。キュウリだけはいっぱいあるので、おかわり自由ですからね」
春のお花見の願いは、河童の安寿によりキュウリの豊穣祈願となり、今まさにキュウリの収穫は最盛期を迎えている。
おかげで、毎日三食、キュウリは漬物にサラダにメイン食材にと、何処にでも入っている。
「いただきまーす」
「ゆっくりして行ってくださいね」
お客さん達が食べ始めたのを確認して、追加を作るかどうするかで泉田さんと一緒に厨房で相談をしていたところ、宿舎の住民も「お腹すいたー」と入ってきたので、追加は確実に要るようだ。
冷蔵庫を開けた時、スカートを安寿が引っ張り、両手を上に上げている。
おねだりポーズらしく、短いお尻の突起がフリフリと動き、何となく犬のようにも見えてしまうから不思議だ。
「キュウリ―!」
「はい。いっぱい持って行っていいよ」
「マノ、優しいー!」
安寿にキュウリを持ち切れるだけ持たせると、満足そうに厨房から出ていくが、キュウリは安寿が豊穣を願ったものだから、安寿の物と言っても過言では無いだろう。
食堂のテーブルの上によじ登り、安寿は塩、砂糖、マヨネーズと、色々トッピングしてキュウリを楽しんでいる。
私から言わせてもらえれば、キュウリを飽きることなく食べ続ける安寿はブレない。見習いたいところだ。
おおかみ宿舎の住民は、毎日のキュウリ攻めに少し開き始めているから、今日はどうするかが問題だ。
「お嬢ちゃん。うちの奴等にゃ普通の焼きそばでいいだろう」
「そうですね。でも、麺を大量に買いこんでおいて良かったですねー」
「毎年こんなもんだからな。慣れだよ慣れ」
これが毎年とは、泉田さんも大変だっただろう。
休む暇なく手を動かしているのだから、腱鞘炎にでもなってしまいそうだ。
一番の敵は、業務用の大きな中華鍋や煮込み用の鍋を使っているから、力仕事という事だろう。
私が将来、腰の曲がった老人になったとしたら、確実にこの職場のせいだろ言える。
「まののん。今日の夜は、こいつ等の歓迎会するだろ?」
二階堂さんが指で自分の後ろに居る宿泊客を差し、私は頷く。
宴会を予定しなくても、二階堂さんを中心に宿舎の住民は騒ぐだろうし、だったら最初から歓迎会用に料理を用意しておいた方がいい。
「それにしても、かなりの人数が来ていますけど、他の地域の人達は大丈夫なんですか? 人手不足になりませんか?」
ザッと見で、三十人近くは居るし、この宿舎にそんなに人が入るだろうかという疑問もある。
二階堂さんはヘラッと笑って、「だいじょーぶ」と手を振る。
「ここにきた奴等は、地方のあんまり知られてない妖ばかりだから、居てもいなくても大差ない奴等だからな」
「それって、手伝いに来たって言えるんですか?」
「こっちに働きに来て亡くなった人間が、死んだ事に気付かずに居るのを、こいつ等は、自分達の土地へ案内するのが役目だ。この季節は、幽霊の動かしやすいからな」
「夏場は幽霊って、動きやすいんですか?」
「ああ。夏場に幽霊話や怪談が流行るのも、動きやすい時期なのを、人間が目撃しちまうからだよ」
「へぇー。それは知らなかった」
夏の怪談特集は、涼を楽しむためにやっているだけだと思っていたけれど、理由はちゃんとあったようだ。
二階堂さんが車のスペースの指示をだし、暑い中で汗を流しつつも笑って来た人達に声を掛けている。
本日から、おおかみ宿舎はお盆が終わるまで、他の支部などから集まった人達が泊まりに来る。
「すみませーん。何か食べるものありますかー?」
食堂に顔を出した宿泊客に、泉田さんと私は料理を作っていた手を止める。
「簡単なもので良ければ作りますが、他にも食べたい方が要るようでしたら、まとめて作りたいので、聞いてきてもらえますか?」
私がそう言い、宿泊客は廊下に向かい「お腹減ってる人いるー?」と大きな声で呼びかける。すぐに「腹減ったー」と声が何ヵ所かで聞こえ、泉田さんと私は冷蔵庫から野菜と麺を取り出す。
「それなりに要るっぽいでーす」
