おおかみ宿舎の食堂でいただきます

ろいず

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二章 

お花見②

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 エレベーターに乗り込むと最上階の屋上のボタンを押して、少しの浮遊感と共にエレベーターは上がっていく。
 
「パワーバランスと言っても、自国の妖を管理しなくてはいけない規則があるからな。オレはあの方に眷属してもらったおかげで、自国ではなく、こちらのアジア方面の妖になっている」
「日本ではなく、アジアで括られるんですか?」
「妖の数は、人と同じぐらいいるからな。人の心が生むものだと言っただろう? 多すぎて、幾つかの国に分けて管理している感じだな」

 なるほどと、頷きつつ、足元をチョロチョロする安寿をお子様達三人は追い回していて、御守さんと一緒にお子様達を捕まえて大人しくさせる。
 頭にたんこぶを作っても、この子達に反省の色は無いようだ。

「妖にも階級がある。四聖獣はアジアでは浸透している昔からの妖達だから、力も強い。その分、彼等は海外へは簡単に出る事を許されない。もし海外へ来るとしたら、現地の妖では能力不足という事で、他国の妖を頼る時に呼ばれる」

 白虎だった父は、海外で御守さんに会ったはずだ。
 だとしたら、それ程に御守さんは能力の長けた妖だったはず、吸血鬼と呼ばれる祖のようなものだから。

「私のお父さんが、御守さんに会った時がそうだったんですか?」
「ああ。当時もそれなりに、吸血鬼と呼ばれていたから知名度があったからな。今では有名になり過ぎて、吸血鬼のままだったらどうなっていた事か」
「パワーバランスが崩れちゃいますね?」
「そう。それで、あの方に眷属にしてもらい、吸血鬼の能力から土地守りの能力にしてもらって、ここで自由にさせて貰っている」

 チンッとエレベーターが最上階へ着き、扉が開く。
 まるで空中庭園のようなドーム状のガラスに覆われた、緑の庭園の中で桜の大きな木が満開に咲いていた。
 
「桜……大きい、綺麗、綺麗ですね!」

 私が感嘆の声を上げると、お子様達は一斉に走り出して桜の方へと向かっていた。
 桜の下にはいつもの宿舎のメンツと、他にもスーツ姿の男女が集まっている。
 
「麻乃。オレ達も行こうか」
「はい」

 御守さんに手を取られて歩き出すと、足元で「キュウリィー」と、恨みがましそうな声で安寿が跳ねて、私の足にしがみ付いて登ってきた。

「キュウリくれー」
「あと少しで桜の下だから、それまで我慢だよ? キュウリ入りの竹輪ちくわも用意しているからね」
「キュウリ―!」
「安寿はいい加減大人しくしないと、頭の皿の水をひっくり返してしまうぞ?」
「キュッ! カッパ殺し―!!」
「ククッ、河童は弱点が明確で可愛らしいな」
「キュゥゥー」

 御守さんは意地悪そうに笑って、安寿のぷにぷにの頭のお皿を指で押す。
 薄いビニールのような膜が頭のお皿に貼ってあり、御守さんに突かれる度に「ぷ」「ぴ」「ぱ」と、変な声を出している。
 私の河童のイメージは、緑色でやせ細っている子供のようなイメージだったのだけど、近年ゆるキャラだなんだで河童は可愛く進化をとげたのだとかなんだとか……どう見ても、知能が失われてはいないだろうか? と、少々心配にもなってしまう。

「あっ、麻乃、御守。こっちこっち。麻乃、山菜で作った料理はあるの?」

 私達に気付いた椿木さんが手を振り、こちらも安寿と同じく自分の欲しい物に素直だ。

「ありますよー。山菜おこわのオニギリ」
「やったー! やっぱり山菜だよね!」

 桜の木の下で大きな水色のビニールシートの上には豪華な仕出し弁当や、お酒が一升瓶で幾つもあり、ビールやチューハイの缶も山になっている。
 御守さんがお重箱の入った風呂敷を下ろし、椿木さんがいそいそと風呂敷を解いてお重箱の蓋を開けて広げていく。
 ついでにいえば、安寿もカッパ巻きをいち早く見付け、両手いっぱいにカッパ巻きを持って口に詰め込んでいる。
 うん。食欲という名の欲望に忠実である。ブレない。

「麻乃。酒とジュースどっちがいい?」
「えっと……じゃあ、花見酒でチューハイで。度数は低めが良いです」

 三パーセントのチューハイを貰い、御守さんの横に座ると、二階堂さんが横に座りいつもの食堂内の座り順という感じになった。

「まののん。待ってたんだぜ? 今日は朝から宴会だからな。久々に社長の奢りで飲めるし食える! 最高の日だ!」
「社長さんの奢りなんですか?」
「そう! 会社も今日は何事も無い日だからな」
「そういう日ってあるんですか?」
「天恩日、全ての人が天の恩恵を受ける事で、福が訪れる日ってやつだ。この日ばかりは妖は、下手に事を構えない方がいい日でもあるから、皆静かに過ごすんだよ。普通に一ヶ月に五日くらいはそういう日があるが、三月のこの日は特別なんだよ」

 ううん? どういう事だろう? 
 全ての人に福が訪れるなら、今日という日に色々した方がいいのではないだろうか?
 しかも三月の今日は特別? 首をかしげていると、皆が「お出ましだ!」と、一斉に桜の方へ顔を向ける。
 桜から神々しい光が溢れ、中から金色の光り輝く髪に、十二単じゅうにひとえまとった女性が現れたのだった。
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