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27章
ドラゴンハーレム4
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温泉大陸の中心部は、温泉街通りで幾つかの宿屋がある。
【黒狼亭】で営業の許可を取り、経営していくのだけれど……
「話にならないね。お客様がお帰りだよ」
「そんな……ッ!! 待ってくれ!」
我が家の長男にして、【黒狼亭】十六代目リュエールは、冷たい目線で他国から温泉宿の運営許可を求めに来た商人を摘まみ出そうとしている。
「お帰りは、あちら!」
「お帰りは、こちら!」
双子の狐獣人メビナとタマホメも加わり、追い出しにかかっている。
こうしたことは、たまーにあるのだけど……
ルーファスが当主の頃は、商人が空を飛んで追い出されるなんてこともあった。
ぶん投げる。と、言えばいいのかな? 獣化したルーファスが、子供達が喜ぶからと人を投げ飛ばして追い出すことがあって、それをしないだけリュエールはマシな対応をしている。
「ちちうえ、しゅごいねぇー」
「リューにぃ。しゅごいー!」
シャルちゃんとコハルが手を叩きながら、リュエールを褒めると尻尾がブンブンしていることから、私は察した。
ポーンと商人が空を飛び、子供達大喜びである。
「コラ。リューちゃん! 危ないことをしないの! もう。またうちに悪評が付くじゃない」
「手加減してるってば。それに娘と妹が喜ぶなら、多少はね」
「多少じゃないでしょ。医療費の請求をされても、母上は知りませんからね」
「大丈夫だって。それに、今の商人の経営方針が、どうもきな臭い。温泉大陸にいかがわしい宿屋が増えるのは、母上だって嫌でしょ?」
「うーん、まぁ、それはね。でも、必要悪のようなものは必要でしょう?」
一応、温泉大陸にも遊郭に似た場所はあるのよ。
ただ、厳格に取り締まっていて、基本的に芸子さんに近い人達が多い。
芸は売っても体は売らないという感じで、あとは、ラブホテル的な所もある。
若い頃にルーファスに連れて行ってもらったこともあるし、利用する人は結婚前の男女とか、家の中では子供の目が……という人に、旅行に来て盛り上がっちゃった人とかね。
こうした建物がないと、一般の宿屋に迷惑をかけてしまうし、犯罪率も高くなるから、らしい。
ルーファスの受け売りだけど、必要悪も時としては無くてはならない物なのだ。
「どうもね、大人の特殊性癖向けの店を作りたいんだとか……」
「それは駄目よ! 駄目ったら、駄目! メビナ、タマホメ。お塩撒いて! お塩!」
SMプレイなお店は駄目絶対!
特殊性癖の扉は、開かず閉じたままにしましょう。
ただでさえ、うちの従業員には危ない薬品を作るマッドサイエンティストがいるのだから。
「岩塩! 粗塩! 香草塩!」
「海塩! 藻塩! 清酒塩!」
「アーッ! メビナ、タマホメ! 香草塩と清酒塩は高いから止めて~!」
二人の持っているハーブたっぷりの塩と、お酒を使った塩を取り上げておく。
投げられては困る。お酒のお塩を作るのにどれだけ苦労したか……最近は温泉卵に清酒塩を付けて食べるのが、温泉大陸でトレンドとなっている。
ルーファスが『金箔を入れて貴族向けにしたらどうだ?』なんて言うから、金箔入りでお値段も高くなっているのよ!
「随分と賑やかだな」
「あ、ルーファス」
「じじしゃま!」
「ちちえー」
「父上。お疲れ様です」
本日は、温泉大陸外の国と会議のようなものがあって、ルーファスはそれに参加していた。
一応、国扱いされている為に、こうした事は年に何度かある。
「ルーファス。今回はどんな話し合いだったの?」
「国同士の保持している能力者の把握を提示しろだのなんだの、まぁ、いつも通りキャンキャン煩い話だったな」
「そんなものギルドに任せればいいじゃない?」
「それは言ったんだが、魔石が各地に散らばった事で新たに能力が上がった者や、うちの大陸にドラゴンが数多くいる事が、他の国には気に入らんらしい」
「小さいことを気にするのねぇ」
「まったくだ」
私とルーファスは、くだらない事を国同士の話し合いでよくするなぁという意見だったんだけど、数週間後に各国から、またもやお呼び出しが掛かって、温泉大陸にも旨味のあるはなしもあったからか……
世界の中心イルブールの街。そこで大規模な武術大会が開催される事が決定してしまった。
「「「行きたい! 行きたい! 参加したいぃぃ!」」」
そう叫ぶのは【黒狼亭】の従業員たちだ。
「お前等は、本当に戦闘狂ばかりだな……」
「だって、大旦那! ただで戦わせてくれる相手をくれる上に、賞品と賞金まで出るんですよ!」
「あらあら。あなた達、温泉大陸からの賞品も狙うつもりかしら?」
「大女将~! 温泉大陸の賞品が、温泉宿の経営権って本当ですか!?」
「そうよー。だから、もしあなた達に賞品を持っていかれると、従業員が減っちゃうのよね」
うちの大陸からは、温泉街に温泉宿を建てる経営権が賞品として出されている。
勿論、宿屋をしない場合は、温泉大陸への旅行券が十年分と交換である。
武術大会の参加は、国の威信をかけて行うものだけど、【黒狼亭】は猛者ばかりなので……この状況なのだ。
「オレは絶対に出る!」
シュトラールが元気に手を挙げて、リュエールに頭を叩かれているけど、シュトラールは回復魔法が優秀だし、参加してもいいとは思うのよね。まぁ参加の理由が『たまには父親らしいところを子供にも見せたい!』ってことらしい。
「シューは、駄目。変な所で母上に似て、余計なことに巻き込まれるから」
「「それって、どういうこと!」」
私とシュトラールが声を合わせてリュエールに抗議すると、リュエールならず他の従業員達まで首を横に振る。
「母上! 参加人数は六人だったよね? 一緒に出よう!」
「そうね! 母上も頑張るわ!」
頭の上に、のしっと重さが加わり、「駄目だからな」とルーファスの唸るような声がした。
「だってルーファス。リューちゃんったら、酷いのよ」
「アカリ……リューの言う通り、今まで色々巻き込まれてきただろう?」
「でも、こうして無事に元気よく生きているし、ヒドラのクリスタルで昔に比べたら、パワフル!」
「アーカーリー……」
「はい……すみません。調子に乗りました……でも、少しだけ、ワクワクしない?」
ルーファスが片眉を上げて、溜め息を吐く。
でもね、ルーファスだって楽しみにしているのは、尻尾が揺れているからバレているのよ?
【黒狼亭】で営業の許可を取り、経営していくのだけれど……
「話にならないね。お客様がお帰りだよ」
「そんな……ッ!! 待ってくれ!」
我が家の長男にして、【黒狼亭】十六代目リュエールは、冷たい目線で他国から温泉宿の運営許可を求めに来た商人を摘まみ出そうとしている。
「お帰りは、あちら!」
「お帰りは、こちら!」
双子の狐獣人メビナとタマホメも加わり、追い出しにかかっている。
こうしたことは、たまーにあるのだけど……
ルーファスが当主の頃は、商人が空を飛んで追い出されるなんてこともあった。
ぶん投げる。と、言えばいいのかな? 獣化したルーファスが、子供達が喜ぶからと人を投げ飛ばして追い出すことがあって、それをしないだけリュエールはマシな対応をしている。
「ちちうえ、しゅごいねぇー」
「リューにぃ。しゅごいー!」
シャルちゃんとコハルが手を叩きながら、リュエールを褒めると尻尾がブンブンしていることから、私は察した。
ポーンと商人が空を飛び、子供達大喜びである。
「コラ。リューちゃん! 危ないことをしないの! もう。またうちに悪評が付くじゃない」
「手加減してるってば。それに娘と妹が喜ぶなら、多少はね」
「多少じゃないでしょ。医療費の請求をされても、母上は知りませんからね」
「大丈夫だって。それに、今の商人の経営方針が、どうもきな臭い。温泉大陸にいかがわしい宿屋が増えるのは、母上だって嫌でしょ?」
「うーん、まぁ、それはね。でも、必要悪のようなものは必要でしょう?」
一応、温泉大陸にも遊郭に似た場所はあるのよ。
ただ、厳格に取り締まっていて、基本的に芸子さんに近い人達が多い。
芸は売っても体は売らないという感じで、あとは、ラブホテル的な所もある。
若い頃にルーファスに連れて行ってもらったこともあるし、利用する人は結婚前の男女とか、家の中では子供の目が……という人に、旅行に来て盛り上がっちゃった人とかね。
こうした建物がないと、一般の宿屋に迷惑をかけてしまうし、犯罪率も高くなるから、らしい。
ルーファスの受け売りだけど、必要悪も時としては無くてはならない物なのだ。
「どうもね、大人の特殊性癖向けの店を作りたいんだとか……」
「それは駄目よ! 駄目ったら、駄目! メビナ、タマホメ。お塩撒いて! お塩!」
SMプレイなお店は駄目絶対!
特殊性癖の扉は、開かず閉じたままにしましょう。
ただでさえ、うちの従業員には危ない薬品を作るマッドサイエンティストがいるのだから。
「岩塩! 粗塩! 香草塩!」
「海塩! 藻塩! 清酒塩!」
「アーッ! メビナ、タマホメ! 香草塩と清酒塩は高いから止めて~!」
二人の持っているハーブたっぷりの塩と、お酒を使った塩を取り上げておく。
投げられては困る。お酒のお塩を作るのにどれだけ苦労したか……最近は温泉卵に清酒塩を付けて食べるのが、温泉大陸でトレンドとなっている。
ルーファスが『金箔を入れて貴族向けにしたらどうだ?』なんて言うから、金箔入りでお値段も高くなっているのよ!
「随分と賑やかだな」
「あ、ルーファス」
「じじしゃま!」
「ちちえー」
「父上。お疲れ様です」
本日は、温泉大陸外の国と会議のようなものがあって、ルーファスはそれに参加していた。
一応、国扱いされている為に、こうした事は年に何度かある。
「ルーファス。今回はどんな話し合いだったの?」
「国同士の保持している能力者の把握を提示しろだのなんだの、まぁ、いつも通りキャンキャン煩い話だったな」
「そんなものギルドに任せればいいじゃない?」
「それは言ったんだが、魔石が各地に散らばった事で新たに能力が上がった者や、うちの大陸にドラゴンが数多くいる事が、他の国には気に入らんらしい」
「小さいことを気にするのねぇ」
「まったくだ」
私とルーファスは、くだらない事を国同士の話し合いでよくするなぁという意見だったんだけど、数週間後に各国から、またもやお呼び出しが掛かって、温泉大陸にも旨味のあるはなしもあったからか……
世界の中心イルブールの街。そこで大規模な武術大会が開催される事が決定してしまった。
「「「行きたい! 行きたい! 参加したいぃぃ!」」」
そう叫ぶのは【黒狼亭】の従業員たちだ。
「お前等は、本当に戦闘狂ばかりだな……」
「だって、大旦那! ただで戦わせてくれる相手をくれる上に、賞品と賞金まで出るんですよ!」
「あらあら。あなた達、温泉大陸からの賞品も狙うつもりかしら?」
「大女将~! 温泉大陸の賞品が、温泉宿の経営権って本当ですか!?」
「そうよー。だから、もしあなた達に賞品を持っていかれると、従業員が減っちゃうのよね」
うちの大陸からは、温泉街に温泉宿を建てる経営権が賞品として出されている。
勿論、宿屋をしない場合は、温泉大陸への旅行券が十年分と交換である。
武術大会の参加は、国の威信をかけて行うものだけど、【黒狼亭】は猛者ばかりなので……この状況なのだ。
「オレは絶対に出る!」
シュトラールが元気に手を挙げて、リュエールに頭を叩かれているけど、シュトラールは回復魔法が優秀だし、参加してもいいとは思うのよね。まぁ参加の理由が『たまには父親らしいところを子供にも見せたい!』ってことらしい。
「シューは、駄目。変な所で母上に似て、余計なことに巻き込まれるから」
「「それって、どういうこと!」」
私とシュトラールが声を合わせてリュエールに抗議すると、リュエールならず他の従業員達まで首を横に振る。
「母上! 参加人数は六人だったよね? 一緒に出よう!」
「そうね! 母上も頑張るわ!」
頭の上に、のしっと重さが加わり、「駄目だからな」とルーファスの唸るような声がした。
「だってルーファス。リューちゃんったら、酷いのよ」
「アカリ……リューの言う通り、今まで色々巻き込まれてきただろう?」
「でも、こうして無事に元気よく生きているし、ヒドラのクリスタルで昔に比べたら、パワフル!」
「アーカーリー……」
「はい……すみません。調子に乗りました……でも、少しだけ、ワクワクしない?」
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