「はーい。直ぐに作るので、それまでセルフサービスでお茶でも飲んでお待ち下さーい」
「はーい」
泉田さんが大きな中華鍋で野菜を炒め、私も大きな中華鍋に油を入れて生麺を解してから、熱くなり始めた所に麺を入れて押し付ける。
麺が少しだけ揚がり焦げ目が付いたらお皿に入れて、泉田さんが野菜をあんかけにして、麺の上へ載せるとジュワッと音が弾ける。
あんかけ焼きそばを幾つか作り、食堂に来た人達に出していく。
「付け合わせは、キュウリの浅漬け一本丸かじりになります」
「ああ、そういえば。この地区は今年の願いは『キュウリ』なんだっけ?」
「そうなんですよ。キュウリだけはいっぱいあるので、おかわり自由ですからね」
春のお花見の願いは、河童の安寿によりキュウリの豊穣祈願となり、今まさにキュウリの収穫は最盛期を迎えている。
おかげで、毎日三食、キュウリは漬物にサラダにメイン食材にと、何処にでも入っている。
「いただきまーす」
「ゆっくりして行ってくださいね」
お客さん達が食べ始めたのを確認して、追加を作るかどうするかで泉田さんと一緒に厨房で相談をしていたところ、宿舎の住民も「お腹すいたー」と入ってきたので、追加は確実に要るようだ。
冷蔵庫を開けた時、スカートを安寿が引っ張り、両手を上に上げている。
おねだりポーズらしく、短いお尻の突起がフリフリと動き、何となく犬のようにも見えてしまうから不思議だ。
「キュウリ―!」
「はい。いっぱい持って行っていいよ」
「マノ、優しいー!」
安寿にキュウリを持ち切れるだけ持たせると、満足そうに厨房から出ていくが、キュウリは安寿が豊穣を願ったものだから、安寿の物と言っても過言では無いだろう。
食堂のテーブルの上によじ登り、安寿は塩、砂糖、マヨネーズと、色々トッピングしてキュウリを楽しんでいる。
私から言わせてもらえれば、キュウリを飽きることなく食べ続ける安寿はブレない。見習いたいところだ。
おおかみ宿舎の住民は、毎日のキュウリ攻めに少し開き始めているから、今日はどうするかが問題だ。
「お嬢ちゃん。うちの奴等にゃ普通の焼きそばでいいだろう」
「そうですね。でも、麺を大量に買いこんでおいて良かったですねー」
「毎年こんなもんだからな。慣れだよ慣れ」
これが毎年とは、泉田さんも大変だっただろう。
休む暇なく手を動かしているのだから、腱鞘炎にでもなってしまいそうだ。
一番の敵は、業務用の大きな中華鍋や煮込み用の鍋を使っているから、力仕事という事だろう。
私が将来、腰の曲がった老人になったとしたら、確実にこの職場のせいだろ言える。
「まののん。今日の夜は、こいつ等の歓迎会するだろ?」
二階堂さんが指で自分の後ろに居る宿泊客を差し、私は頷く。
宴会を予定しなくても、二階堂さんを中心に宿舎の住民は騒ぐだろうし、だったら最初から歓迎会用に料理を用意しておいた方がいい。
「それにしても、かなりの人数が来ていますけど、他の地域の人達は大丈夫なんですか? 人手不足になりませんか?」
ザッと見で、三十人近くは居るし、この宿舎にそんなに人が入るだろうかという疑問もある。
二階堂さんはヘラッと笑って、「だいじょーぶ」と手を振る。
「ここにきた奴等は、地方のあんまり知られてない妖ばかりだから、居てもいなくても大差ない奴等だからな」
「それって、手伝いに来たって言えるんですか?」
「こっちに働きに来て亡くなった人間が、死んだ事に気付かずに居るのを、こいつ等は、自分達の土地へ案内するのが役目だ。この季節は、幽霊の動かしやすいからな」
「夏場は幽霊って、動きやすいんですか?」
「ああ。夏場に幽霊話や怪談が流行るのも、動きやすい時期なのを、人間が目撃しちまうからだよ」
「へぇー。それは知らなかった」
夏の怪談特集は、涼を楽しむためにやっているだけだと思っていたけれど、理由はちゃんとあったようだ。
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