17 / 45
一章
暗い部屋
しおりを挟む
二階堂さんに押し込まれて閉ざされた闇の中、持たされた懐中電灯の明かりを頼りに一歩ずつ階段になっている道を歩く。
壁に手を当て、もう片方には懐中電灯。
耳に痛いほどの静寂が、宿舎の外はどうなっているのか? と、私の気持ちをグラつかせる。
ここで立ち止まって、引き返したほうがいいのではないだろうか?
もしかしたら、もうすべてが終わっているかもしれない。そういった期待もある。
けれど、それならば二階堂さんがすぐに追ってくるだろ。
「どのくらい経ったんだろう?」
体感としては、五分は経ったと思うが実際はもっと短いかもしれないし、長くここにいるのかもしれない。
暗闇の怖さに、足を一歩進ませるのも時間がかかってしまう。
「私の、身内……か」
二階堂さんの言葉が頭を反芻する。
あの襲撃してきた少年が、私の身内……記憶のない私にとって、少年は手掛かりになるかもしれない。
しかし、皆の様子を見るに、歓迎はされてはいないようだ。
ジリッと自分のゆっくりと踏みしめる足音が響き、懐中電灯で照らした地面には、もう階段は無くなっていた。
懐中電灯で少し先を照らし、様子を伺うと、地面に白い線が引いてあった。
よく見れば、線ではなく文字が隙間なく書かれていた。
「何が書いてあるんだろう?」
文字……ではあるのだろうけれど、仏教系の曼陀羅文字というものだろうか? 漢字のようなそうではないような不思議な文字だった。
踏まないように文字を跨いで線の内側に入ると、辺りが白く穏やかな光で満たされた。
「うわぁ……」
真珠の光のような白い光で満たされた部屋は、小さな苗木が中央にあり、それを曼荼羅文字は囲っているようだった。
苗木は一メートルも無い小さな苗木で、この床の地面から生えていた。
元々は、大きな木があったのか、枯れてしまった木が苗木の横にあった。それは、とても懐かしい木だった。
手で枯れた木を触ると、目の奥が痛くなりじわりと涙が零れていく。
涙が床に落ちた時、カツン、パラパラ……と、小粒の真珠と小さな真珠がコロコロと床に散らばっていく。
「真珠……?」
涙を拭えば、自分の手に付いた物は真珠色の液体だった。
乾くと真珠の粉のようで、慌てて自分の目元を触るが、ゴロゴロと目の中を動く物もない。
苗木と枯れ木にばかり目を向けていて、気付かなかったけれど、この部屋の中は……何かを布で覆い隠している。
覆い隠すと言うより、ホコリが被らないようにシーツを上から掛けていると言うべきか?
「付喪神は、ここまでは来ていないんだね……」
シーツの上に積もったホコリを見て、調理場の食器棚の裏に隠されている場所なのだから、付喪神たちが来ないのも当たり前かと、小さく首を横にする。
シーツに手を掛けて外すと、そこには箪笥が置いてあった。
普通の木で作られた茶色い箪笥。しかし、それは使い込まれているのか古い物に感じる。
箪笥の下の方には、テレビでよく見る子供向けのアニメのシールがベタベタと貼ってある。
「子供……かな?」
こうした低い位置にシールを貼るのは子供特有の物だろう。
箪笥の引き出しを開けると、中には赤い服を中心とした女性の服が入っていた。
「これ、なんだろう……」
見たことがある。
この赤いシャツを着て、黒い足首までの細身のジーンズを穿いて、黒のヒールがよく似合っていた女性。
長い髪が綺麗だった……そこまで出かかっているのに、最後の最後が思い出せない。
「あと少しなのに、どうして……思い出せないの?」
喉元まで出かかっている答えが、酷くもどかしい。
他には何かないかと、シーツを外していくとホコリが土臭くむせ返る。
ケホケホと咳き込みながら、手で自分の周りのホコリを払いのけていたら、指が小さな金属に当りピンッと弾く様な音がした。
オルゴールの音が音を外しながら短く鳴る。
宝石箱のような形をした手の平サイズのオルゴール。
それは、もう一つの小さな白い箪笥の上に置いてあった。
「子供用の箪笥……かな?」
大人が使うには、少しばかりパステルカラーの花やファンシーな動物の絵が多かったのだ。
オルゴールを手に取り、蓋を開けると、中にはカサカサに水分が抜けてドライフラワーになってしまっているシロツメクサの指輪が入っていた。
壁に手を当て、もう片方には懐中電灯。
耳に痛いほどの静寂が、宿舎の外はどうなっているのか? と、私の気持ちをグラつかせる。
ここで立ち止まって、引き返したほうがいいのではないだろうか?
