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一章

あやしい怪しい

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 黒髪にミスマッチな銀色の耳と尻尾。
しかし、動物のそれと同じで生きている様に動く……最新技術か何かのコスプレですか? ハロウィンですか? 時期じゃないですよ? 色々と聞いてみたいけれど、何と言って良いのか分からない。
趣味だったら……これから買い物に一緒に行くのに、横にコスプレのケモ耳男性が横にいるという感じだろうか?
目線を反らして、廊下の床を見れば、小さな何かと目が合う。

 ぼんやりした 輪郭りんかくがよく分からない手の平サイズの……茶色い物……タワシ?
タワシが足元をウロチョロ歩いている。

「な……た、タワシ……」
「ん、ああ。 付喪神つくもがみたちだな。部屋の掃除をして回っているのだろう」
「付喪神って、妖怪のアレですか……?」
「ああ。長い年月を得て、神や精霊が宿る あやかしだな」

 『透明人間』とか図書館で色々調べていたから、付喪神は知っているけど……でも、でも! 現実にそんな物いる?
サラッと御守さんは流して喋っているけれど、妖怪ですよ? 妖ですよ? 大丈夫なんだろうか?
他にも宿舎のあちらこちらに、何だかさっきまでは見えていなかったものが見える気がする。

「あの……、妖って……」
「ここはそういう場所だからな。泉田に聞いていなかったのか?」
「あ、はい……と、いうか……えーと、私を 揶揄からかっているとかではなく?」

 御守さんが立ち止まり、振り向くと顎に指を置いて少しだけ首を傾げる。
そして頭の上の耳をピコピコ動かすと、私は頭の上の耳を凝視してしまい、御守さんはニッと口元を緩めた。

「オレの耳が見えているなら、この宿舎で力を吸収できている証拠だ」
「……? 宿舎で力を吸収?」
「この『おおかみ宿舎』は、妖達が多い。その為に妖力の溜まり場になっている」
「お、お化け屋敷……?」

 クッと御守さんが笑い、楽しそうに尻尾が揺れる。
けれど、この説明ではお化け屋敷だと思っても仕方がないと思うのだけれど、何か違うのだろうか?
私が眉を ひそめると、足元を何かヌルッとした物が当たった。

「きゃっ!」

 足元をドテドテと黒くヌルヌルしている物が前脚を動かし移動している。
どう見ても……水族館にいる生き物、アシカにしか見えない。

「  紫陽花あじさい、ちゃんと前を見て歩け」
「はいよー。ごめんよー。急いでんのさー」
「まったく。大丈夫か? 麻乃」

 紫陽花と呼ばれたアシカはのんびりとした声で、再びドテドテと廊下を進んでいく。

「あ、アシカ! 御守さん! アシカが!」
「あいつは、海禿うみかぶろ。佐渡島で海にいたアシカを妖怪だと思って人々が、そう呼んだことから生まれた妖だ」
「アシカなのに? 妖?」
「アシカに見えるが、人々が名付けてしまえば、妖というものは生まれる。我々はそういう生き物だ。人の恐怖や様々な見間違いや想い、空想といった類で生まれ続ける」

 我々……という事は、やはり御守さんも三角の耳や尻尾があるから、妖という事だろうか?
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