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完結後の番外編
トリニア家の朝は今日も賑やか
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温泉大陸は今日も、朝から温泉の間欠泉の湯気で霧がかかった様になっている。
旧女将亭の窓から外を眺め、光竜アルビーは光沢のある鱗に朝日を反射する様に首を左右に振っていた。
すると、アルビーの光に反応する様に、チカチカと光が点滅する。
アルビーは窓から体を乗り出すと羽を広げ、空へと飛んでいく。
アルビーの行く先は言わずと知れた、刻狼亭の十五代目当主ルーファス・トリニアの自宅だ。
黒塗りの屋敷は広く、そこで住んでいるのは、ルーファスに番のアカリ、そして八番目の子供スクルードに九番目の子供コハル。今年生まれた十番目の男の子ルードニアと十一番目の女の子アリルゥ。
アカリの従者のハガネだ。
少し前までは他のドラゴン達も一緒に暮らしていたが、武術大会で出会った国の人々から知識を得ようと自由気ままに旅に出てしまった。
「おはよう。アルビー」
「おはよう。アカリ」
屋敷の洗濯物を干せる広い屋上で、割烹着姿のアカリとアルビーは挨拶を交わす。
先程のアルビーの鱗にチカチカと反応を示したのも、アカリだ。
腕輪で通信が出来るが、生後間もない双子は大変耳が良いために、あえて二人は声を出さないように光でやり取りをしている。
一人が泣きだせばもう一人も泣きだし、泣き止むまでが長い戦いになるからだ。
「今日もおしめが並んでいるね」
ハタハタと洗濯物干しには白い布が風になびいて、並んでいる。
三つ子の時の消費量より少ないとは思うものの、それでも他の衣類よりも白い布の率の方が多い。
「子供が生まれるとこうなるのは、風物詩みたいなものよね」
「コハルがおしめが早く取れて、良かったよねぇ」
「本当。あの子は他の子達よりも活発な分、成長も早いのかお喋りだし良く動くし、こうした事も早いのは助かってるのよね」
双子のお姉さんになると分かった時から、コハルは我が儘を少しだけ、そう、ほんの少しだけ控えるようになった。
むやみに植物を出して中に閉じこもってしまうこともギリギリのところで『お姉ちゃん』という立場で、自分にブレーキをかけるようになったのは、トリニア家にとっても、アカリ達親にとっても助かっている。
「アカリ、体はきつくない? 大丈夫?」
「それは大丈夫。流石に歳だから、子供の出産の後はきついかとおもったのだけど、思いの外、元気いっぱいだわ」
「それなら良かったよ」
「心配してくれてありがとう。私、昔からアルビーに心配かけているし、気持ち的にも支えてもらって助かってるの」
「そりゃ、アカリの弟分だからね」
「うふふ。そうね。出会ってから、ずーっと一緒だものね」
最初の出会いは、少しやり直したいけれど、それでも今があるから、あの時の出会いは間違いでは無いのだろう。
二人は温泉大陸の湯気の中から聞こえる温泉鳥の「アゴー」という可愛くない朝を告げる声に、盛大にお腹を鳴らす。
「お腹空いちゃった。今日の朝ご飯はなんだろうね」
「ハガネが美味しい物を作ってくれているわよ」
「楽しみ~」
洗濯籠を拾い上げ、二人は屋敷の中へと戻っていく。
トリニア家の台所は、今現在ハガネの戦場である。
使い古した手に馴染むフライパンを片手に、温泉鳥の卵を使ったベーコン入りオムレツを皿に載せていく。
その上に魔牛で作ったチーズソースをかけ、上から乾燥パセリを散らす。
「あっ! はがにゃ! パセリいれちゃダメェー!」
「あん? パセリぐれぇ食えるようになっとけ。お姉ちゃんだろ?」
「うぐぐ……! はがにゃ、それ、かんけーない!」
足をダンダンと踏み鳴らして嫌がるコハルに、ハガネは指先で軽くデコピンをする。
負けじとコハルがハガネの足にしがみ付き、頬をぷくっと膨らます。
「その暴力的なところは誰に似たんだよ? あー、大旦那だろうなぁ」
「コハルは、ははうえに! ちちうえにじゃないもっ!」
「おいおい。んな事言ってっと、大旦那が泣くぜ?」
「ちちうえ、なかないもっ!」
「そうかぁ? 俺ぁ、大旦那が泣くほうにコハルのオヤツを賭けても良いぜ?」
「ほほう? はがにゃ、おやつ三つ! 三つかけて!」
「欲張りだな、おい」
台所で楽しそうに賭けをする二人を横目に、アカリとアルビーは居間の方へと向かう。
居間では半目で両手に双子を抱いて眠そうにしているルーファスが、欠伸を噛み殺して胡坐をかいて座っていた。
「ルーファス、お疲れ様。一人預かるわ」
「ん、ああ。大丈夫だ。二人を引き離そうとすると、また大泣きされる」
「なら、ベビーベッドに寝かせるから、ルーファスも休んで」
「そうしたいんだが。腕から離そうとすると泣かれる」
「んーっ、でも抱き癖や、汗もが出来ても大変だしね。訓練していかなくっちゃ」
アカリがルーファスの腕から双子を取り上げると、慎重にベビーベッドへと運ぶ。
アルビーがその後ろで所在なさそうに手を出していいのかどうか悩みつつ、手を構える。
ベビーベッドに双子を置いて、アカリが「よし」と、ホッと安堵の息を吐いた。
次の瞬間、アリルゥの目がパチリと開き、居間に緊張が走る。
アリルゥの金色の両目が小さく動いて、隣の片割れルードニアを確認した。
安心したようにまた目が閉じられ、口元が少しだけふにふにと動いて眠りにつく。
「セーフ……」
「緊張するね」
「ミルクの二時間おきと、大泣きはすさまじいからな……」
アルビーとアカリとルーファスが緊張の糸を解くと、縁側から黒い三角耳がヒョッコリ出てくる。
庭で一人朝の体術訓練をしていたスクルードだ。
水玉で手足を洗い、顔を洗うと乾燥魔法を使って縁側から居間へと入ってくる。
「いらっしゃい、アルビー」
「スー。今日も元気そうだね」
「うん。おれ、元気だよ」
小声で二人が挨拶を交わし、仲良く並んで朝食用のお茶を淹れる。
それを見て、ルーファスが目を細めて頷き、隣に座ったアカリの肩に頭を乗せた。
「ルーファス、朝食まで少し寝てて。ミルクをあげるのに夜中も起きていたでしょ」
「んー……まぁ、大丈夫だ。大丈夫」
「頭が回っていないでしょ。まったく、私を起こしてって言っているのに」
「アカリは産後だ。もうしばらく休んでいていい」
「とっくに床上げも終わって、体力も戻っていますよ」
頭を擦りつけてルーファスは目を閉じて微睡む。
アルビーとスクルードは顔を見合わせて、音を立てないように静かに食器を並べ始める。
スパーンッと勢いよく居間の襖が開く。
「ごはーんだよー!」
元気な声でコハルが登場し、スクルードが指で静かにするように人差し指を立てる。
コハルも手を口で覆い、「しまった!」と大きな目をくるくるさせた。
そしてアカリとルーファスを見る。二人は、ベビーベッドに目線を剥ける。
「ふ……」
「ひゃ……」
小さな声がカウントダウンを告げた。
そう、大泣き前のカウントダウンである。
双子の泣き声の大合唱が屋敷に響き渡り、声の大きさにコハルもスクルードも耳を両手で塞ぐ。
この双子、獣人の耳には痛いぐらいの泣き声の音波を出すのである。
この声の大きさに、トリニア家の長男、次男、長女は、親元で自分の子供を預ける事をほぼしなくなったのも記憶に新しい。
「今日も元気が良いこったな」
「ハガネはなんともないの?」
「俺は魔法で音波は遮断してっからな」
「それ、ルーファスや子供達にもしてあげて」
「他人の耳の調整加減は難しいから、自分だけだぜ?」
ハガネがニシシと笑い、双子をあやし始めると、魔法の手のように双子は泣くのをやめていく。
はぁー……と、誰からともなく息が洩れ、コハルとスクルードは耳をグシグシと手でこね回した。
「んで、大旦那。今の気分は?」
「そうだな。騒がしいながらも、元気な証拠。ただし、オレは泣きそうだ」
「ニシシ。だってよ。コハル。コハルの今日のオヤツは、パセリだな」
「はがにゃ、いじわる!!」
ハガネの足を蹴りながらコハルが悲壮な顔をして、アカリに注意されるまで二人のじゃれ合いは続いていた。
そして、本日の三時のオヤツは、パセリを混ぜ込んだ餡子餅だったのはいうまでもない。
旧女将亭の窓から外を眺め、光竜アルビーは光沢のある鱗に朝日を反射する様に首を左右に振っていた。
すると、アルビーの光に反応する様に、チカチカと光が点滅する。
アルビーは窓から体を乗り出すと羽を広げ、空へと飛んでいく。
アルビーの行く先は言わずと知れた、刻狼亭の十五代目当主ルーファス・トリニアの自宅だ。
黒塗りの屋敷は広く、そこで住んでいるのは、ルーファスに番のアカリ、そして八番目の子供スクルードに九番目の子供コハル。今年生まれた十番目の男の子ルードニアと十一番目の女の子アリルゥ。
アカリの従者のハガネだ。
少し前までは他のドラゴン達も一緒に暮らしていたが、武術大会で出会った国の人々から知識を得ようと自由気ままに旅に出てしまった。
「おはよう。アルビー」
「おはよう。アカリ」
屋敷の洗濯物を干せる広い屋上で、割烹着姿のアカリとアルビーは挨拶を交わす。
先程のアルビーの鱗にチカチカと反応を示したのも、アカリだ。
腕輪で通信が出来るが、生後間もない双子は大変耳が良いために、あえて二人は声を出さないように光でやり取りをしている。
一人が泣きだせばもう一人も泣きだし、泣き止むまでが長い戦いになるからだ。
「今日もおしめが並んでいるね」
ハタハタと洗濯物干しには白い布が風になびいて、並んでいる。
三つ子の時の消費量より少ないとは思うものの、それでも他の衣類よりも白い布の率の方が多い。
「子供が生まれるとこうなるのは、風物詩みたいなものよね」
「コハルがおしめが早く取れて、良かったよねぇ」
「本当。あの子は他の子達よりも活発な分、成長も早いのかお喋りだし良く動くし、こうした事も早いのは助かってるのよね」
双子のお姉さんになると分かった時から、コハルは我が儘を少しだけ、そう、ほんの少しだけ控えるようになった。
むやみに植物を出して中に閉じこもってしまうこともギリギリのところで『お姉ちゃん』という立場で、自分にブレーキをかけるようになったのは、トリニア家にとっても、アカリ達親にとっても助かっている。
「アカリ、体はきつくない? 大丈夫?」
「それは大丈夫。流石に歳だから、子供の出産の後はきついかとおもったのだけど、思いの外、元気いっぱいだわ」
「それなら良かったよ」
「心配してくれてありがとう。私、昔からアルビーに心配かけているし、気持ち的にも支えてもらって助かってるの」
「そりゃ、アカリの弟分だからね」
「うふふ。そうね。出会ってから、ずーっと一緒だものね」
最初の出会いは、少しやり直したいけれど、それでも今があるから、あの時の出会いは間違いでは無いのだろう。
二人は温泉大陸の湯気の中から聞こえる温泉鳥の「アゴー」という可愛くない朝を告げる声に、盛大にお腹を鳴らす。
「お腹空いちゃった。今日の朝ご飯はなんだろうね」
「ハガネが美味しい物を作ってくれているわよ」
「楽しみ~」
洗濯籠を拾い上げ、二人は屋敷の中へと戻っていく。
トリニア家の台所は、今現在ハガネの戦場である。
使い古した手に馴染むフライパンを片手に、温泉鳥の卵を使ったベーコン入りオムレツを皿に載せていく。
その上に魔牛で作ったチーズソースをかけ、上から乾燥パセリを散らす。
「あっ! はがにゃ! パセリいれちゃダメェー!」
「あん? パセリぐれぇ食えるようになっとけ。お姉ちゃんだろ?」
「うぐぐ……! はがにゃ、それ、かんけーない!」
足をダンダンと踏み鳴らして嫌がるコハルに、ハガネは指先で軽くデコピンをする。
負けじとコハルがハガネの足にしがみ付き、頬をぷくっと膨らます。
「その暴力的なところは誰に似たんだよ? あー、大旦那だろうなぁ」
「コハルは、ははうえに! ちちうえにじゃないもっ!」
「おいおい。んな事言ってっと、大旦那が泣くぜ?」
「ちちうえ、なかないもっ!」
「そうかぁ? 俺ぁ、大旦那が泣くほうにコハルのオヤツを賭けても良いぜ?」
「ほほう? はがにゃ、おやつ三つ! 三つかけて!」
「欲張りだな、おい」
台所で楽しそうに賭けをする二人を横目に、アカリとアルビーは居間の方へと向かう。
居間では半目で両手に双子を抱いて眠そうにしているルーファスが、欠伸を噛み殺して胡坐をかいて座っていた。
「ルーファス、お疲れ様。一人預かるわ」
「ん、ああ。大丈夫だ。二人を引き離そうとすると、また大泣きされる」
「なら、ベビーベッドに寝かせるから、ルーファスも休んで」
「そうしたいんだが。腕から離そうとすると泣かれる」
「んーっ、でも抱き癖や、汗もが出来ても大変だしね。訓練していかなくっちゃ」
アカリがルーファスの腕から双子を取り上げると、慎重にベビーベッドへと運ぶ。
アルビーがその後ろで所在なさそうに手を出していいのかどうか悩みつつ、手を構える。
ベビーベッドに双子を置いて、アカリが「よし」と、ホッと安堵の息を吐いた。
次の瞬間、アリルゥの目がパチリと開き、居間に緊張が走る。
アリルゥの金色の両目が小さく動いて、隣の片割れルードニアを確認した。
安心したようにまた目が閉じられ、口元が少しだけふにふにと動いて眠りにつく。
「セーフ……」
「緊張するね」
「ミルクの二時間おきと、大泣きはすさまじいからな……」
アルビーとアカリとルーファスが緊張の糸を解くと、縁側から黒い三角耳がヒョッコリ出てくる。
庭で一人朝の体術訓練をしていたスクルードだ。
水玉で手足を洗い、顔を洗うと乾燥魔法を使って縁側から居間へと入ってくる。
「いらっしゃい、アルビー」
「スー。今日も元気そうだね」
「うん。おれ、元気だよ」
小声で二人が挨拶を交わし、仲良く並んで朝食用のお茶を淹れる。
それを見て、ルーファスが目を細めて頷き、隣に座ったアカリの肩に頭を乗せた。
「ルーファス、朝食まで少し寝てて。ミルクをあげるのに夜中も起きていたでしょ」
「んー……まぁ、大丈夫だ。大丈夫」
「頭が回っていないでしょ。まったく、私を起こしてって言っているのに」
「アカリは産後だ。もうしばらく休んでいていい」
「とっくに床上げも終わって、体力も戻っていますよ」
頭を擦りつけてルーファスは目を閉じて微睡む。
アルビーとスクルードは顔を見合わせて、音を立てないように静かに食器を並べ始める。
スパーンッと勢いよく居間の襖が開く。
「ごはーんだよー!」
元気な声でコハルが登場し、スクルードが指で静かにするように人差し指を立てる。
コハルも手を口で覆い、「しまった!」と大きな目をくるくるさせた。
そしてアカリとルーファスを見る。二人は、ベビーベッドに目線を剥ける。
「ふ……」
「ひゃ……」
小さな声がカウントダウンを告げた。
そう、大泣き前のカウントダウンである。
双子の泣き声の大合唱が屋敷に響き渡り、声の大きさにコハルもスクルードも耳を両手で塞ぐ。
この双子、獣人の耳には痛いぐらいの泣き声の音波を出すのである。
この声の大きさに、トリニア家の長男、次男、長女は、親元で自分の子供を預ける事をほぼしなくなったのも記憶に新しい。
「今日も元気が良いこったな」
「ハガネはなんともないの?」
「俺は魔法で音波は遮断してっからな」
「それ、ルーファスや子供達にもしてあげて」
「他人の耳の調整加減は難しいから、自分だけだぜ?」
ハガネがニシシと笑い、双子をあやし始めると、魔法の手のように双子は泣くのをやめていく。
はぁー……と、誰からともなく息が洩れ、コハルとスクルードは耳をグシグシと手でこね回した。
「んで、大旦那。今の気分は?」
「そうだな。騒がしいながらも、元気な証拠。ただし、オレは泣きそうだ」
「ニシシ。だってよ。コハル。コハルの今日のオヤツは、パセリだな」
「はがにゃ、いじわる!!」
ハガネの足を蹴りながらコハルが悲壮な顔をして、アカリに注意されるまで二人のじゃれ合いは続いていた。
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