黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
958 / 960
完結後の番外編

アリルゥとルードニアの沐浴 日常まったり編

しおりを挟む
 黒い目をパチパチと瞬きをさせて、十番目の子供ルードニアがルーファスを見上げる。
 双子の片割れである妹が傍に居なくても泣かないのは、大好きなお父さんが沐浴をさせてくれているからだ。
 母親のアカリが沐浴させると泣いてしまうので、ルードニアの沐浴はルーファスの係りなのである。
 逆にいえば、アリルゥの沐浴はアカリでなければ泣いてしまう為、アリルゥの沐浴係りはアカリだ。

「ルード、気持ちいいだろう」

 手でルードニアの体を優しく撫で、父子の語らいを試みる。
 獣人族の子供というより人族の子供そのもので、アカリの血を濃く受け継いでしまったのか、狼の耳も無ければ尻尾も無い。
 アカリの黒目黒髪をそのまま受け継ぎ、今までの子供の中で早産のティルナールのように小さい。
 しかし、アリルゥも同じように小さいため、二人そろえば気にならないサイズ感なのである。
 こうして一人ずつ扱う時に、小柄な子供だと改めて気付く。
 その分、ルーファスの手はいつも以上に丁寧に扱う。
 だからこそルードニアは父親が入れてくれる沐浴が好きなのである。

「くぁ~……」

 口を大きく開けて欠伸をするルードニアにつられて、ルーファスも欠伸を噛み殺す。
 ふるっと頭を振り眠気を飛ばすと、ルードニアを柔らかい布で包む。

「さて、アカリの方は終わったかな。なぁ、ルード」
「はぷ」
「あー、こらこら。オレの指を吸わないでくれ。食いしん坊め」

 ちゅっちゅと指に吸い付くルードニアにルーファスは困ったような顔で笑い、用意した小さな浴衣を片手で広げて着せる。
 
「ルーファス、ルードの沐浴は大丈夫だった?」
「ああ。そっちの沐浴はどうだった?」
「アリルゥはいい子にしてたよ、ねー」

 アカリの腕の中で、沐浴上がりにほんのり頬が色づいているアリルゥにルーファスも頷く。
 ルードニアと同じ様に狼の耳も尻尾も無いが、目だけはトリニア一族の金の目をした末娘はいい香りがする。

「アリルゥ。気持ち良かったか。んー、今日はメローネみたいな匂いがするな」
「うふふ。そうなの。ベビーソープを新しい匂いにしてみたの。だからご機嫌なのよ」
「本当にこの子は色んな匂いが好きだな」
 
 末娘アリルゥは匂いにうるさい子のようで、匂い付きの物が大好きだ。
 アカリがベビー用のボディシャンプー類を数多く集め、一つ一つアリルゥの前に持って行き、小さな手を伸ばしてお気に入りの一本をチョイスするまで繰り返される。
 その分、沐浴はそれまで開始できず、時間が掛るのだ。
 ルーファスは「もう子の匂いで良いんじゃないのか?」と押し切ろうとする為、一緒になって「このベビーソープはいい香りね。でもこっちも色も綺麗だし」と、悩んでくれるアカリの方がアリルゥは好きなのである。

「さぁ、ルード。アリルゥが来たぞ」
「良かったね。アリルゥ、ルードだよ」

 双子は、お互いに横に並べてやると機嫌よく手足をぱたぱたと動かして、満足そうに顔を笑顔にする。
 仲良しの双子にルーファスとアカリも微笑んで「うちの子は可愛い」と親ばか状態になったところで、コハルが部屋に顔を出した。
 
「ははうえ。ルーとアーは、ねんねした?」
「まだよ。湯冷ましを飲ませないといけないからね」
「うーっ」
「コハル。父上が遊んでやろう」
「それはやだぁ」
「コハル、父上は嫌か? 父上はコハルと遊んで欲しいんだがな」
「うー……ははうえがいいの」

 口をへの字にさせたコハルに、ルーファスとアカリは目で「任せた」と役割分担を即座に決める。
 アカリはコハルを抱きしめて、ルーファスは湯冷ましの哺乳瓶を用意して双子を両腕に抱く。

「さて、コハル。今日は何をして遊ぼうか?」
「えほん! ははうえ、えほんよんで!」
「絵本が良いの? おままごととか、お人形さん遊びじゃなくて良いの?」
「コハル、えほんをおぼえる! ルーとアーにおしえたげるの!」
「うんうん。コハルはすっかりお姉ちゃんだね。母上、張り切って絵本を読んじゃう!」
「やった!」
「さぁコハル、絵本をお部屋から持ってきて」

 まるでボールが弾むようにコハルは部屋から出て行く。
 小さな足音が二階に駆け上がっていく音に、ほんの少し前まで両親を我が物顔で独占していたコハルの成長ぶりにやはりルーファスとアカリは、うちの子は可愛いと微笑んで頷く。
 
「コハルにオレの絵本の読み聞かせは、お好みじゃないみたいだな」
「まぁまぁ。ルードとアリルゥにはルーファスが読み聞かせてあげれば良いじゃない」
「それはコハルに役目を譲ろう」
「それもそうね。コハルはお姉ちゃんになろうとしているのだものね」
「オレ達はコハルの応援をしながら、支援役に徹しよう」

 アカリにキスをしてから双子をアカリに渡す。コハルが絵本を両手に抱えきれずに廊下に絵本を落として歩くのを見て、苦笑いしつつ絵本を拾い集めに行く。
 笑顔でお気に入りの絵本を持ってコハルが頭の上に掲げる。

「これよんで!」
「いいよ。一緒に読もうか」

 絵本を広げてルードニアとアリルゥに見えるように手前に持って、コハルの尻尾がパタパタと揺れる。
 コハルの元気な声が絵本を読み聞かせ、「ははうえ、これなに?」と質問しつつ一生懸命な姿はお姉ちゃんになろうと幼いながらに微笑ましい。
 そのうち上手に読み聞かせ出来るようになるのだろうと、楽しみなルーファスとアカリだった。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。