もしかしたら、もうすべてが終わっているかもしれない。そういった期待もある。
けれど、それならば二階堂さんがすぐに追ってくるだろ。
「どのくらい経ったんだろう?」
体感としては、五分は経ったと思うが実際はもっと短いかもしれないし、長くここにいるのかもしれない。
暗闇の怖さに、足を一歩進ませるのも時間がかかってしまう。
「私の、身内……か」
二階堂さんの言葉が頭を反芻する。
あの襲撃してきた少年が、私の身内……記憶のない私にとって、少年は手掛かりになるかもしれない。
しかし、皆の様子を見るに、歓迎はされてはいないようだ。
ジリッと自分のゆっくりと踏みしめる足音が響き、懐中電灯で照らした地面には、もう階段は無くなっていた。
懐中電灯で少し先を照らし、様子を伺うと、地面に白い線が引いてあった。
よく見れば、線ではなく文字が隙間なく書かれていた。
「何が書いてあるんだろう?」
文字……ではあるのだろうけれど、仏教系の曼陀羅文字というものだろうか? 漢字のようなそうではないような不思議な文字だった。
踏まないように文字を跨いで線の内側に入ると、辺りが白く穏やかな光で満たされた。
「うわぁ……」
真珠の光のような白い光で満たされた部屋は、小さな苗木が中央にあり、それを曼荼羅文字は囲っているようだった。
苗木は一メートルも無い小さな苗木で、この床の地面から生えていた。
元々は、大きな木があったのか、枯れてしまった木が苗木の横にあった。それは、とても懐かしい木だった。
手で枯れた木を触ると、目の奥が痛くなりじわりと涙が零れていく。
涙が床に落ちた時、カツン、パラパラ……と、小粒の真珠と小さな真珠がコロコロと床に散らばっていく。
「真珠……?」
涙を拭えば、自分の手に付いた物は真珠色の液体だった。
乾くと真珠の粉のようで、慌てて自分の目元を触るが、ゴロゴロと目の中を動く物もない。
苗木と枯れ木にばかり目を向けていて、気付かなかったけれど、この部屋の中は……何かを布で覆い隠している。
覆い隠すと言うより、ホコリが被らないようにシーツを上から掛けていると言うべきか?
「付喪神は、ここまでは来ていないんだね……」
シーツの上に積もったホコリを見て、調理場の食器棚の裏に隠されている場所なのだから、付喪神たちが来ないのも当たり前かと、小さく首を横にする。
シーツに手を掛けて外すと、そこには箪笥が置いてあった。
普通の木で作られた茶色い箪笥。しかし、それは使い込まれているのか古い物に感じる。
箪笥の下の方には、テレビでよく見る子供向けのアニメのシールがベタベタと貼ってある。
「子供……かな?」
こうした低い位置にシールを貼るのは子供特有の物だろう。
箪笥の引き出しを開けると、中には赤い服を中心とした女性の服が入っていた。
「これ、なんだろう……」
見たことがある。
この赤いシャツを着て、黒い足首までの細身のジーンズを穿いて、黒のヒールがよく似合っていた女性。
長い髪が綺麗だった……そこまで出かかっているのに、最後の最後が思い出せない。
「あと少しなのに、どうして……思い出せないの?」
喉元まで出かかっている答えが、酷くもどかしい。
他には何かないかと、シーツを外していくとホコリが土臭くむせ返る。
ケホケホと咳き込みながら、手で自分の周りのホコリを払いのけていたら、指が小さな金属に当りピンッと弾く様な音がした。
オルゴールの音が音を外しながら短く鳴る。
宝石箱のような形をした手の平サイズのオルゴール。
それは、もう一つの小さな白い箪笥の上に置いてあった。
「子供用の箪笥……かな?」
大人が使うには、少しばかりパステルカラーの花やファンシーな動物の絵が多かったのだ。
オルゴールを手に取り、蓋を開けると、中にはカサカサに水分が抜けてドライフラワーになってしまっているシロツメクサの指輪が入っていた。
0
お気に入りに追加
648
あなたにおすすめの小説
蛇のおよずれ
深山なずな
キャラ文芸
平安時代、とある屋敷に紅姫と呼ばれる姫がいた。彼女は非常に美しい容姿をしており、また、特殊な力を持っていた。
ある日、紅姫は呪われた1匹の蛇を助ける。そのことが彼女の運命を大きく変えることになるとは知らずに……。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
薄幸華族令嬢は、銀色の猫と穢れを祓う
石河 翠
恋愛
文乃は大和の国の華族令嬢だが、家族に虐げられている。
ある日文乃は、「曰くつき」と呼ばれる品から溢れ出た瘴気に襲われそうになる。絶体絶命の危機に文乃の前に現れたのは、美しい銀色の猫だった。
彼は古びた筆を差し出すと、瘴気を墨代わりにして、「曰くつき」の穢れを祓うために、彼らの足跡を辿る書を書くように告げる。なんと「曰くつき」というのは、さまざまな理由で付喪神になりそこねたものたちだというのだ。
猫と清められた古道具と一緒に穏やかに暮らしていたある日、母屋が火事になってしまう。そこへ文乃の姉が、火を消すように訴えてきて……。
穏やかで平凡な暮らしに憧れるヒロインと、付喪神なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:22924341)をお借りしております。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる