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二章
毛玉とうどん
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春は何かと忙しく、夏への準備が足を忍ばせて迫る中、おおかみ宿舎の廊下には毛玉がいっぱい散っている。
それを付喪神のタワシちゃん達が一生懸命、集めては自分達に絡みついた毛を取って丸めて投げてを繰り返す。
春の終わりは夏毛へと変わる季節なのは動物系の妖も同じようで、少し動くだけでふわふわハラリと毛が落ちていっている。
「皆、どきなさーい!」
濡れたモップを片手に、私は本日、食堂の責任者ではなく、掃除担当として働いている。
三角巾を頭に付け、エプロンは食堂で使っている物ではなく、使い捨ての百均で買ったビニールエプロンだ。
「わっ! 麻乃!」
「ぬきゅ!」
「うわぁぁ!」
「キュウゥゥ」
廊下をモップをかけて走り回ると、アシカにしか見えない妖の紫陽花や子狐の姿になったモフモフ姿の紫音くんと紫雨ちゃんに河童の安寿が、廊下を転がっていく。
付喪神のタワシ達はサッと避けて、階段で並んで休憩をし始めている。
「邪魔だよー! 皆、縁側でお互いにブラッシングでもしていなさい!」
「マノが掃除魔になってるー」
「マノ~、そんなことしても抜け毛は無くならないし」
「いいえ! ちゃんと櫛で梳かしておけば、軽減します! つべこべ言わずに、行きなさい!」
指で縁側を差すと、脛擦りのチャモが御守さんの膝の上でブラッシングをしてもらっていて、チャモもう一匹分くらいの毛玉の山が出来ていた。
「ほら、お前達もこっちに来い」
御守さんが呼ぶと、大人しくお子様達は縁側の方へ歩いていく。
アシカのような海禿の紫陽花の毛が抜け替わるのは、八月の中旬から一ヶ月近くを費やして抜けるそうで、この時期はまだシーズンではない……が、地味に抜けているので一緒に縁側へいっておいてもらう。
安寿は河童なので、関係はないけれど、お邪魔虫なので縁側に行っておいてもらった方が効率がいい。
「さあ、やっちゃいますか!」
モップで毛を絡めとり、廊下を綺麗に磨き上げていく。
細かいところは、休憩を終えた付喪神達がやってくれるので、私は大雑把に拭き掃除をするだけだ。
どうしてこんな事をしているかというと、最近、料理にやたらと毛が入っている事が多い為に、これは衛生上よろしくない。と、いう事からだ。
タワシちゃん達も頑張ってくれてはいるけれど、ドタバタ走り回る宿舎の住民が多い為に、なかなか作業ははかどらないのだ。
タワシちゃん達にストライキでも起こされたら、それこそ大問題である。
誰が掃除をするの? それは、昼間暇をしているお子様達に白羽の矢が立つだろうけれど、ここぞとばかりに逃げ出しそうな予感しかしない。
未然に防げるものは防ぎたい。
「タワシちゃん達、今日はいっぱいうどんを作るからね! 天ぷらがいっぱいだから楽しみにしていてね!」
タワシちゃん達は手を叩いて、ピョンピョン跳ねている姿がシュールではあるけれど、喜んでくれているのならば、こちらとしても僥倖である。
ワシワシとモップ掛けをして、階段を上から下まで掛け終わると、お昼時間を回っていた。
「と、いけない。そろそろご飯にしなきゃね」
縁側を見れば、大きな灰色に黒毛の混じった狼と、山吹色の子狐二匹にアシカ、そして河童というちぐはぐな動物達が寝そべっていた。
ああしてみると、妖なのか動物なのか曖昧な感じだ。
安寿は河童以外の何物でもないけれど。
「タワシちゃん達、休憩しましょう。お昼の準備をするから、自分達の体を洗っておいで」
ワシャワシャと音を立ててタワシの行列がお風呂場の方へ消えて行った。
私はこの間に、うどんを茹でて、水でキュッと締める。
冷水を出しつつ、ザルの上に指で8の字を作るようにうどん束を作っていく。
天ぷらは、春といえば、桜エビにフキノトウ。
この二つを中心に作り、半熟卵に衣をつけてサッと揚げたり、衣に青さを混ぜて磯竹輪天ぷらに。
天ぷらも色々種類が豊富で面白い食材である。
タケノコの天ぷらは細い出たばかりの物を使い、カボチャは居間の時期に出回る物は京の物が多い為に、少しお高めだが、味は良い物だ。冬に買ったサツマイモを春時期に食べると、甘味が増して美味しかったりもするので、今年の冬は、宿舎の畑でサツマイモを作って春に食べたいと、計画も立てているのよね。
美味しいものは皆に味わってほしい。
「麻乃。今日のお昼はー……うどんに天ぷらかぁ」
「椿木さん、山菜とはいきませんけど、タケノコの天ぷらもありますよ」
「いいねぇ。あいつ等、起こしておく?」
「あっ、お願いします」
縁側で寝ている集団を椿木さんが伸し掛かり攻撃で起こし、広間にうどんを持って行き、タワシちゃん達が体を洗い終わって戻って来てから、天ぷらを出して食べ始めた。
「夏も、もうすぐですねー」
「夏が終われば、妖の時期だから、人の出入りが多くなる。麻乃には後でそこら辺も教えないとな」
妖に時期なんてー……ああ、夏休み恒例の、肝試しとかがあるからかな? と、私は思った。
「お盆の時期もあるし……今年は酷い目に遭わなきゃ良いけど……はぁー……」
「椿木さん、何かあるんですか?」
「盆の時期は、あの世とこの世の境目が、うっすくなるんだよね。幽霊も一応、妖の管轄に入るから、人間に悪さしないように、僕等は大忙しなんだよ」
うーん。幽霊なんて気にした事は無かったけれど、今年からは私も関わり合いがあるのだろうか。
不安だ……
それを付喪神のタワシちゃん達が一生懸命、集めては自分達に絡みついた毛を取って丸めて投げてを繰り返す。
春の終わりは夏毛へと変わる季節なのは動物系の妖も同じようで、少し動くだけでふわふわハラリと毛が落ちていっている。
「皆、どきなさーい!」
濡れたモップを片手に、私は本日、食堂の責任者ではなく、掃除担当として働いている。
三角巾を頭に付け、エプロンは食堂で使っている物ではなく、使い捨ての百均で買ったビニールエプロンだ。
「わっ! 麻乃!」
「ぬきゅ!」
「うわぁぁ!」
「キュウゥゥ」
廊下をモップをかけて走り回ると、アシカにしか見えない妖の紫陽花や子狐の姿になったモフモフ姿の紫音くんと紫雨ちゃんに河童の安寿が、廊下を転がっていく。
付喪神のタワシ達はサッと避けて、階段で並んで休憩をし始めている。
「邪魔だよー! 皆、縁側でお互いにブラッシングでもしていなさい!」
「マノが掃除魔になってるー」
「マノ~、そんなことしても抜け毛は無くならないし」
「いいえ! ちゃんと櫛で梳かしておけば、軽減します! つべこべ言わずに、行きなさい!」
指で縁側を差すと、脛擦りのチャモが御守さんの膝の上でブラッシングをしてもらっていて、チャモもう一匹分くらいの毛玉の山が出来ていた。
「ほら、お前達もこっちに来い」
御守さんが呼ぶと、大人しくお子様達は縁側の方へ歩いていく。
アシカのような海禿の紫陽花の毛が抜け替わるのは、八月の中旬から一ヶ月近くを費やして抜けるそうで、この時期はまだシーズンではない……が、地味に抜けているので一緒に縁側へいっておいてもらう。
安寿は河童なので、関係はないけれど、お邪魔虫なので縁側に行っておいてもらった方が効率がいい。
「さあ、やっちゃいますか!」
モップで毛を絡めとり、廊下を綺麗に磨き上げていく。
細かいところは、休憩を終えた付喪神達がやってくれるので、私は大雑把に拭き掃除をするだけだ。
どうしてこんな事をしているかというと、最近、料理にやたらと毛が入っている事が多い為に、これは衛生上よろしくない。と、いう事からだ。
タワシちゃん達も頑張ってくれてはいるけれど、ドタバタ走り回る宿舎の住民が多い為に、なかなか作業ははかどらないのだ。
タワシちゃん達にストライキでも起こされたら、それこそ大問題である。
誰が掃除をするの? それは、昼間暇をしているお子様達に白羽の矢が立つだろうけれど、ここぞとばかりに逃げ出しそうな予感しかしない。
未然に防げるものは防ぎたい。
「タワシちゃん達、今日はいっぱいうどんを作るからね! 天ぷらがいっぱいだから楽しみにしていてね!」
タワシちゃん達は手を叩いて、ピョンピョン跳ねている姿がシュールではあるけれど、喜んでくれているのならば、こちらとしても僥倖である。
ワシワシとモップ掛けをして、階段を上から下まで掛け終わると、お昼時間を回っていた。
「と、いけない。そろそろご飯にしなきゃね」
縁側を見れば、大きな灰色に黒毛の混じった狼と、山吹色の子狐二匹にアシカ、そして河童というちぐはぐな動物達が寝そべっていた。
ああしてみると、妖なのか動物なのか曖昧な感じだ。
安寿は河童以外の何物でもないけれど。
「タワシちゃん達、休憩しましょう。お昼の準備をするから、自分達の体を洗っておいで」
ワシャワシャと音を立ててタワシの行列がお風呂場の方へ消えて行った。
私はこの間に、うどんを茹でて、水でキュッと締める。
冷水を出しつつ、ザルの上に指で8の字を作るようにうどん束を作っていく。
天ぷらは、春といえば、桜エビにフキノトウ。
この二つを中心に作り、半熟卵に衣をつけてサッと揚げたり、衣に青さを混ぜて磯竹輪天ぷらに。
天ぷらも色々種類が豊富で面白い食材である。
タケノコの天ぷらは細い出たばかりの物を使い、カボチャは居間の時期に出回る物は京の物が多い為に、少しお高めだが、味は良い物だ。冬に買ったサツマイモを春時期に食べると、甘味が増して美味しかったりもするので、今年の冬は、宿舎の畑でサツマイモを作って春に食べたいと、計画も立てているのよね。
美味しいものは皆に味わってほしい。
「麻乃。今日のお昼はー……うどんに天ぷらかぁ」
「椿木さん、山菜とはいきませんけど、タケノコの天ぷらもありますよ」
「いいねぇ。あいつ等、起こしておく?」
「あっ、お願いします」
縁側で寝ている集団を椿木さんが伸し掛かり攻撃で起こし、広間にうどんを持って行き、タワシちゃん達が体を洗い終わって戻って来てから、天ぷらを出して食べ始めた。
「夏も、もうすぐですねー」
「夏が終われば、妖の時期だから、人の出入りが多くなる。麻乃には後でそこら辺も教えないとな」
妖に時期なんてー……ああ、夏休み恒例の、肝試しとかがあるからかな? と、私は思った。
「お盆の時期もあるし……今年は酷い目に遭わなきゃ良いけど……はぁー……」
「椿木さん、何かあるんですか?」
「盆の時期は、あの世とこの世の境目が、うっすくなるんだよね。幽霊も一応、妖の管轄に入るから、人間に悪さしないように、僕等は大忙しなんだよ」
うーん。幽霊なんて気にした事は無かったけれど、今年からは私も関わり合いがあるのだろうか。
不安だ……
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