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一章
青龍
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朝、目を覚まして一番に自分の指を見て、指輪がはまっている事で、昨日の事は夢では無かった事に多少の混乱をしつつ、顔を洗う為に鏡を見たら、自分の姿が変わっていた事に、可愛らしいとは言い難い悲鳴を上げた。
「なっ、なーっ!!!!」
何だこれ? 何だこれぇぇぇ!?
大口を開けてポカンとした私の姿は、記憶を断片的に思い出した私の記憶にある物だった。
あの幼い少女がそのまま大きくなった姿で、ストレートの髪もゆるくふわふわしたウェーブのある髪になっていた。
大きくてパッチリとした目は、美少女過ぎやしないだろうか?
「どうした? 何かあったのか麻乃」
「み、みみ、御守さん、私の姿が……別人なのですけど? いや、別人と言うか、昔に戻っていたというべきか」
隣りの部屋という事もあり、御守さんがやってくるのは早かった。
説明をする私に、フッと笑って私の髪をわしゃわしゃと撫でくり回した。
「麻乃。大丈夫そうだな」
「あ、はい……昨日はお世話をお掛けしたようで……」
私はぐしゃぐしゃにされた髪を手櫛で直して、自分の髪質と今の髪質の違いに、変わりがない事に驚く。毎日触っていた髪質と変わらない……変わったのは見た目だけのようだ。
「姿は元に戻ったのは、昨日、水を通じて青龍に攻撃されたせいで、麻乃に掛けられた守りが解けてしまったのだろう」
「青龍って、この間話してくれた海系の妖の王様みたいなものでしたっけ?」
「そうだ。水気のある物の所へ現れる事も、あいつの得意なところだからな。足を掴まれただろう?」
そう言われて、足首を見れば手の痕が赤くハッキリ付いている。
「足を掴まれた時に、あの方の守りは壊されたようだ」
「あ……守りが無くなったという事は、私は、何者か分かるって言ってましたよね? 私は何なんですか?」
「麻乃は、麻乃のままだが……そうだな。もう麻乃は泡になる事は、無い……と、思っている」
御守さんが私の左手を取って、指輪を指でなぞった。
気恥ずかしさに口を噤むと、御守さんは私の指輪にそのまま唇を落としたのだから、私が硬直して動けなくなったのは仕方がない事だろう。
流石、外国人……ううっ、恥ずかしさでまた悲鳴を上げそうだ。
「麻乃。昨日の青龍は、麻乃の母親側の親戚になる」
「ママ……じゃない、お母さんは、人魚だと言っていた気がします」
「人魚というカテゴリーに、彼女を入れて良いのか不明なところだが、海の妖同士が交わって生まれたのが、麻乃の母親だ。人魚も多少は混じっている為に、『恋はするな』というのが人魚交じりの娘には昔から言われている」
「失恋すると、泡になって消えてしまうから?」
御守さんは頷き、私も人魚交じりの母から生まれたのならば、人魚の『恋はするな』という事が当てはまるのだろう。
人魚の妖は、とても生き辛い世界では無いだろうか? と、少々自分を含めて思ってしまう。
「麻乃は、どういう訳か人魚の能力が子供の頃から強く出ていて、辛い事がある度に泡が体から出ていたから、こっちはヒヤヒヤさせられたものだ」
「えーと、それは申し訳ありません?」
「妖同士の子供は滅多に生まれない上に、能力がどう出るかが分からない。麻乃の母親は、水系の妖ではあるが、春を司る青龍の能力が色濃く出た女性だった。彼女の周りはいつも春めいていたな」
青龍が春を司る妖だというのは、初耳だけれど、春の能力とはどういうものだったのだろう?
私が不思議そうな顔をしていたせいか、御守さんは「春の能力は、草木を芽吹かせる程度の可愛らしいものだ」と、教えてくれた。
それは、役に立つ能力なのだろうか? と、疑問でもある。
「逆に麻乃の父親は、オレを眷属にした白虎でな。秋の能力を持っていた。二人はまさに相反する能力で、青龍と白虎は仲が悪いことからも、二人が結ばれる事は無いと思っていた」
「ロミオとジュリエット……」
私の言葉に御守さんはおかしそうにクククッと笑って、「あの方も彼女も、そんな可愛らしいものでは無いな」と目に涙を溜めるほどだった。
私の両親はどんな人達だったのか、益々疑問に満ちてきそうだ。
御守さんは指で涙を拭って、私を見下ろす。
「麻乃は、血脈からいけば、白虎の能力が強く出ると思われていたが、人魚の能力が出たからな……」
「他の能力は出ない感じなのかな?」
「それは、麻乃の能力次第だ。今の所は、感情の沈み方で泡になるくらいだな」
「役に立たない……」
「まぁ、妖同士の子供は、仕方がない」
「仕方がない?」
「言っただろう? 妖は、人の想いや恐怖、見間違い等で、妖としての個を確立させられて誕生する。麻乃は今まで、人間達の中で生きにくく無かったか?」
生きにくい……透明人間のようになってしまうのは、私が妖としての個が無かったからだろうか?
