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一章
水色のリボン
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車が大型輸入雑貨や家具を置いている店の駐車場に停まり、自動でドアが開くとシートベルトもスルッと解ける。
「先ずは部屋に敷くカーペットかラグを見るか」
「はい。あの、予算はそんなに無いのですが……」
「朝、言っただろ? 引っ越し祝いと就職祝いだ。気にせず良い物を仕入れよう」
「良いんですか?」
「小さい子を甘やかすのは、大人の特権だ」
「私、子供じゃないんですけど……でも、ありがとうございます」
お金が心許ない事もあり、御守さんが買ってくれるというのならば、買ってもらおう。
朝の魚市場で鰤を買ってしまった為に少しばかりお財布は軽い。
それに、御守さんは先程二百年位と言っていた事から、年上過ぎて私を子供扱いしてもおかしくは無いのだろう。
箱型の大きな店は、海外からの輸入品が多い為に英語表記の物が多い。
二階のインテリアコーディネートの場所では、コンセプトに合わせた部屋が四畳程の広さで展示してあり、御守さんが「こういう部屋はどうだ?」と聞いてくれる。
部屋の敷物から家具や小物、カーテンまで全て展示してある物は、このお店にあるので揃えられるし、イメージもしやすい為に、こちらとしても助かる売り方でもある。
「可愛いですけど、流石に子供っぽくないですか?」
「そうか? こういうのが好きだったと思ったんだが……」
動物の絵が描いてあるパステルカラーのデザインの部屋に、私は眉を下げて首を振る。
子供なら喜ぶだろうけど、流石にここまでは子供ではない。
「色は何色が好きなんだ?」
「えっと……水色……でしょうか?」
特に好きな色という物はないけれど、空の色が好きだから、水色と答える。
「そうか……」
嬉しそうな顔で目を細めた御守さんに私は小さく、首を傾げる。
御守さんがキョロキョロと他の部屋のコーディネートルームを見て歩くのを後ろからついて歩き、そして御守さんの長い髪を縛っている紐というより、リボンが薄く汚れてはいるけれど、水色だという事に気付いた。
どう見ても、御守さんには不似合いな女の子がする様なリボン。
あのリボンは__炎で燃えたはずだ。
「え?」
頭の中に御守さんがしているリボンが燃えた映像が浮かんだ。
ドッドッと心臓が早く打つ。
なんの記憶だろう今のは……小さな手が、リボンに伸ばされ、燃えるリボンを見ていた。
いつも見る、あの炎の夢。でも、これは見たことが無い。
「麻乃? 立ち止まってどうした?」
振り向いて私に駆け寄る御守さんに、私は見覚えがあった。
この人を知っている。
でも、違和感がある。私の知っている、この人は__知っている? どこで? 私は何処で御守さんに会っていた?
私を覗き込んできた御守さんの顔が、記憶の中で何かと合致した。
「髪が……短かった……」
「髪? 麻乃?」
「そう、スイの髪は、短かった……」
「!?」
そうだ。
スイだ。私はスイを知っている。
水色のリボン、約束のリボンは二つあった。
私の水色のリボンは燃えて無くなってしまったけれど、もう一つはスイにあの日、持っていてもらった物だ。
ああ、記憶が、断片的に引き出されては、ゴチャゴチャになっていく。
「麻乃。思い出すな。今は、まだー……」
「どう、して……? 私は、あなたを知っているの?」
御守さんの手が私の両目を塞ぐ。
温かく大きな手に包み込まれると、何かが流れてきた。
ふわふわとした白い光のような物。
手が離れると、私の中にあった記憶が薄れていく。
忘れてはいけないと、御守さんのシャツを手にもったまま、気が遠くなっていく。
また、忘れるのは、嫌なのに……意識が保てずに体から力が抜けると御守さんに抱きとめられて、耳元で静かな声が囁いた。
「麻乃。悪いな。麻乃の為にも、まだ『おおかみ宿舎』で馴染んでから、思い出せ。ゆっくりと」
「先ずは部屋に敷くカーペットかラグを見るか」
「はい。あの、予算はそんなに無いのですが……」
「朝、言っただろ? 引っ越し祝いと就職祝いだ。気にせず良い物を仕入れよう」
「良いんですか?」
「小さい子を甘やかすのは、大人の特権だ」
「私、子供じゃないんですけど……でも、ありがとうございます」
お金が心許ない事もあり、御守さんが買ってくれるというのならば、買ってもらおう。
朝の魚市場で鰤を買ってしまった為に少しばかりお財布は軽い。
それに、御守さんは先程二百年位と言っていた事から、年上過ぎて私を子供扱いしてもおかしくは無いのだろう。
箱型の大きな店は、海外からの輸入品が多い為に英語表記の物が多い。
二階のインテリアコーディネートの場所では、コンセプトに合わせた部屋が四畳程の広さで展示してあり、御守さんが「こういう部屋はどうだ?」と聞いてくれる。
部屋の敷物から家具や小物、カーテンまで全て展示してある物は、このお店にあるので揃えられるし、イメージもしやすい為に、こちらとしても助かる売り方でもある。
「可愛いですけど、流石に子供っぽくないですか?」
「そうか? こういうのが好きだったと思ったんだが……」
動物の絵が描いてあるパステルカラーのデザインの部屋に、私は眉を下げて首を振る。
子供なら喜ぶだろうけど、流石にここまでは子供ではない。
「色は何色が好きなんだ?」
「えっと……水色……でしょうか?」
特に好きな色という物はないけれど、空の色が好きだから、水色と答える。
「そうか……」
嬉しそうな顔で目を細めた御守さんに私は小さく、首を傾げる。
御守さんがキョロキョロと他の部屋のコーディネートルームを見て歩くのを後ろからついて歩き、そして御守さんの長い髪を縛っている紐というより、リボンが薄く汚れてはいるけれど、水色だという事に気付いた。
どう見ても、御守さんには不似合いな女の子がする様なリボン。
あのリボンは__炎で燃えたはずだ。
「え?」
頭の中に御守さんがしているリボンが燃えた映像が浮かんだ。
ドッドッと心臓が早く打つ。
なんの記憶だろう今のは……小さな手が、リボンに伸ばされ、燃えるリボンを見ていた。
いつも見る、あの炎の夢。でも、これは見たことが無い。
「麻乃? 立ち止まってどうした?」
振り向いて私に駆け寄る御守さんに、私は見覚えがあった。
この人を知っている。
でも、違和感がある。私の知っている、この人は__知っている? どこで? 私は何処で御守さんに会っていた?
私を覗き込んできた御守さんの顔が、記憶の中で何かと合致した。
「髪が……短かった……」
「髪? 麻乃?」
「そう、スイの髪は、短かった……」
「!?」
そうだ。
スイだ。私はスイを知っている。
水色のリボン、約束のリボンは二つあった。
私の水色のリボンは燃えて無くなってしまったけれど、もう一つはスイにあの日、持っていてもらった物だ。
ああ、記憶が、断片的に引き出されては、ゴチャゴチャになっていく。
「麻乃。思い出すな。今は、まだー……」
「どう、して……? 私は、あなたを知っているの?」
御守さんの手が私の両目を塞ぐ。
温かく大きな手に包み込まれると、何かが流れてきた。
ふわふわとした白い光のような物。
手が離れると、私の中にあった記憶が薄れていく。
忘れてはいけないと、御守さんのシャツを手にもったまま、気が遠くなっていく。
また、忘れるのは、嫌なのに……意識が保てずに体から力が抜けると御守さんに抱きとめられて、耳元で静かな声が囁いた。
「麻乃。悪いな。麻乃の為にも、まだ『おおかみ宿舎』で馴染んでから、思い出せ。ゆっくりと」
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