黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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完結後の番外編

アリルゥとお料理

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 ドラゴンの多く集まる大陸、温泉大陸のトリニアでは今日もドラゴンが飛び交い、温泉街の中でもドラゴン達が人々に紛れて歩いている。
 アリルゥ・トリニアは今年十六歳になった。
 アリルゥが十三歳になるまでに増えたドラゴンは三十五匹。
 元々温泉大陸に居たドラゴンの数を合わせると四十匹以上だ。
 
「アリルゥ、何しているの?」
「ピスターシュ。畑までお野菜を貰いに行くの。ついでに魔牛のお肉も貰いにね」
「ボクも行く」

 黒い一つ目のドラゴン、ピスターシュは人型になるとアリルゥより頭一つ分大きい。
 年齢はそう変わらない二人ではあるけれど、アリルゥは十六歳の平均身長より低く、母親のアカリに似てしまったのだろう。
 ピスターシュがアリルゥの手を握ると、二人は買い物かごをお互いに持つ。

「じゃあ、ついでに一緒にお料理もしよっか」
「お母さんも一緒?」
「ううん。母さんは父さんとデートしに行ってるの」
「そうなんだー」

 いつも通りトリニア夫婦の様子を思い浮かべ、ピスターシュは首を揺らす。
 二人は旧女将亭へのんびりと歩いて行き、両親の育てている畑から野菜を採っていく。
 野菜は玉ねぎとニンジンとジャガイモ。
 アカリが異世界移動で持ち込んで育てた地球産のもので、この世界では温泉大陸でのみ育てられている。
 温泉大陸の魔力がたっぷり染み込んでいて、魔力欠乏症の治療にも効果が出たぐらいだ。
 ピスターシュがジャガイモをポンポン土の中から掘り出し、アリルゥが魔法で出した水玉へ飛ばしていく。

「ピスターシュ。次はニンジン!」
「はーい」

 元気に畑の中を走るピスターシュの前に銀髪の狼獣人がニンジンを持ってひょっこり顔を出す。
 アイスブルーの目をした少年は、アリルゥよりも二つ上の十五歳になるフリーレンだ。
 獣人の国セスタから温泉大陸に時折やってくる昔からの友達で、ルーファスとアカリのようにフリーレンの親も狼獣人と異世界人の子供という共通点もある。

「レン! いつ来たの?」
「わぁ! レンだー」
「やぁ。ピスターシュ、アリルゥ。元気だった? さっきグリムレインに連れてこられてね」
「あー……ご愁傷様」

 フリーレンは父親のグーエン・テラスの氷属性魔法を引き継いでいる為に、グーエンの代わりに最近はグリムレインに訓練だと言って追いかけ回される事が多い。
 今回もグリムレインに連れてこられて、氷合戦をした後で温泉で汗を流して旧女将亭へ来たところだった。

「アリルゥ、今日は何か作るの?」
「うん。今日はビーフカレーを作るの」
「ボク、ビーフカレーもポークカレーもチキンカレーも好きだよ」

 スリスリとピスターシュがアリルゥの頬に擦り寄ると、フリーレンが笑顔で引き剥がしにかかる。
 ぐぬぬ……と、ピスターシュがジタバタと手を伸ばして嫌がるが、フリーレンは笑顔のままだ。

「レン。やめてよー! もう! もう!」
「ピスターシュがアリルゥに擦り寄るのが、悪いんですよ」
「レン、ピスターシュが可哀想だから、やめてあげて、ね?」

 コクコクと首を縦に振るピスターシュに、アリルゥに上目遣いでお願いされてはフリーレンも手を引っ込める。
 昔からフリーレンは、この三角耳もない人族のような二つ下のアリルゥが可愛くて仕方がない。
 最初の頃は、アリルゥの姉、コハルと仲が良かったのだが、コハルのワガママに振り回されているうちに喧嘩ばかりになってしまい、温泉大陸に行くのは止めようかとも思っていたが、アリルゥが来るのを楽しみにしていると言えば、グリムレインに連れてこられたとはいえ、来ることを止める事が出来なかった。

「あ、そうそう。出掛けに母さんからハーブコロッケを持たされてたんだ。カレーの上に載せて食べよっか」
「わぁ! わたし、ヒナコおばさんのコロッケ大好き! カレーと揚げ物の魅惑的なコラボレーションは最強だよね」
「ボクもコロッケとカレー大好き~」

 アリルゥとピスターシュが「ねー」と声を合わせ、カゴの中に野菜を回収する。
 三人は魔牛牧場へ行き、魔牛のブロック肉をトリニア家のツケで購入してから屋敷へと帰っていく。
 屋敷では、アリルゥによく似た双子の兄ルードニアがグリムレインを羽交い絞めにしていた。

「お兄ちゃん何してるの! もう、グリムレインを苛めないで!」
「仕方ないでしょ。父さんにあれだけセスタ国からホイホイ誘拐するなって言ってるのに、聞かないんだから!」
「やめい! 婿に似て力だけはあるのう。まぁ、嫁に似てチビッこいが……っ、痛っ!」

 背がひくい事を気にしているルードニアには禁句の言葉を言い、グリムレインはさらに絞めあげられて悲鳴を上げた。
 小さくても、獣人の能力である力強さが日々上がっているルードニアは、今では次兄のシュトラールよりあるぐらいだ。
 兄弟喧嘩も、アリルゥが仲裁しなければ血を見るまでやってしまう血の気の多さがある。
 そう、ルードニアもアリルゥにだけは逆らう事が出来ない一人だ。

「アリルゥ、おかえり。お腹空いちゃったんだけど、まだご飯じゃない?」
「スーお兄ちゃん、サクラお義姉ちゃんがご飯を作ってくれてるでしょ。自分のお家で食べて」
「サクラのご飯も好きだけど、やっぱりアリルゥのご飯がガッツリ食べたい」
「そう言われると悪い気はしない……けど、サクラお義姉ちゃんに悪いから、朝のパンで作ったラスクをあげるから帰って食べてね」
「はーい。サクラのお店が終わるの待たなきゃなぁ……」

 耳をションボリと下げて、スクルードはアリルゥに渡されたラスクを持って移動魔法で帰っていった。
 パタタタタと廊下の奥から足音がすると、小さな魔獣が二匹、居間へと入ってくる。

「ナンナーゥ、グルナーン」
「クルルーン」
「クロ、フェネシー。ただいま」

 アリルゥの足にスリスリと競い合うように擦りついて、クロとフェネシーは「おかえり」と体ごと歓迎した。
 二匹はアリルゥが大好きで、アカリよりも今はアリルゥ派なのである。
 ルードニアよりも小さく、アカリよりも背がひくいアリルゥは、どこか庇護欲をそそるのか、それともアリルゥ自身の魅力なのか、今のところアリルゥを前にして逆らうものはいない。

「アリルゥ、何かデザートでも作るよ」
「本当!? レンはヒナコさん譲りの料理の腕前だから、すっごく楽しみ!」
「じゃあ、二人で台所に行こうか」
「ボクも手伝うよ~」
「ピスターシュ、君はルードとグリムレインの相手をしてあげて下さい。お願いしますね」

 有無を言わさずフリーレンがアリルゥを連れて台所へと消えると、居間では残された三人と二匹が項垂うなだれる。
 そして「お前のせいだ」と言わんばかりに、グリムレインに蹴りを入れていく。
 アリルゥの作ったカレーが居間に運ばれる頃には、屋敷には見慣れた顔が座っていた。
 甥や姪にあたるエミールやシャル達が【刻狼亭】の昼休み休憩に昼食を食べにくる。
 長兄リュエールの息子レーネルは、今現在【刻狼亭】の跡継ぎとして修業中の為、なかなか来れないが、たまに来る時は手土産のオヤツを持って来るのでアリルゥに大歓迎される。それを見て皆、歯噛みするのだ。
 フリーレンはそこら辺は心得ているので、ヒナコ特製のコロッケや唐揚げを手土産にするようにしている。
 
「はーい。皆、揃ったね? では、いただきまーす!」

 アリルゥの声に、皆は口をそろえて「いただきます」と声を上げ、食べ始める。
 お昼ご飯は、サクサクのハーブコロッケに、コクのあるビーフカレー、干し柿を使った甘酸っぱい大根の漬物、フリーレンが作った甘さ控えめの抹茶を使ったババロア。
 美味しい匂いに街でデート中のルーファスは鼻を鳴らし、「今日は夕飯がカレーの家が多いだろうな」とクスリと笑い、アカリは「カレーコロッケも良いわね」と微笑んで寄り添って歩く。
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