守りがあったせいでもあるけれど、姿形が変わった今の私なら、一目見れば忘れないような容姿をしていると思う。
自分自身を自画自賛するつもりはないけれど、まだ自分の姿に見慣れていないから言える。
私の元の姿が可愛い……と、言えるだろう。
「なっ、なーっ!!!!」
何だこれ? 何だこれぇぇぇ!?
大口を開けてポカンとした私の姿は、記憶を断片的に思い出した私の記憶にある物だった。
あの幼い少女がそのまま大きくなった姿で、ストレートの髪もゆるくふわふわしたウェーブのある髪になっていた。
大きくてパッチリとした目は、美少女過ぎやしないだろうか?
「どうした? 何かあったのか麻乃」
「み、みみ、御守さん、私の姿が……別人なのですけど? いや、別人と言うか、昔に戻っていたというべきか」
隣りの部屋という事もあり、御守さんがやってくるのは早かった。
説明をする私に、フッと笑って私の髪をわしゃわしゃと撫でくり回した。
「麻乃。大丈夫そうだな」
「あ、はい……昨日はお世話をお掛けしたようで……」
私はぐしゃぐしゃにされた髪を手櫛で直して、自分の髪質と今の髪質の違いに、変わりがない事に驚く。毎日触っていた髪質と変わらない……変わったのは見た目だけのようだ。
「姿は元に戻ったのは、昨日、水を通じて青龍に攻撃されたせいで、麻乃に掛けられた守りが解けてしまったのだろう」
「青龍って、この間話してくれた海系の妖の王様みたいなものでしたっけ?」
「そうだ。水気のある物の所へ現れる事も、あいつの得意なところだからな。足を掴まれただろう?」
そう言われて、足首を見れば手の痕が赤くハッキリ付いている。
「足を掴まれた時に、あの方の守りは壊されたようだ」
「あ……守りが無くなったという事は、私は、何者か分かるって言ってましたよね? 私は何なんですか?」
「麻乃は、麻乃のままだが……そうだな。もう麻乃は泡になる事は、無い……と、思っている」
御守さんが私の左手を取って、指輪を指でなぞった。
気恥ずかしさに口を噤むと、御守さんは私の指輪にそのまま唇を落としたのだから、私が硬直して動けなくなったのは仕方がない事だろう。
流石、外国人……ううっ、恥ずかしさでまた悲鳴を上げそうだ。
「麻乃。昨日の青龍は、麻乃の母親側の親戚になる」
「ママ……じゃない、お母さんは、人魚だと言っていた気がします」
「人魚というカテゴリーに、彼女を入れて良いのか不明なところだが、海の妖同士が交わって生まれたのが、麻乃の母親だ。人魚も多少は混じっている為に、『恋はするな』というのが人魚交じりの娘には昔から言われている」
「失恋すると、泡になって消えてしまうから?」
御守さんは頷き、私も人魚交じりの母から生まれたのならば、人魚の『恋はするな』という事が当てはまるのだろう。
人魚の妖は、とても生き辛い世界では無いだろうか? と、少々自分を含めて思ってしまう。
「麻乃は、どういう訳か人魚の能力が子供の頃から強く出ていて、辛い事がある度に泡が体から出ていたから、こっちはヒヤヒヤさせられたものだ」
「えーと、それは申し訳ありません?」
「妖同士の子供は滅多に生まれない上に、能力がどう出るかが分からない。麻乃の母親は、水系の妖ではあるが、春を司る青龍の能力が色濃く出た女性だった。彼女の周りはいつも春めいていたな」
青龍が春を司る妖だというのは、初耳だけれど、春の能力とはどういうものだったのだろう?
私が不思議そうな顔をしていたせいか、御守さんは「春の能力は、草木を芽吹かせる程度の可愛らしいものだ」と、教えてくれた。
それは、役に立つ能力なのだろうか? と、疑問でもある。
「逆に麻乃の父親は、オレを眷属にした白虎でな。秋の能力を持っていた。二人はまさに相反する能力で、青龍と白虎は仲が悪いことからも、二人が結ばれる事は無いと思っていた」
「ロミオとジュリエット……」
私の言葉に御守さんはおかしそうにクククッと笑って、「あの方も彼女も、そんな可愛らしいものでは無いな」と目に涙を溜めるほどだった。
私の両親はどんな人達だったのか、益々疑問に満ちてきそうだ。
御守さんは指で涙を拭って、私を見下ろす。
「麻乃は、血脈からいけば、白虎の能力が強く出ると思われていたが、人魚の能力が出たからな……」
「他の能力は出ない感じなのかな?」
「それは、麻乃の能力次第だ。今の所は、感情の沈み方で泡になるくらいだな」
「役に立たない……」
「まぁ、妖同士の子供は、仕方がない」
「仕方がない?」
「言っただろう? 妖は、人の想いや恐怖、見間違い等で、妖としての個を確立させられて誕生する。麻乃は今まで、人間達の中で生きにくく無かったか?」
生きにくい……透明人間のようになってしまうのは、私が妖としての個が無かったからだろうか?
守りがあったせいでもあるけれど、姿形が変わった今の私なら、一目見れば忘れないような容姿をしていると思う。
自分自身を自画自賛するつもりはないけれど、まだ自分の姿に見慣れていないから言える。
私の元の姿が可愛い……と、言えるだろう。
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