10 / 45
一章
水色のリボン
しおりを挟む
車が大型輸入雑貨や家具を置いている店の駐車場に停まり、自動でドアが開くとシートベルトもスルッと解ける。
「先ずは部屋に敷くカーペットかラグを見るか」
「はい。あの、予算はそんなに無いのですが……」
「朝、言っただろ? 引っ越し祝いと就職祝いだ。気にせず良い物を仕入れよう」
「良いんですか?」
「小さい子を甘やかすのは、大人の特権だ」
「私、子供じゃないんですけど……でも、ありがとうございます」
お金が心許ない事もあり、御守さんが買ってくれるというのならば、買ってもらおう。
朝の魚市場で鰤を買ってしまった為に少しばかりお財布は軽い。
それに、御守さんは先程二百年位と言っていた事から、年上過ぎて私を子供扱いしてもおかしくは無いのだろう。
箱型の大きな店は、海外からの輸入品が多い為に英語表記の物が多い。
二階のインテリアコーディネートの場所では、コンセプトに合わせた部屋が四畳程の広さで展示してあり、御守さんが「こういう部屋はどうだ?」と聞いてくれる。
部屋の敷物から家具や小物、カーテンまで全て展示してある物は、このお店にあるので揃えられるし、イメージもしやすい為に、こちらとしても助かる売り方でもある。
「可愛いですけど、流石に子供っぽくないですか?」
「そうか? こういうのが好きだったと思ったんだが……」
動物の絵が描いてあるパステルカラーのデザインの部屋に、私は眉を下げて首を振る。
子供なら喜ぶだろうけど、流石にここまでは子供ではない。
「色は何色が好きなんだ?」
「えっと……水色……でしょうか?」
特に好きな色という物はないけれど、空の色が好きだから、水色と答える。
「そうか……」
嬉しそうな顔で目を細めた御守さんに私は小さく、首を傾げる。
御守さんがキョロキョロと他の部屋のコーディネートルームを見て歩くのを後ろからついて歩き、そして御守さんの長い髪を縛っている紐というより、リボンが薄く汚れてはいるけれど、水色だという事に気付いた。
どう見ても、御守さんには不似合いな女の子がする様なリボン。
あのリボンは__炎で燃えたはずだ。
「え?」
頭の中に御守さんがしているリボンが燃えた映像が浮かんだ。
ドッドッと心臓が早く打つ。
なんの記憶だろう今のは……小さな手が、リボンに伸ばされ、燃えるリボンを見ていた。
いつも見る、あの炎の夢。でも、これは見たことが無い。
「麻乃? 立ち止まってどうした?」
振り向いて私に駆け寄る御守さんに、私は見覚えがあった。
この人を知っている。
でも、違和感がある。私の知っている、この人は__知っている? どこで? 私は何処で御守さんに会っていた?
私を覗き込んできた御守さんの顔が、記憶の中で何かと合致した。
「髪が……短かった……」
「髪? 麻乃?」
「そう、スイの髪は、短かった……」
「!?」
そうだ。
スイだ。私はスイを知っている。
水色のリボン、約束のリボンは二つあった。
私の水色のリボンは燃えて無くなってしまったけれど、もう一つはスイにあの日、持っていてもらった物だ。
ああ、記憶が、断片的に引き出されては、ゴチャゴチャになっていく。
「麻乃。思い出すな。今は、まだー……」
「どう、して……? 私は、あなたを知っているの?」
御守さんの手が私の両目を塞ぐ。
温かく大きな手に包み込まれると、何かが流れてきた。
ふわふわとした白い光のような物。
手が離れると、私の中にあった記憶が薄れていく。
忘れてはいけないと、御守さんのシャツを手にもったまま、気が遠くなっていく。
また、忘れるのは、嫌なのに……意識が保てずに体から力が抜けると御守さんに抱きとめられて、耳元で静かな声が囁いた。
「麻乃。悪いな。麻乃の為にも、まだ『おおかみ宿舎』で馴染んでから、思い出せ。ゆっくりと」
「先ずは部屋に敷くカーペットかラグを見るか」
「はい。あの、予算はそんなに無いのですが……」
「朝、言っただろ? 引っ越し祝いと就職祝いだ。気にせず良い物を仕入れよう」
「良いんですか?」
「小さい子を甘やかすのは、大人の特権だ」
「私、子供じゃないんですけど……でも、ありがとうございます」
お金が心許ない事もあり、御守さんが買ってくれるというのならば、買ってもらおう。
朝の魚市場で鰤を買ってしまった為に少しばかりお財布は軽い。
それに、御守さんは先程二百年位と言っていた事から、年上過ぎて私を子供扱いしてもおかしくは無いのだろう。
箱型の大きな店は、海外からの輸入品が多い為に英語表記の物が多い。
二階のインテリアコーディネートの場所では、コンセプトに合わせた部屋が四畳程の広さで展示してあり、御守さんが「こういう部屋はどうだ?」と聞いてくれる。
部屋の敷物から家具や小物、カーテンまで全て展示してある物は、このお店にあるので揃えられるし、イメージもしやすい為に、こちらとしても助かる売り方でもある。
「可愛いですけど、流石に子供っぽくないですか?」
「そうか? こういうのが好きだったと思ったんだが……」
動物の絵が描いてあるパステルカラーのデザインの部屋に、私は眉を下げて首を振る。
子供なら喜ぶだろうけど、流石にここまでは子供ではない。
「色は何色が好きなんだ?」
「えっと……水色……でしょうか?」
特に好きな色という物はないけれど、空の色が好きだから、水色と答える。
「そうか……」
嬉しそうな顔で目を細めた御守さんに私は小さく、首を傾げる。
御守さんがキョロキョロと他の部屋のコーディネートルームを見て歩くのを後ろからついて歩き、そして御守さんの長い髪を縛っている紐というより、リボンが薄く汚れてはいるけれど、水色だという事に気付いた。
どう見ても、御守さんには不似合いな女の子がする様なリボン。
あのリボンは__炎で燃えたはずだ。
「え?」
頭の中に御守さんがしているリボンが燃えた映像が浮かんだ。
ドッドッと心臓が早く打つ。
なんの記憶だろう今のは……小さな手が、リボンに伸ばされ、燃えるリボンを見ていた。
いつも見る、あの炎の夢。でも、これは見たことが無い。
「麻乃? 立ち止まってどうした?」
振り向いて私に駆け寄る御守さんに、私は見覚えがあった。
この人を知っている。
でも、違和感がある。私の知っている、この人は__知っている? どこで? 私は何処で御守さんに会っていた?
私を覗き込んできた御守さんの顔が、記憶の中で何かと合致した。
「髪が……短かった……」
「髪? 麻乃?」
「そう、スイの髪は、短かった……」
「!?」
そうだ。
スイだ。私はスイを知っている。
水色のリボン、約束のリボンは二つあった。
私の水色のリボンは燃えて無くなってしまったけれど、もう一つはスイにあの日、持っていてもらった物だ。
ああ、記憶が、断片的に引き出されては、ゴチャゴチャになっていく。
「麻乃。思い出すな。今は、まだー……」
「どう、して……? 私は、あなたを知っているの?」
御守さんの手が私の両目を塞ぐ。
温かく大きな手に包み込まれると、何かが流れてきた。
ふわふわとした白い光のような物。
手が離れると、私の中にあった記憶が薄れていく。
忘れてはいけないと、御守さんのシャツを手にもったまま、気が遠くなっていく。
また、忘れるのは、嫌なのに……意識が保てずに体から力が抜けると御守さんに抱きとめられて、耳元で静かな声が囁いた。
「麻乃。悪いな。麻乃の為にも、まだ『おおかみ宿舎』で馴染んでから、思い出せ。ゆっくりと」
0
お気に入りに追加
648
あなたにおすすめの小説
蛇のおよずれ
深山なずな
キャラ文芸
平安時代、とある屋敷に紅姫と呼ばれる姫がいた。彼女は非常に美しい容姿をしており、また、特殊な力を持っていた。
ある日、紅姫は呪われた1匹の蛇を助ける。そのことが彼女の運命を大きく変えることになるとは知らずに……。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
薄幸華族令嬢は、銀色の猫と穢れを祓う
石河 翠
恋愛
文乃は大和の国の華族令嬢だが、家族に虐げられている。
ある日文乃は、「曰くつき」と呼ばれる品から溢れ出た瘴気に襲われそうになる。絶体絶命の危機に文乃の前に現れたのは、美しい銀色の猫だった。
彼は古びた筆を差し出すと、瘴気を墨代わりにして、「曰くつき」の穢れを祓うために、彼らの足跡を辿る書を書くように告げる。なんと「曰くつき」というのは、さまざまな理由で付喪神になりそこねたものたちだというのだ。
猫と清められた古道具と一緒に穏やかに暮らしていたある日、母屋が火事になってしまう。そこへ文乃の姉が、火を消すように訴えてきて……。
穏やかで平凡な暮らしに憧れるヒロインと、付喪神なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:22924341)をお借りしております。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる